Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<雪と淳>妥協

2014-08-27 01:00:00 | 雪2年(コンペ事件)


胸にモヤモヤを抱えたまま、雪は授業を受けに教室へと向かった。

席に就き鞄から教科書を出していると、柳が雪に声を掛けて来た。

「赤山ちゃ~ん!ハ~イ?」



その柳の軽い挨拶に対して、雪は真面目に「こんにちは」と返した。

シラフの雪は、ノリの良かった昨日の彼女とはやはりどこか違う様だ。

柳は「つまんねー」と言ってブーたれる。



柳は一つ息を吐くと、雪に向かって早速話を切り出した。

「金曜日に学祭の準備があるっしょ?赤山ちゃんも参加だよな?」

「あ、はい」



いいねいいね~と言いながら、柳は頬杖を突いて改めて雪の方を眺める。

「赤山ちゃんもどうやらイエスガールなのかな?」と小さく笑いながら。



しかし当然雪には何のことやら‥である。頭に疑問符を浮かべる雪を、柳はからかうようにニヤッとしながら眺めていた。

そして柳はあることを思い出し、続けた。

「あっそーだ、赤山ちゃん知ってる?結局うちの科、

赤山ちゃんの意見採用することにしたんだよ。学祭で居酒屋借りるってやつ!」


「え?でもそれってー‥」



雪はそう言いながら、窓際の席へと視線を移した。

そこには、一人で携帯を眺める青田淳の姿がある。



雪が誰を見ているか知った柳は、後方からコソコソと雪に耳打ちをして来た。

「マジモードで否定しちまった手前、淳の奴ちょっと決まり悪ぃみたいよ?ちょっとあま~く見つめてからかってみ!」



雪の頭の中に、以前衆人環視の中で淳から自分の意見を否定された時のことが思い浮かんだ。

学祭‥



あの時の彼は、雪の意見など歯牙にも掛けなかった。雪は淳の横顔を眺めながら、心の中でこう思う。

なによ‥あの人今になって‥



あのプライドの高い男が、自分の案を取り入れることに妥協したと言うのだろうか‥。雪は不思議な気持ちだった。

すると、不意に淳が雪の視線に気づいた。彼と目が合った雪は、ビクリと身を強張らせる。

 

すると後方の柳が耳打ちして来たので、その指示通り雪は淳に手を振った。

その意図を察し、嫌な表情を浮かべる淳‥。

 

そして淳はプイッと向こうを向いてしまった。振った手のやり場に困る雪を置いて、柳は笑いながら去って行く。

私は何をやっているんだろうと、自問しながら固まる雪‥。



雪は一つ息を吐くと、上げていた手でそのまま頬杖を突いた。

彼は窓の外を向いたまま、雪の方には視線を寄越さない。



うんざりする程見たあの後ろ姿。積もり積もった悪感情は簡単には消えない。けれど‥。

それでも昨日は‥私を助けてくれようとした‥んだよね‥



酔って記憶は曖昧だが、場面場面はちゃんと覚えていた。

馴れ馴れしく自分に密着して来た三田の姿も、そこから手を引いて助けてくれた淳の姿も‥。

 

雪は複雑な思いを抱きながら、淳の後ろ姿をじっと見つめていた。

やがて聡美が来て隣に座るまで、彼に対してこれからどうすべきかを思案していたのだった‥。








授業が終わり、学生達は続々と建物から外に出て来た。

一足早く外に出ていた雪は、そこから彼が出てくるのを待っている。



あ、と声を発したのは、彼の姿を見つけたからだった。

青田淳は一人で、コートのポケットに手を入れたまま雪の居る方向へと歩いて来る。



雪はへりくだるような笑顔を浮かべながら、恐る恐る淳に向かって話し掛けた。

「あっ‥あの先輩‥昨日は‥」



しかしそれ以上雪は言葉を続けられなかった。

淳は雪の話に応えないどころか、雪の方を一瞥たりともしないのだ。



そして彼はまっすぐ前を向いたまま、雪を無視して歩いて行った。

あの疎ましい後ろ姿が、目を剥いた雪の視線の先にある。



雪はワナワナと震えながら、怒りが炎のように燃え上がるのを感じていた。

あ‥あのムカつく後頭部‥



自分の間違いを認めるのがヤダから、一度助けたくらいでオアイコってか?

