Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

彼のコレクション

2014-09-28 01:00:00 | 雪3年3部(対面~彼のコレクション)


雪はポケッとした表情で、そこに佇んでいた。

視線の先には、見たことのない部屋がある。



雪を探していた淳も、彼女に続いてこの部屋に入って来た。

「ここに居たの?そろそろ行こうか」「一体いくつ部屋があるんですか‥一人暮らしなのに‥」



雪はこの家の部屋数の多さに驚いていた。

パッと見狭そうに見えるこの家だが、迷路のように入り組んでいて、一体何部屋あるのか今も分からない。
(前回雪がここを訪れた時は、この部屋には入らなかったようだ)



そういう造りなんだよ、と淳がニッコリと笑って言う。

そして淳は雪に、自分の腕時計コレクションを見せた。

「ひゃあ‥」



それを見た雪は、思わず声を漏らした。高級そうな腕時計が、ズラリと並んでいる。

「これ全部でおいくら万円‥」



そう言って目を剥く雪に、淳は「高いのはあんまりつけないけどね」と言って、

今自分がつけている腕時計を雪に見せる。

「最近は雪ちゃんに貰ったやつばっかりだよ。どれか一つあげようか?欲しいのある?」

「いえ‥結構デス‥」



二人がそんなやり取りをしていると、不意に雪があるものに目を留めた。

「ん?」



雪はその棚に近づきながら、不思議そうな顔をして彼にこう聞いた。

「あの‥どうしておもちゃを飾ってるんですか?」



おもちゃ?と聞き返した淳だったが、飾ってあるラジコンカーに目を留めて、合点がいったという相槌を打った。

「あぁ‥。全部俺が小さい時に集めたものなんだ。

収集癖っていうか、色々なものを集めるのが好きで」




そこには、サイン入り野球ボール、蝶の入った額縁、ラジコンカーなど、実に多様な物が並んでいる。

淳は続けた。

「けど色々集めても、結局いつかは終わりが来るだろう。

だから一番好きなものを一つだけ残して、後は整理してるんだ」




幼い彼のコレクションの一片が、その棚にひっそりと飾られている。

先ほど目にした腕時計のコレクションのように、昔はきっと膨大な量のそれがあったのだろう‥。

「へぇ‥そうなんだ‥」



雪はそう相槌を打ちながら、惜しい気持ちがしてこう口にした。

「う‥でもなんか勿体無い‥」

「いいんだよ。結局自己満足なんだし」



雪はコレクション自体というより、それに掛かった費用が勿体無いと思っていたのだが‥。

それは口に出さないことにした。

「あれ?」

 

続けて雪が見つけたのは、一冊の楽譜だった。「即興の瞬間」、シューベルトのピアノ曲。

雪はパラパラとそれを捲ってみた。

「あ‥楽譜もあるんだ」



淳は雪の頭の上から、それに目を落としながら言う。

「あぁ、それね。俺の好きな曲なんだ」



そうなんですか、と言いながら雪はもう一度表紙を見ていた。

「Moment musical」と書いてはあるが、雪はそれをよく知らなかった。

「あ、サインも入ってるじゃないですか」「うん。有名なピアニストなんだよ」

 

