Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

それぞれの帰宅

2013-08-08 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
建物の外に出ると、もう空はとっぷりと暮れていた。



雪は先輩の車の助手席に乗っている。

赤信号で止まった車中では、エンジンの音だけが響いている。



彼女は少し疲れていた。



眠気でボンヤリしながら、隣の彼を窺い見る。

彼もまた、雪と同様に疲れて見えた。



先ほどのカフェで掛かって来た電話を切った後から、先輩の口数は少なくなった‥。






信号は青に変わり、車は動き出す。

雪は流れ行く景色を見ながら、”青田淳の友達”だと言った男のことを考えていた。



先輩は「友達じゃない」と言っただけで、詳しい間柄については話してはくれなかった。

何か言い難い事情でもあるのだろう。

雪は地下鉄で不躾に話しかけてきたあの男が、先輩の友達でないことにも、

関わってはいけない部類の人だというのも納得していた。



しかし何の知り合いなんだろう?あのヤンキーみたいな粗野な男‥。

つながりが全く読めない。



雪は先輩をチラリと横目で見た。

気になること、聞きたいことは沢山あったが、その横顔は無言の拒絶を示している。







雪は見慣れた景色を窓の外に認めると、ここでいいですと言って車を停めてもらった。



下車した雪に、先輩は「疲れただろうからゆっくり休むといいよ」と気遣いの言葉を掛けた。

「晩御飯、一緒出来たら良かったんだけど、胃の調子が悪くてさ‥残念」



雪はお構いなく、と答えた後、彼に労いの言葉を掛けた。

「先輩こそ疲れてるんじゃないですか?運転気をつけて下さいね」



先輩はその言葉に、

ありがとうと言いながら力なく微笑んだ。



雪は先輩の車が見えなくなるまで見送ると、ゆっくりと帰路を歩き始めた。

映画も奢り、カフェも奢り、その他諸々‥これじゃあんまりだ‥



お茶代くらいは返さないと、と雪は考えながら歩いた。

灯り始めたネオンが、その道筋を照らしていた。




その頃、河村静香は一通のメールを打っていた。

久々なんだし顔出さない?あそぼ~^0^/



打ち終わると、後ろのソファに座る弟にお茶も出さず、己の肌の手入れを始める。



亮はメールを打っていた静香に対して、携帯使えてるじゃねーかと文句を言った。



というのも、亮は何回も静香の携帯に掛けていたのに無視されたのだ。

知らない番号は取らない主義だという静香は、悪びれる様子も無く肌の手入れを続けた。

「お互い生きてることが分かればいいじゃん。それで十分でしょ?」



その後、静香はもしかして亮がここに転がり込むつもりで訪れたのかと訝しがったが、

亮は生存確認に来ただけだ、とがなった。



それから亮は、このゴミ溜め散らかった部屋を見回して小言を言い始める。



お菓子とティッシュが同じ箱に入っていることへの疑問とか、

ここは女の住む部屋じゃなくまるでゴミ屋敷だとか、買い物袋が多すぎで無駄遣いしすぎだとか‥。

果ては仕事は見つかったのかと問い詰め、静香が「今就活中」と答えると、

「そんなこったろーと思ったぜ」と不敵な笑みを湛えた。



「お前自分の状況ちゃんと分かってんのか?もっと真剣に考えるべきだろ。

買い物ばっかしてる場合じゃねーだろうが!」


矢継ぎ早に繰り出される亮の小言の数々に、

静香はテーブルの上に置かれた亮の最新ケータイを指さすと、ここぞとばかりに指摘した。

「あんたこそ、その新しいケータイどうしたのよ?一体誰から金を巻き上げて買ったのかなぁ?」



いつも弟の金を巻き上げていた静香に言われたくないと握りこぶしを作る亮に、

あんたなんか公衆電話で十分だと言い捨てる静香。



久しぶりの姉弟喧嘩は、一瞬で時を超えて激しく火花を散らす。

しかし亮が「男ってもんはケータイと車はいいモノを持つべきだろ。無理してでもな!」と誇らしげに言うと、



静香は「女を物語るのは良い靴なのよ、だからお金を費やすの。借金してでもね!」と達観したように言った。


似たもの同士の二人は、近づくと弾けるように反発する。

まるで磁石の同じ極が、近づくと一定の距離を取るように。




ふいに静香の携帯が鳴った。先ほど青田淳に送ったメールの返事が届いたのだ。

なんで俺が行かなきゃいけない。二人で遊んで。俺は疲れた。 淳



ちぇ、と静香が舌打ちする。

亮は静香が淳に連絡を取ったことに対して怒りを露わにした。



久しぶりに三人で会おうと思ったのに、と言った静香に亮は呆れて口を開く。

「お前はバカか?あいつはお前なんかになんの関心もないっつーの!」



その言葉に、静香は逆上した。

「うっさいわねぇ!分かってるわよ!もう女子高生じゃないっつーの!

金持ちだしアピールすれば得することあるからしてるだけよ!好きでやってると思ってんの?!」








高校時代が頭を掠める。

淡い恋心。一生懸命描いた彼の絵。まだ幼い自分。

女として見られなくても、彼の一番近くに居た。

それでいいと思っていた‥。



静香は苛立ちを亮にぶつけた。

私に説教する立場じゃないだろと凄みながら。

「あんたはお金も無ければ能力も無い。あたしに靴どころか食事代一回出す甲斐性もないんじゃない?」



続けて静香は、淳が弟だったらどんなにいいかと言った。

その言葉に亮は腹が立ち、静香を指差しながら言う。

「たとえお前が大金持ちの親の元に生まれたとしても、淳と結婚なんて出来るわけねぇ!

お前は人間が腐ってっからな!」




その言葉に、静香は堪忍袋の緒が切れた。

大きく息を吸うと、あらん限りの声を出す。

「出てけぇ!!



その大声にマンションが揺れ、亮は静香に蹴り出された。

二度と顔見せんなと言われ、荷物もろとも外に放り出される。



しばし呆気に取られた亮だったが、落ち着くと怒りが沸々と沸いて来た。



「あの性悪女ぁぁ!



と彼のその声もまた、マンション中に響いたのだった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<それぞれの帰宅>でした。

激しい姉弟喧嘩ですね‥。互いの傷をえぐるような罵り合い。

二人の過去を知ってからここを読むと少し辛い‥。



次回は<噂>です。


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帰京の知らせ

2013-08-07 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
マンションの一室で、女は歌を歌っていた。