うわぁ‥と雪は声を漏らしながら、その楽譜をマジマジと眺めた。

「先輩、ピアノにも興味があったんだ‥。

そういえば、クラシック好きって言ってましたもんね」




以前、二人は「好きな曲」について話をしたことがあった。

そういえば彼は「運転しながらクラシックを聴く」と言っていた‥。



すると淳は、少し言葉を濁しながら口を開いた。

「いやそれは‥」



「亮にあげようと思って貰ったものなんだ」



その言葉を聞いた雪は、目を丸くして固まった。

淳の口から河村亮の名前が出ると、わけもなく緊張する。

「そ‥そうなんですか‥?」「うん」



ニコッと微笑んだ淳に向かって、雪は恐る恐る問い掛けた。

「でも‥どうしてあげなかったんですか?」



淳は空を仰ぎながら、こう答えた。

雪の手から楽譜を柔らかに取り上げながら。

「‥それはもう時遅しだよ。色々な面でね」



淳は楽譜を手に取ると、そのままパラパラとそれを捲った。

雪は取り上げられたその格好のまま、彼の横顔を見上げてみる。



長い前髪のせいで、彼の表情はよく分からなかった。

しかし彼の発する空気から、今まで抱えて来たそのしがらみを仄かに感じる。



雪は彼の横顔を見つめながら、彼と亮とのことに思いを馳せた。

やっぱり二人は‥



単なる”高校の友達”程度の仲じゃなかったってことは聞いたけど‥

それよりはるかに特別な関係だったんだろう‥




彼の手元に残っている、一冊の楽譜。

有名ピアニストのサインが入っているということは、そうそう手に入る物ではないだろう。

そして今でもそれを、彼は本棚の端に残しているのだ。

どうして‥これほどまでになってしまったんだろう‥



淳と亮の関係がこじれた原因を、雪はまだあやふやにしか分かっていなかった。

そしてそんな思いを馳せる雪の前で、淳は楽譜を手に沈黙している。



じわじわと、過去の記憶が淳の脳裏に蘇る。

あの時の、暗い記憶が‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼のコレクション>でした。

彼の部屋に残った、彼を形作った様々な物たち。

蝶の入った額縁もラジコンカーも、そのエピソードが以前ありましたよね。
(野球のボールが気になりますね‥)

そして淳の本棚に残った、シューベルトの楽譜。

F. Schubert - Moment Musical Op.94 (D.780) No.3 in F Minor - Alfred Brendel


「Monent musical」小曲集の中で、「第三番」が一番好きだと淳は以前言っていましたね‥。

さて彼らの過去に一体何があったのか‥気になります。


そして淳の時計コレクションの見事なこと!

「高いのはあまりつけない」と言っていた淳を見て、一部のこの場面を思い出しました。



健太さん‥淳はガチの金持ちでした‥。。



次回は<亮と静香>高校時代(11)ー三人の関係ーです。

過去編です。

河村姉弟カテゴリーですね。


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俺と君

2014-09-27 01:00:00 | 雪3年3部(対面~彼のコレクション)


高層マンションの一室で、青田淳は一人テーブルに突っ伏していた。

しんとしている室内。






淳は人差し指で、そっとテーブルをなぞった。

つるりとした少し冷たい感触が、肌に心地良い。



淳の口元には、柔らかい笑みが浮かんでいた。

先ほど耳にした、彼女からの告白が蘇る。

”好きだってこと‥”

 

初めて聞いた「好き」という言葉。

真っ赤になって、声を震わせて、一生懸命思いを伝えてくれた。

”先輩のことが‥前より‥もっと‥”



初めて彼女の方から、自分に手を伸ばしてくれた。

”ただ、先輩を知りたいから‥”



自分を受け入れてもらうという、心地良さ。

彼女が自分の傍にいるという、この安心感‥。



淳は安らかな笑顔を浮かべながら、その心地良さに身を任せていた。

彼女の恥じらう姿や一生懸命なところが、いじらしくて堪らない。



はは、と小さく笑いながら、淳は少し頭を俯せに倒した。

腕にピッタリと付けた右耳から、自分の心臓の音だけが聞こえる。



トン、トン、トン、トン。

生まれながらに持ったそのリズム。規則的に刻む心の音。

淳は思った。

でもね、雪ちゃん。

互いに正直に話をするということは‥




頭の中に、レポート事件で言い争いになった時の雪の姿が浮かぶ。

”本当に先輩がやったんですか?” ”ありがとうとは言えそうにないです”



あの時、淳は呆然として眺めていた。

徐々に自分から離れて行き、だんだんと小さくなっていく、彼女の後ろ姿を。



あの時の記憶が淳を縛る。

そして彼はこう思うのだ。

互いに正直に話をするということは、

理解してくれるという前提があってのことだろう?




規則的なリズムを刻む身体が、秩序の保たれた部屋で一人考える。

「理解‥」



トン、トン、トン、トン。

そのリズムの中に、「理解」という単語がその秩序を乱して入り込む。

理解‥



頭では分かっていた。

その単語の意味も、必要性も、その意義も。

けれどそれを前提とさせるためのやり方が、分からなかった。

淳はその一定のリズムの中で、じっと”理解”について思考を巡らせる‥。




「先輩?」



しんとした部屋を震わせる、鈴の音のような心地良い声。

淳はその声に身体を起こし、微笑みながら振り返る。

「ん?」 「疲れちゃってます?」



そこには、彼の服を着て、腰の辺りを押さえながらこちらにやって来る雪の姿があった。

彼の顔を見て、雪はどこかぎこちない面持ちだ。



雪は照れくさそうに、時計を探しながら彼に言った。

「あ‥こんな遅くなっちゃって‥」 「ううん、大丈夫だよ」



微笑んだ淳がそう返すと、二人は顔を見合わせて黙り込んだ。

しかし次の瞬間、雪のズボンがズルリとずり落ちる。

 

「ひいっ!」と言いながら雪は、必死にズボンを腰まで手繰り寄せた。

淳が「結べばいいんじゃない」と言いながら、彼女の腰に手を伸ばす。



雪は真っ赤になりながら、「いや先輩がやる必要ないからっ!」と彼の手を拒んだ。

その強い力に押し退けられる淳。



淳は両手をホールドアップしながら、彼女を見上げてクスッと笑った。

何を今更、そんな表情をして雪を見る。



雪は淳のその顔を見て、彼の考えていることを感じ取って赤面した。

シャワーを浴びる前のあの出来事‥。今思い出しても、顔から火が出そうなのだ。



淳もまた雪の赤面を見て、彼女が考えていることが分かった。

ニコニコと笑いながら、彼女を後ろから抱き締める。

「服は持って帰って、洗ってお返ししますね‥」「んー?気にしないで。大丈夫だよ」



そして淳はその体勢のまま、雪の頬に二度軽いキスをした。

思わず雪はその姿勢で固まる。



いつまでたっても自分を離さない淳を、雪はまたもや軽く押し退けた。

「か、髪がまだ乾いてないの!髪が!」

「大丈夫だってば」



彼から抱き締められて、キスをされて、再び身体があの感触を思い出す。

雪は恥ずかしくて堪らないという表情をしながら、淳の方を振り返る。



淳はそんな彼女の反応を見て、本当に楽しそうな顔で笑った。

はは、と声を上げながら。



涼しい顔をしている淳を見て、雪は少し怒ったように彼に背を向ける。

「もう!からかわないで下さい!」



淳はポケッとした表情で、彼女の後ろ姿を眺めた。

向けられた背中、小さくなっていく後ろ姿‥。



何度も目にした彼女のそれだが、今の彼女の後ろ姿は、今までとはまるで違う。

‥耳まで真っ赤だ。



ずり落ちるズボンを気にしながら、恥ずかしさを必死にこらえながら、

今彼女は彼の部屋に居た。

彼と同じ空間の中に。



自分を受け入れてくれる存在が、自分と同じ空間の中に居る。

淳はそんな今の状況を理解しながら、雪の背中を見つめていた。

何よりも望んでいた彼女との平穏な時間が、今この手の中にある‥。



淳は雪の背中に追い付くと、彼女の肩に手を回した。もう片方の手で雪の頭を撫でる。

「髪が乾いてから家に送って行くからね。親御さんが心配されるから」

「え?いや地下鉄まだあるし大丈夫ですよ。先輩明日も出勤だし‥」



淳は優しく微笑んで返した。

「ううん、大丈夫だよ」



そして彼は悪戯っぽい笑みを浮かべると、以前彼女からされた仕打ちを話題に出す。

「絶対送っていくよ。また蹴られるのはゴメンだからね」 「あーもうっ!