♪ごめんね まだ私を想ってくれてること知ってるよ♪



買ったばかりの靴はそのまま放置され、床には通販で届いた段ボールが片付けられないまま置かれている。

♪辛い思いをさせてごめんね いっそ憎んで忘れてほしい♪



テーブルの上には食べっぱなしのスナック菓子、開きっぱなしの雑誌、開けっ放しの調味料。

♪これ以上未練を見せないで 二度と私に会いに来ないで♪



女はソファに横たわりながら歌っていた。

長い爪が、空を彷徨うようにメロディに沿って動いている。



♪私のせいで傷つく姿はもう見たくない

「♪ひどぉぉい 女でごめ~んね!!」



女はそのフレーズに力を込めて歌うと、

喉を痛めたのか、ゴホゴホと咳き込みながらうずくまった。



咳はドアの外まで聞こえている。

扉の前に佇んだ男は、その咳を聞きながら呼び鈴を押した。



女は何回か呼び鈴が響いても、ダルさのあまり起き上がらなかった。

しかし頭の片隅に浮かんだ男の影に、咄嗟に身体を起こす。



急いで部屋を片付けなければならない。



ブラインドを締め、机の上に散らかった物は取り敢えず段ボールにぶち込んだ。

ピンポンピンポンと何度も響く呼び鈴に、返事をしながら女は見える所だけ早急に片付けを済ます。



急ぎ足で玄関まで行き、鏡を見て身なりを整え、



女はドアを開けた。

「連絡も無しに来るなんてどうしたの~?」



女はいつもよりオクターブ高い声を出したのだが、

ドアの前に現れた男を見て息を呑んだ。



「あーん?何だその裏声は。キモッ」



河村静香は、彼が最初誰か分からなかった。

しかしその声と口調で紛れもなくたった一人の弟だと分かった途端、

先ほどの笑顔は、跡形もなく吹っ飛んだ。

「ゲッ‥あんた‥亮?」



かくして姉弟は再会した。

河村亮が高校を中退して以来、実に八年ぶりの再会であった。













同じ頃、赤山雪は青田淳に連れて来られたカフェのメニュー表を前に、固まっていた。



ドリンク欄を見ているのだが、どれもこれも映画代と変わらない値段なのである。

雪は一番安いミルクティーを辛うじて頼むと、先輩に「今手持ちがあまりなくて‥」と小さな声で言った。



先輩は事も無げに、「俺のカードで払うから問題ないよ」と答え、二人はお茶を待つことにした。






二人は運ばれてきたミルクティーを飲みながら、映画についての感想を言い合った。



先輩は居眠りしていた雪をからかったりと、課題に関係ないことまで話して微笑む。

「けど今日は楽しかったよ。映画を観に来たってこと自体がさ」



そう言って笑顔を浮かべる先輩に、雪も週末外出するのは久しぶりだと言った。

楽しかった、と続けようとしたが、ある考えが最後までその言葉を口にするのを躊躇わせる。

「‥けど、彼女さんに悪いような?後輩と二人きりで映画なんて、怒られないんですか?」



その言葉に、青田淳は素っ頓狂な声を上げた。

「えっ?彼女?俺彼女なんて居ないよ?」



そんなこと誰から聞いたの?と言う先輩に、雪はしどろもどろに返答する。

「い、いや皆がそう言ってたんで‥私もてっきりそうなんだとばかり‥」



雪が「先輩には彼女が当たり前に居そうな感じなので、皆も誤解したんだと思います」と続けると

先輩は相槌を打ちながら、「まぁ想像するのは自由だからね」と言い、逆にこう尋ねて来た。

「で、そう言う雪ちゃんは?彼氏居るの?」



「はい?!」



雪はその質問の後、ダークな影を背負う。

「どっからどう見ても、彼氏居ないの丸わかりじゃないですか‥

学校に入り浸ってるし‥行くとこと言えば家と学校の無限ループ‥学校の地縛霊‥?




先輩はそんな雪を見て、「真面目で良いと思う」とフォローし、

自分も復学してからずっとそんな感じだと言った。

今は勉強が大事な時なんだからと。



しかし彼氏彼女が居ない二人がこんなにもフォローし合って、しかも二人は首席と次席‥。

その事実に雪と淳は笑いが堪えきれなかった。



クスクスと、長いこと二人はその自虐的会話に笑いが止まらない。



笑い合いながら、課題はなかなか進まなかったが、

二人の間には今までにないくらい、温かな空気が流れていた。




ミルクティーが無くなる頃、ようやく二人は課題に集中することが出来た。



資料調査の担当分担相談をしている時、

雪は遠くの席の男が被ったキャップを見て、あることを思い出す。



独特な雰囲気の、あの妙な男のことを。



雪は、”青田淳の友達”だと言った男のことを先輩に話した。

名前は分からないが、とりあえずうちの学科生ではなかったと。



先輩は、自分の友達が雪のことを知っているわけがないと、雪にその男の特徴を聞いた。

「喋り方がちょっと乱暴で背が高くて‥顔立ちが外国人みたいな‥」



雪がそこまで言った所で、先輩は押し黙った。



そのリアクションに、「え?心当たりがあるんですか?」と雪が聞くと、



先輩は、心当たりが無い訳ではないが、それっぽい男は今ここにはいないはずだと言う。


そんな折、先輩の携帯電話が鳴った。

着信画面を見て、一瞬先輩が躊躇する。



彼が電話に出ると、雪の辺りにまで聞こえる大音量で電話口の向こうの女の声が響いた。



どうやら女は興奮しているようで、先輩はその女の話す内容が聞き取れなかった。

淳がゆっくり話すよう言うと、ようやく落ち着いたらしい女は、今度は逆に言葉を区切りながらハッキリと言った。

その内容が、雪にも聞こえてきた。

「亮が帰って来たんだってば!亮が!」



亮?