淳はククッと笑いながら、雪の身体にその長い腕を回して歩く。

雪は苦々しい顔をしながら、からかってくる彼に対して仕返しする。

「先輩寝てる時歯ぎしりしてるの知らないでしょ?イビキかいてヘソ掻いて寝てるんだからね!?」(嘘 

「ククッ‥それでも足で蹴るよりいいじゃない」 「くっ‥



歩いている先から、雪のズボンはどんどんずり落ちて行く。

淳はそれを止めようとする雪の後ろから、お腹のあたりをコチョコチョとくすぐった。

「ほらほら、またもがいてる」「あっ‥!ああぁーーっ!」



二人の声が、先程まで静謐だった部屋に賑やかに響いている。

止めて止めてと、雪が笑う。そんな彼女を見て、彼が楽しそうに微笑む。



雪のことを見つめながら、淳は思った。

もし正直に話したら、きっと君はまた怒ってしまうから‥



この今の平穏な時間を、失いたくない。

彼女の笑顔を、手放したくない。

たとえ自身を、押し隠すことになったとしても。



雪と淳は二人並んで、共に歩いた。

ふざけ合いながら、笑い合いながら、二人一緒に。


けれど既に淳は、気がついていた。


もう分かってるんだ。




それは残酷で目を覆いたくなるような結論だったが、しかしそれこそが淳が辿り着いた真実だった。


俺達は、互いに別の人間だということを。





彼女を”同類”だと思っていた彼は、数々の衝突を経て今、その真実に気がついていた。

だからこそ、怖かった。

全てを曝け出すことなんて、もうとっくに出来なくなっていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<俺と君>でした。

もう今回の盛りだくさんなことと言ったら‥!

まず前提として「二人が結ばれた後のシチュエーション」という解釈から記事を始めさせて頂きました。

だってコーヒー零した雪が着替えるだけなら、雪がシャワー浴びる必要も、淳が着替える必要もないわけで‥。
(しかも雪ちゃん、あんまり敬語じゃなくなってる!)

とにかく二人は一線を越えたと、そう解釈させて頂きました‥!


そして淳のモノローグ。

ここの内容が、3部27話の後の「特別編」の雪のモノローグと重なります。

(ブログ記事はこちら→<特別編 あなたと私>

”私達は完全に別の人間だから”という、あの時の雪の結論と淳の結論が今回重なったわけです。
(2部最後の方で変態男に言った、「俺とあの子は同類だから」という淳の考えがそこから変わったことが判明しましたね)

けれどその先で二人が取っている行動が全く違う。

雪が正面から淳にぶつかったのに対し、淳は雪が「去って行く」のを恐れて自分を押し隠す。

幼い頃、父親から「おかしな子供」を見るような目で見られた傷が、まだ彼の中に残ってるわけです。

雪が不器用ながらに家族とぶつかって良い方向へと道が開けたように、この先彼も自分の手で扉を開けなくてはなりませんね。

埋めてきたコアを、自分を変えるのは、自分しかいないのですから。


物語が、佳境に入って来ましたねぇ‥。


さて次回は<彼のコレクション>です。


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待ちぼうけ

2014-09-26 01:00:00 | 雪3年3部(対面~彼のコレクション)


初冬の夜空に、ネオンの灯りがぼんやりと反射して鈍く光っている。

赤山家はただ今、時計を睨んで家族会議中だった。

「どうしてこんなに遅いんだ?連絡もしないで!」



時刻は夜九時二十五分。

雪の父親は先ほどからずっと時計と睨めっこをしている。そんな彼を見て、雪の母親は溜息を吐いた。

蓮が父に軽い口調で言葉を返す。

「え~今更?大学遠いんだから、元々遅いじゃんか」

「あと少しで十時じゃないか!」 「まだそんなに遅い時間でもないじゃない」



呑気に構えている母と蓮と、次第にイライラが募って行く父。

すると蓮は携帯を取り出し、そんな父に声を掛ける。

「待ってて父さん!俺電話掛けてみる!」



亮は店の外で、そんな赤山家のやり取りをそっと窺っていた。

亮の胸中もまた、ザワザワと騒いで落ち着かない。

「ったく‥どうせこんなこったろーと思ったよ!催涙スプレーまで買ってやったってのによぉ!

てかなんでこんなにおせーんだよ‥」




亮もまた、警戒心があまりないように思える雪を歯痒く思い、連絡の無い今の現状が気がかりだった。

昨日雪がイタチ男に追いかけられたことを先ほど赤山家から聞いたのもあって、ずっとソワソワと落ち着かない。

「亮さ~ん。電話したけど出ねーわ。

メールしてみるから、亮さんからも送ってみてくんない?」




あぁ?と聞き返す亮に、蓮は父親からの指示なんだと言った。

店の中では、父と母がまだ言い合いを続けている。

「変態に囲まれてメールも出来ないのかもしれないぞ?

どうしてこんなに警戒心が無いんだっ!」
 

「子供じゃあるまいし‥別にそんな遅くもない時間じゃないですか」

「遅いじゃないか!息子じゃないんだぞ!女の子がこんな時間まで‥」



まだガミガミやっている二人の間に、蓮が「はいはいストップストップ~」と仲裁に入った。

亮は携帯を眺めながら、未だ連絡の無い雪のことを考える。



危険な目に合っていなければ良い。もしかしたら淳と一緒なのかもしれないし‥。

そう考えると亮の胸中は、複雑な感情が渦巻いて揺れる。



空を見上げてみた。

ネオンが反射してぼんやりと光る空。星も月も見えない空。

車の走行音に混じって、木枯らしが吹き抜けて行くヒュウウという音が聞こえる。



亮はその風の冷たさに身震いした。

身体に腕を回し、空を見上げてポツリと呟く。

「あー‥さっみぃ‥」



それでも亮は、店の中には入らなかった。

寒さに身を震わせながら、彼女が帰って来るのを待ち続ける‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<待ちぼうけ>

今回短い記事になってしまってすいません~。その代わり次回が長めなのでお許しを‥!

赤山家+亮が皆雪に待ちぼうけを食らわされる回でした。

横山を実際目にしている父は落ち着かなくて、話だけ聞いただけの母はのんびり‥という違いがまた‥^^;

仲裁に入る蓮といい、赤山家は良いまとまりが出て来ましたよね。


次回は<俺と君>です。

(次回は完全私の解釈で書いちゃってます‥!ご了承よろしくです‥!!)

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直面(3)ー触れたいー

2014-09-25 01:00:00 | 雪3年3部(対面~彼のコレクション)
雪から淳への初めての告白。

その一言から、二人の間の空気が幾分変わった。

淳は徐ろにソファから立ち上がると、「少し詰めて」と言って雪の隣に座る。



こんな真剣な話し合いの最中に、急に仲直りしたかのように振る舞う彼に雪は戸惑った。

しかも彼は隣に座っても何を話し出すでもなく、ただ頬杖をつきながら沈黙している。



雪は暫し彼が口を開くのを待ったが、やはり彼が何も言い出さないので、一つ息を吐いた後自分から口を開いた。

「私が言ったことは合ってるでしょう?

私を嫌ってたこと、色々上手く行かなければ良いって思ってたこと」


 

その雪の言葉に、淳は姿勢を変えぬまま口だけ動かした。

「‥ああ」



雪はハァッと大きく息を吐いた。ようやく彼が過去への言及に応じたのだ。

淳は雪の方を見ないまま、続けてこう言った。

「だけど今は違うよ」



「それは信じて欲しい‥」



その彼の答えを聞いて、雪は思った。

いや‥それについては前にも何回か話し合ったよな‥。



またどこか論点がズレ始めたような気がする‥雪がそんなことを考えていると、

続けて淳が口を開いた。

「俺は、簡単に誰かが好きだとか嫌いだとかを口にしたりはしないけど、

人間である以上、当然そんなこともある」


 