聞いたことのない名前だった。

雪がそのまま成り行きを見守っていると、先輩は「あとでまた話そう」と言って電話を切った。



切り終わった携帯の画面を眺めながら、彼は深く溜息を吐いた。



その顔に、歪んだしかめっ面を表しながら。

雪はこんなにもあからさまに負の感情を出した彼を前に、目を見開いた。



しばし沈黙が二人を覆ったが、

先輩は何も言えない雪に対して「知り合いなんだけど、たまにこうなんだ」と下を向いたまま言った。



そして先ほど雪が話した、”青田淳の友達”だと言う男は、自分の友達じゃないと言う。



もしもまた近づいて来たら無視して、とも。

下手に関わるとろくなことがない、とも。



そうして彼は席を立った。

送って行くと言うので、雪も一緒にカフェを後にした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<帰京の知らせ>でした!


静香が家で歌っているのはコレです↓
「Tears」という題名です。静香も色々な色恋をしてきたんでしょうね‥。

[MV/Eng sub] So chan whee - Tears


次回<それぞれの帰宅>です。

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映画の前に(2)

2013-08-06 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)


雪は先輩に座って待ってて下さいと言うと、ポップコーンを買う列に並んだ。

ポップコーンの他に何か買った方がいいかな、でもそれだと逆に恩着せがましいかな‥



色々と考えながら、先輩の座っている辺りを見やった。



一人大人しく座っている先輩を、周りの人達は皆振り返ってチラ見していく。



先輩は雪を待つ間、ボンヤリしたり瞳を閉じたりして座っていた。

 