淳は頬杖をついたまま、遠い目をして自分の心情を語り出した。

何かを諦めたような、どこか疲れたような話し方で。

「去年散々つきまとわれた平井も、俺を責め立てた横山も、

俺に何でも要求してくる学科生達も嫌いだった」




長い前髪の間から覗く彼の瞳は、ひどく冷めていてどこか暗かった。

長い間ずっと晒されてきたその疲弊が、彼の瞳に陰鬱な影を落とす。

「皆何が目的で俺に近寄って来てるか分かるから、それに見合った対価を与えるんだ。

俺のその考え方は、間違ってないと思う」




それは彼が幼い頃から、ずっと彼の周りにあったものだった。

ニコニコと近寄って来る人達の瞳の中に透けて見えるもの。

打算、計算、見返り、下心‥。



それが自分の周りにある、世界の全てだった。

今彼が口にしたその答えは、自身が奪われていく世界の中で、自ずと彼が身につけた処世術だった‥。




以前も耳にしたことのある彼のその考え。

けれど雪にはその考え方が、どうにも理解出来なかった。共感も出来ない。

単純に上から目線の嫌味に思える。



イライラしながら彼を見ていた雪の方を、不意に淳は振り向いた。

去年散々目にした、あの瞳で。



そして淳は続けて、昨年雪に対して抱いていた気持ちを口に出した。

「無理して俺に挨拶する雪ちゃんも、他の子達と同じに見えた。

もしかしたら彼らよりさらにウザかったと言えば、ウザかったかもしれない」




雪は覚悟はしていたものの、自分への悪口を実際目の前で聞くと腹が立った。

ブルブルと震えながら、ムカムカと湧いてくる怒りを感じる。



雪は皮肉を込めながら、少し意地悪な気持ちであの頃の彼への感情を話し出した。

「そりゃ~もちろんそういう下心が無かったとは言いませんよ。人気がある先輩と良い関係を築けば、

正直言って得ですからね。けど打算の元にタカってやろうとか、そんな気持ちがあったワケじゃないです」




雪のその言葉に、淳は薄く微笑みながら「分かってるよ」と答えた。

雪は去年彼に対して取った態度の弁解を、ポンポンとテンポ良く話す。

「先輩が目に見えて私のこと嫌ってるのに、それでも挨拶してたのには訳があって‥。

”いつかまたイメージが良くなるだろう” ”それでお互い気持ちよくまた大学に通えるだろう”って思ってたんです。

そうしてたらその内、私が挨拶すること自体嫌そうに見えるから、あれこれしてもダメなら、嫌な気持ちにしてやる!って‥」




半ばヤケクソの気持ちだったと、そう口にした雪を見て、

淳は笑って言った。

「もう分かってるよ」



そして淳は続けた。

「雪ちゃんは、いつも俺からの助けを拒むよね。

今回のことも証拠を集め終えたら、君一人で横山と対決しようとしただろう?」




その声には、少し寂しさが滲んでいた。

雪は何も言わぬまま、じっと彼の方を見ている。



そして淳は再び前を向いて、再び暗い影を瞳に宿した。

視線の先にあるのは、去年の自分と雪の姿‥。

「あの頃の俺は‥君から、異常な程影響を受けてると思った。そしてそれは、実際その通りだった‥」







「目つきや声、一つ一つの仕草全てが、いちいち気に障った。他に嫌ってた奴らよりもずっと。

明らかに俺に対する言葉や行動じゃない時でさえも」




ゆるりと、心の扉が開いて行く。

僅かに開いたその隙間から、閉じ込めていた気持ちが零れ出る。

「もしかしたら俺は、君のことが怖かったのかもしれない。

最終的には俺のことを、侵害するのかと思って‥」







扉の中で、幼い彼が頭を抱えて座っている。

自身を侵害され奪われゆくその恐怖に耐えながら、彼は必死に自分を守ろうとしている。


淳は続けた。

その恐怖に耐えるように、掠れた声で、頭を抱えて。

「俺はそれが‥すごく嫌だ。本当にすごく‥嫌なんだ‥」







雪は、初めてこの少年をハッキリ目にした気がした。

普段の彼からは想像もつかないような、何かに怯えたような、その少年を‥。

そして淳は俯いたまま、今の心情を言葉にして紡ぐ。

「それで今は‥君が俺から離れて行くんじゃないかって‥

それで俺はずっと、これ以上話すのが怖かったんだ」




消え入りそうな声でそう口にした淳を、雪は静かにただ見つめていた。

淳は俯いたまま、「雪ちゃん」と彼女の名を口にする。



そして淳は、ゆっくりと顔を上げた。

少し細めたようなその瞳は微かに潤んでいて、目の前の彼女がそこに映る。



淳は雪の方を真っ直ぐに見つめながら、柔らかな声でこう言った。

「好きだと言ってくれて、ありがとう」



そして彼女の両肩に優しく手を置くと、自分の気持ちを口にする。

「俺も君が好きだ」



そして甘えるように、雪の肩に頭を乗せた。

彼女への気持ちが、次から次へと溢れ出る。

「本当にすごく‥好きだ」



そして淳は、彼女の肩から頭を上げた拍子に、その唇にキスをした。

雪は目を丸くしながら、不意打ちのそれを受ける。



二人の前髪が触れ合うその距離のまま、淳は再び告白した。

赤面する雪が、慌てて彼を止めようとする。

「好きだ」  「あの‥ちょっ‥」



けれど淳は止まらなかった。

彼女に触れたい、その気持ちが、彼を本能的に動かして行く。

淳は雪の両腕に手を置いて、もう一度彼女に口づけた。



今までとは違う、彼と深く繋がるキス‥。




やがて淳は唇を離した。

雪はまだ今の状況に頭がついていかないまま、目を見開いて当惑する。

「あ」



すると淳は、彼女の袖に触れて、小さく声を出した。

雪の手首を掴みながら、ゆっくりとその袖を下に下げる。

「何するんですかもう!この人は‥!」

「ねぇ、服に何かついてるよ」



その淳の言葉に、雪は思考が止まるのを感じた。

彼の瞳をじっと見る。



そんな雪を見つめ返す淳の瞳。

真っ直ぐに、彼女の姿を映している。



雪は彼から目を逸らせないまま、彼の言った言葉を頭の中で反芻していた。

その瞳の奥に、彼の気持ちが透けて見える。彼の大きな手が、雪の手首をぎゅっと握る‥。



雪は一言、淳に向かって「分かってます」と言った。

先ほど零したコーヒーの染みが、彼の体温を彼女に移して熱くなって行く‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<直面(3)ー触れたいー>でした。

雪が好きだと言ってくれたことで、淳がようやく心の扉を少し開けてくれましたね‥!

「すごく嫌だ」と、頭を抱えるシーンが印象的でした。。


そして!四十九話ぶり、一年二ヶ月ぶりの、キスシーン‥!(デコチューは除く)

読者にしたら長いおあづけでしたよ本当‥今までよく耐えた‥!我ら‥!笑



次回は‥話の流れ上、めっちゃ短くなります。申し訳ないです‥!

<待ちぼうけ>です。



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直面(2)ー伝えたいー

2014-09-24 01:00:00 | 雪3年3部(対面~彼のコレクション)


冷たい風の吹く初冬、高級住宅街に聳え立つ高級マンションの灯りが、ぼんやりと夜空を照らしている。

その一室で赤山雪と青田淳は、前髪と前髪が触れ合うほど近くで向き合っていた。

「どうして‥」



低く掠れた声で、淳が口を開いた。

「どうしてそんな話を聞きたがるんだ‥」



そしてポツリ、彼は呟いた。

普段の彼からは想像もつかないほど、気弱な声で。

「逃げ出すだろ‥?」



淳の脳裏に、遠ざかる雪の後ろ姿が浮かんだ。

呼びかけても呼びかけなくても、その背中はどんどん小さくなって行く。

素直になっても嘘を吐いても、去って行く彼女。どの道も行き止まり。

経験したことのないそのパラドックスに、淳はどうして良いか分からなくなる‥。

 