彼の近くに座っているカップルの、女性のほうがチラチラ淳の方を見ているので、彼氏の方は苛立っていたりした。

淳が気がついてそちらに振り向くと、彼の端麗さにカップルは二人共押し黙る。



雪はそんな先輩の周りで起こる出来事を、遠くからみつめていた。



あの人にとってはあれが普通なんだろうか。

自分にとっては現実味の無い出来事も、彼にとってはいつもの風景なのだ‥。



あの疲れて見える彼の表情。

雪は、それをいつか見たような気がした。


現実味が無いのは、今のこの状況もまたそうだった。

あんな先輩と映画を観に来るということ自体が、どこかリアルに欠けていた。



先輩は自分の方を窺っている雪に気がつくと、



ニッコリと微笑んだ。



そして雪も、つられて笑った。








キャラメルポップコーンとコーラ二つ持った雪を、手伝いに先輩が駆け寄った。

時計はもう開演時間を指していたので、そのまま二人は映画館の方へ歩いて行く。



雪は先ほどから気になっていた疑問を先輩にぶつけた。

「先輩、今日はなんだかボンヤリしてますね」



それを聞いた先輩は、「さっきゲームに集中しすぎちゃったからかな」と答えたが、

雪は「最初会った時からずっと疲れてるように見えるんですが‥」と続ける。



観念した先輩が唸った。

実は昨日乗り気のしない飲み会に無理矢理参加させられ、しこたま酒を飲まされたらしい。

未だに胃がキリキリする、と言うところを見ると、あの気だるさは二日酔いから来ていたらしかった。



見破られたことに対して、先輩は「恥ずかしいな」と言った。

雪は「なんか微妙に変だと思ったんです」と言って頭を掻く。

すると彼はこう言った。

「やっぱり鋭いね」



何気なく言った先輩の一言に、雪は少し引っかかった。

先輩は続けて「俺は結構鈍いからなぁ」ということを言って、さっきもちょっともどかしかったろうと謝った。

あの噛み合わなさを、彼もボンヤリとした頭の傍らで自覚していたのだろう。



クーポンを知らないとか、ハイタッチをしたことがないとか、そんなことは問題じゃないと雪は言った。

人それぞれ過ごしてきた時間や経験したことなど違うのだから、どうか気にしないで下さいと。

「人と人って、ある程度付き合ってみてこそ分かり合えるんだと思うんです。

最初から気が合う人なんていませんよ」







「そうかな?」と言う先輩に、「そうですよ」と雪が返す。

雪は、今でこそ大親友の聡美と自分だって最初はそんなんじゃ‥と言おうとしたが、

最初から気が合ったことを思い出して二の句を継げなくなった‥。



挙句しどろもどろになり、そういう人も居ればそうじゃない人も居る‥世の中色々人それぞれだと、

結論はどこに帰結するのかよく分からないまま尻すぼみになってしまった‥。



先輩はそんな雪を見て、「プハハハ!」と無邪気に笑う。



そんなに笑わなくても‥と言う雪に、だって面白いんだもんと笑う先輩。



雪はむず痒いような、変な気分だった‥。






映画が始まる前、先輩が雪に向かって言った。

「雪ちゃん、もしも俺が寝てたら起こしてな?一応課題だし」



「はい!任せて下さい!」



二日酔いの先輩に対して、後輩は元気よく返事をした。








映画は始まった。

内容はさすが授業の課題になるだけあって、啓蒙主義や市民革命など、お堅い歴史物である。

つ‥つまらん‥



さっきの威勢はどこへやら‥。

雪は早くも睡魔が襲ってくるのを感じた。



そんな雪の横で、先輩は真剣に画面を観ていた。

眠ることなく、ダレることなく。

そんな彼がふと隣を見ると、雪が舟を漕いでいる。



コックリコックリと、ヨダレを垂らしながらも眠気と戦っている雪を見て、淳は微笑んだ。



しかし見ていると、コックリコックリは段々軌道が大きくなり、

遂にはグラッと頭が落ちそうになった。

「雪ちゃん!」



思わず淳は雪の頭を押さえた。

そのまま逆の手で雪の肩を揺らし、何度か名前を呼ぶ。

すると雪はハッと目を覚ました。

「雪ちゃん、寝ちゃダメだって」



「課題出来なくなるよ」



すぐそこにある彼の顔。

雪は急激に意識が覚醒するのを感じた。

ガタッ!



小さく「ひぃっ」と言いながら、雪は体勢を整えた。

心臓がバクバク音を立てて踊っている。



そんな雪を見て、先輩が「急に話かけたから驚いちゃった?」と気遣った。

雪は超至近距離にあった先輩の顔に未だ動揺していたが、大丈夫ですと小さく答えた。


それ以降、雪は目を血走らせながら画面を食い入るように見た。



ふと隣の先輩を見ると、真剣な表情で観賞している。



さっき眠そうにしてたんじゃなかったっけ‥?



精神力が半端ないのか、課題がかかっているからなのかは定かではないが、

彼は瞬きもせずスクリーンを見つめている。



その端正な横顔に、じっと見つめていた雪は少し顔が赤らむのを感じて、目を逸らした。




集中集中と言い聞かせながら、その後つまらない映画を二人して見続けた。



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<映画の前に(2)>でした。

前回感じたピントのズレ‥。

それを雪は「人それぞれ経験してきたことや過ごしてきた時間は違う」からしょうがないと言いました。

その分、「ある程度付き合ってみてこそ分かり合うことが出来る」と。

価値観が違う相手でも共有する時間や経験を増やしていくことで分かり合うことが出来る‥。

雪のこの考え方は、すごく前向きで良いですね。



次回は<帰京の知らせ>です!


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映画の前に(1)

2013-08-05 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
約束の午後五時ジャスト。

雪は映画館のあるフロアに到着した。



急いで先輩の携帯に電話すると、彼は既に到着していて、

こっちこっちと雪に向かって手を振る。



結構待ちました?と聞く雪に、

先輩は前売りチケットを買おうと早めに来たんだと言った。



すると先輩は、雪の髪を見て目を丸くする。

「何か雰囲気が違うと思ったら髪型‥」「あ、来る前にちょっと‥」



そう答えようとした雪より早く、

「パーマかけなおしたの?いつにもましてモフモフだね」



と言って先輩は微笑んだ‥。

私の一時間を返せ‥とトホホな雪に向かって、先輩は続ける。

「俺は雪ちゃんの髪型かわいいと思うけどな」



「よく似合ってるよ」



雪は暫し固まった。



頬が赤らむ。



しかし続けて雪が取った行動は、

前売りチケットを買っておいてくれた先輩に、お金を渡すことだった。



けれど先輩は「いいって。今日は俺の奢り」と受け取ろうとしない。



「え‥だって前にケーキもご馳走になってるし、塾だって‥」と雪が戸惑うと、



「気にすんなって。先輩が後輩に映画一回奢るってだけのことなんだから」



と言って彼は微笑んだ。



雪はそれ以上言葉を続けられなかったが、それでは気が済まないので自分はポップコーンを買ってくると言った。

それも俺が買うよと言い出す先輩をなだめながら、カバンからあるものを取り出す。

チャラララッチャラーン!