何度も感じたあの感情が、今また淳の心の中を揺らしているのだった。

淳は俯き、それきり黙った。雪はそんな彼を、目を丸くして見つめている。






雪は彼の胸ぐらを掴んでいた手を離すと、一つ深く息を吐いた。

そして彼から顔を背けながら、自分の気持ちを口にする。

「ただ、先輩を知りたいから‥。

後から人づてに”青田先輩がやった”って聞くことに、もう疲れたんです」




淳はそんな雪の横顔を、暗い目をしてじっと見つめていた。

触れて欲しくないものに触れられ、神経が波立つ。

この話し合いがどういう結論に達するのか、想像して淳は陰鬱な表情になる‥。



雪はそんな彼の方を見ないまま、視線をテーブルの上に留めながら、話し出した。

ずっと彼に伝えたかった、その気持ちを。

「だから、先輩の全てをそのまま話して欲しいんです」



「隠れて私を助けるんじゃなく、私と相談しながら、一緒に解決して行って欲しいんです。

先輩と私、二人一緒にです」




そして雪は俯きながら、最後にこう言った。

「これが、先輩と会えない間ずっと悩んで出した、私の結論です‥」



雪は、先ほど太一から事の顛末を聞かされた時のことを思い出した。

モヤモヤが胸を覆って、思わず黙って俯いたあの時の自分‥。

実際今回の件でも、先輩に問い詰めたいことは山ほどある。

一つ一つ考えて、掘り下げて、色々計算して‥連絡をくれない先輩を思って待ったけど、

結局、この先どうなろうが、すぐにでも先輩に会いたいと思った。




雪はチラリと視線を上げ、隣で沈黙する淳の方を見た。

相対する度に、万華鏡のように色々な面を見せる、目の前の彼を。

”青田淳”という人がどういう人間なのか定義するよりも、もっと大切なことがある。



それは素のままの、自分の気持ち‥



気がついたら駆け出していた、先程の自分の姿が脳裏に蘇る。

単に状況を問い正して整理するためだけに、ここまで走って来たわけじゃない。




あの時雪は思った。

彼がどんな面を持っていたとしても、その全てと向き合いたいと。


先輩の顔をこの目で見て‥




ずっと会えなかった彼の顔を見た時、心臓が跳ねた。


電話じゃない生の声を聞いて‥




決して面白い話じゃなかったけれど、その声を聞くと胸がつかえた。



それは、理論的でなく、定義も定まってない。計算でもないし、打算でもなかった。


ただそれは彼に対する、裸のままの自分の気持ちだった。


雪はもうその感情に気がついていた。彼に対する、その気持ちに‥。










それきり沈黙した雪の横顔を、淳はじっと見つめていた。

そしてその沈黙を破るように、彼は静かに口を開く。

「‥どうして突然そんなことを?」



雪は尚も俯きながら、小さな声でそれに答えた。

「ただ‥しんどい時に、先輩と離れてみて分かったんです」



淳は低い声で、端的に問う。

「何を?」



彼の問いに対して雪は、すぐにその答えを口にはしなかった。

それどころか、言いにくそうに視線を泳がせたり、身を捩らせたりしている。

  

雪は若干挙動不審になりながらも、やがてボソボソとその答えを口にし始めた。

「だからその‥すっ‥すっ‥すっ‥」



雪がこんな状態になっていることが解せない淳は、頭に疑問符を浮かべながらその続きを待った。

見つめる雪の顔面に、変な汗が滝のように流れているのが見える。



そして雪は覚悟を決めると、俯きながらも彼の方をゆるりと向いた。

小さな声で、彼に対するその気持ちを口に出す。

伝えたかった、その気持ちを。

「好きだってこと‥」









淳がその言葉の意味を理解するまで、若干の間があった。

二人の関係が終止符へと向かっているかと思われた話し合いの中で突然発せられた、彼女からの告白‥。

「えっ?」



そう言って目を丸くした淳の目の前で、雪は真っ赤になって拳を握り締めている。

「わ‥私は‥先輩のことが‥前より‥もっと‥」



雪はあまりの恥ずかしさに瞳がグルグルと回るようだった。

一度ならまだしも、さすがに二度も「好き」と口にするのは恥ずかしすぎる‥。



しばしグルグルしていた雪だが、やがて両手で額を覆いながら、深く息を吐いて気持ちを落ち着かせた。

しかし淳の目に映る雪の耳は、その心のざわめきを映したように真っ赤だ。



そしていくらか平静に戻った雪は、強い意志を持った瞳を淳に向け、一言言った。

伝えなければいけない、彼への思いだ。

「だから全部聞かせて下さい。先輩が考えていることを‥」



その固い決意を光らせて、雪は淳と真っ直ぐに向かい合った。

淳は目を見開いて、彼女のその意志を受け取るー‥。



そしていつしか、彼女は俯いていた。

決まり悪そうに、少し恥ずかしそうに。



夜は更け行く。

雪が伝えたそのたった一言で、彼の心の扉が緩んで行く‥。




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<直面(2)ー伝えたいー>でした。

待ちに待った!雪ちゃんからの告白‥!

きっと告白なんて生まれて初めてなんでしょうね‥!真っ赤になる雪ちゃんが可愛い‥(*^^*)

そして行き着く先は別れ話だと思っていた淳の、告白を聞いた時の意外そうな顔‥!

面白くなってまいりました~!


さて‥雪ちゃんは自分の気持ちを伝えました。

次は淳の番ですね!

次回<直面(3)ー触れたいー>です‥!



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