「10%!5%じゃなく10%です!!キャラメルにも使えるんです!」




「‥‥‥‥」




( ゜д゜)ポカーン




「‥‥えーっと‥」



‥雪は説明した。

これはポップコーンが10%オフになるクーポンだと。

キャラメル味にも使えるお得なクーポンなんだと‥。



固まっていた先輩が、雪の説明を受けて笑顔になった。

「あぁ!クーポンね!知ってる知ってる!」



最初何の話かサッパリ分かんなかったと言う彼に、雪はなんだかドッと疲れた‥。



経営学科の人間が、こんなに金銭感覚無くて良いのだろうか‥。

無邪気に笑う彼を見て、雪は国の将来が不安になったのだった‥。




ふと見上げると、先輩が空を見つめてボンヤリとしていた。

しかし彼はすぐに腕時計へと視線を移すと、映画が始まるまでカフェにでも入ろうかと言った。



時間を見ると、カフェに入るのには微妙な時間だ。これではお金ももったいない。

そこで雪が提案したのは‥。



「たまに映画観に来た時に寄るんです。めっちゃ面白いですよ!」



彼が連れて来られたのは映画館に併設されたゲームセンターだった。

二人が前にしているのはシューティングゲームで、淳は見慣れないおもちゃの銃をマジマジと観察している。

「聡美と私はレベル2が限界なんですけどね。結構難しいんです」



雪がその言葉と共に思い出したのは、聡美と太一と一緒にゲーセンに寄った時のことだ。



人質も殺しちゃえ!とガンガン撃つだけの聡美と雪に、呆れる太一‥。



雪は先輩にやり方を説明した。

銃の撃ち方、身の隠し方、弾のチャージ方法。



たった一回の説明の後、ゲームは始まった。




ステージはレベル3。

かつて雪が見たことのない画面で、敵がバッタバッタと倒れていく。



雪はあんぐりと口を開けながら隣の彼を見ていた。







弾のチャージ、銃の構え方‥。

一連の動作は流れるようだった。

先ほどの一度きりの説明で、彼は完璧と言える動作でステージをクリアして行く。



その横顔は真剣そのもの。

雪は彼を眺めながら、ちょっとかっこいいかもと心の中で思った。



やがてゲーム画面では、「New Record!!」の文字が踊った。

スゴイスゴイと飛び跳ねる雪。

自分には見えすらしなかったのに、全部倒しちゃったと喜びながら。



「先輩マジ最~高~!」



そう言って、雪はハイタッチしようと片手を上げた。

しかし先輩は雪がおもちゃの銃を欲しがったと思って、それを差し出す。



「‥違いますよ‥ハイタッチです‥」



おずおずとそう言った雪に、先輩はおそるおそる片手を合わせた。

ポン‥‥






こんなむず痒いハイタッチは初めだ‥。

雪は先ほどからの度々の噛み合わなさを思って溜息を吐いた。


この後先輩は小銭が余ってるからもう一回やる?とゲーセンに残りかけたが、

雪が映画の時間が迫っていることに気がついて、二人は映画館に戻った。


雪の頭にクーポンのことが浮かび、ポップコーンを買いに売り場へ寄った。


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<映画の前に(1)>でした。

雪と先輩の噛み合わなさ、ピントのズレが浮き彫りになった回ですね。

特にゲーセン後のハイタッチの部分‥。

雪はきっとハイスコアを出した時には聡美と太一とハイタッチしてたんでしょう。

でも先輩はそんなことをしたことが無かった。きっとハイタッチも人生初。

クーポンを持ってくるような女の子とは、付き合ったことは無かったでしょう。

そんなピントのズレに遭遇する場面の「気まずさ」を、上手く書き出しているなぁと感じます。


次回は<映画の前に(2)>です!

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それぞれの準備

2013-08-04 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
週末の午後、雪は部屋に手持ちの服を並べて悩んでいた。



あれがいいか、それともこれか、カジュアル系がいいのか、フェミニンでいくか‥。

しかし見事にスカートが無いことに気が付き愕然とし、



愕然とした自分に対して青くなった。



今日の夕方、青田先輩と映画を観に行くのだ。

課題のためとはいえど、やはり男性と二人で映画館に出向くということに雪はソワソワしていた。



デートではない。決してデートなどではないが、気にしなすぎるのも逆に失礼。

雪はいつも爆発寸前の髪の毛を整えて行くことにした。



雪の髪は天然パーマで、セットしないと真っ直ぐにならないのだ。

結局一時間近くかけて整えられた髪の毛は、キレイにストレートになった。



これでなんとか格好がつく。

彼の隣りに並ぶのに、少しは相応しいだろうか。

雪の脳裏に、彼の横顔が浮かんだ。



彼は今年に入ってからというもの、とても良くしてくれている‥。



雪は鏡に映る自分の真っ直ぐな髪の毛を見て、

こんなことをする余裕すらなかった去年のことを、ぼんやり思い出した。



あの頃はストーカーまがいの横山からのストレスで、完全に気が立っていた‥。




髪の毛のうねりのように、その運命も大きく湾曲した去年。

信じられるものなど何も無かった。

泣き言を言える相手も、弱音を吐ける場所でさえ。

自身を取り巻くしがらみから、雪はたった一人で戦ってきた‥。










時計を見ると、すでに出かける時間を少し過ぎていた。

早く出なきゃと、雪がカーディガンを手に取ると、

さっきまで真っ直ぐだった髪の毛はボサボサと元に戻っていった‥。



そのままサンダルをつっかけ、駅までの道を歩く。



考え事は、色々あった去年のこと、その頃の青田先輩のこと‥。

去年の今頃は、今年こうして彼と映画に行くなんて考えもしなかった。

結局、彼が大きく変わったということなのか、それとも雪が彼を誤解していただけなのか‥。


雪は頭をぐしゃぐしゃと掻いて、余計なことは考えないようにしようと決めた。













同じ頃、公園のベンチで河村亮は横になっていた。



その様子を見て、女子高生たちがピーチクパーチク騒いでいる。

足長い、カッコイイ、という声に混じって、「イケメンホームレス」という言葉が聞こえてくると、

亮は起き上がって文句を言った。



しかし次の瞬間目の前に食べ物をぶら下げられた亮は、女子高生と和解することに決めた‥。







亮は女子高生の持っていた寿司にがっついた。



亮と並んで座った彼女たちは、キャイキャイ騒いだ。

亮と写メを撮ったり、仕事を探してると言う亮にウケたりと、彼女たちは若さ特有の自由奔放さで彼に接した。




「お前らB高生?」と亮は彼女らの制服を見て声を掛けた。

◯◯先生ってまだ居るのかと聞くと、女子高生は去年その先生は他校に異動になったと答えた。

「え?でもなんで知ってるんですか?」



亮は答える。

「俺もB高出てんだよ」






‥ウケた。今日一でウケた。



冗談言わないで下さいよとお腹まで押さえて笑っている。


よもや彼女らも思わなかったのだろう。

良家子女の集まるB高に、こんなホームレスみたいな男が属していたなんて。







彼女らは亮に別れを告げると、また来た道を戻って行った。





亮は小さくなっていく後ろ姿を見ながら、苦い記憶を思い出していた‥。






フラッシュバックのように蘇ってくる、あの長い廊下。



傷だらけの体、踏みにじられた未来、後悔しても消せない過去。




そして、あいつの後ろ姿‥。














昨日のことのように蘇る記憶は、亮を縛り続けている。



彼は最後の寿司を食べ終えると、ベンチから立ち上がった。



職探しの前に、会わなくてはならない人間が居る。

たった一人の肉親の元へ、亮はそのまま向かって行った。


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<それぞれの準備>でした!

束の間の雪のストレートヘアでしたね‥。


次回は<映画の前に(1)>です!

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