そんな奴に礼儀正しくするとか‥アホらしいわ!!




雪が淳の無礼に憤っていると、不意に胃のあたりがキリキリと痛み出した。

あ‥胃が痛い‥。お酒飲んだからってなんで胃が‥



内蔵に響くようなその痛みに耐えつつ、雪は恨めしげな視線で淳の背中を睨んでいた。

雪のことはまるで無視したくせに、今彼は仲間と楽しげに笑い合っている‥。



少しでも彼に対して感謝を感じた自分を、今までの非礼に目を瞑ってお礼を言おうとした自分を、バカだったと雪は後悔した。

やはり彼は自尊心が強く、傲慢で堅苦しい。

そしてきっとそれは、この先ずっと変わらない‥。



そして金輪際彼のことは無視しようと、雪は秋の空に誓ったのだった。


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<雪と淳>妥協 でした。

3部にて追加された雪2年時のエピソードでした。そしてきっとまだもう少し続きますが、

とりあえず次回からまた現在に戻ります。


<彼を待つ>です。



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<雪と淳>真意

2014-08-26 01:00:00 | 雪2年(コンペ事件)
長い脚でズンズンと、青田淳は店の外へと進んで行く。

彼に手を掴まれている雪は、小走りのように早足で彼の後をついて行かざるを得なかった。



淳は雪の方を振り向かない。彼女の口から小さな声が漏れるが、それにもまるで耳を貸さない。

暗い路地をただひたすらに、二人は歩いて行くだけだ。



タクシー乗り場に到着すると、淳は幾分乱暴に彼女の手を振り払った。

酔いのせいで足元がふらつく雪は、その場で二三歩たたらを踏む。



”Taxi”と書かれたその柱に手を付きながら、雪はふと地面を見た。ぼんやりと回らない頭で考える。

あ‥煙草‥聡美に持って帰‥

 

地面に落ちている吸い差しの煙草を見ながら、雪は聡美のことを考えていた。

すると雪がそこに手を伸ばすより早く、彼の足が勢い良くそれを踏み付ける。

ダンッ!



淳は、半年前初めて雪と会った時にも彼女が煙草を拾っていたのを思い出し、それを踏み付けたのだった。

あの時も、そして今だって、彼女を前にすると淳は心が波立つ‥。



雪が顔を上げると、彼はポケットに手を突っ込んだまま、サッと踵を返した。

雪をその場に残し、店の方へと足早に歩いて行く。



雪はその後姿をぼんやりと眺めながら、小さな声で彼の名を口にした。

いつも心の中で呼んでいる、少々無礼な呼び捨てで。

「‥青田淳‥」



ろれつの回らないその雪の声を、淳の耳は拾いながらも足は止めなかった。

彼は振り返りもせずに、無愛想な声でこう告げる。

「あんな所に座っていたいか?いいからもう帰れ」



その皮肉を含んだ高慢な彼の言葉に、雪はあからさまに顔を顰めた。

彼は一度も彼女の方を窺いもせず、そのまま早足で歩いて行く。



雪は酔いのせいで朦朧とした感覚の中、その背中をずっと眺めていた。

何度も何度も目にした、あの疎ましい後ろ姿を。



積もり積もった悪感情と、彼の表面的な冷淡さと高慢に、雪はただ眉を顰める。

ぼんやりとした今の思考回路では、彼の真意には辿り着けそうに無い。



そして彼はそのまま店に戻って行った。

形の良い後頭部が、灯りの中へと消えて行く。



雪は小さくしゃくり上げながら、彼の方を指差して一人こう呟いた。

「ま~た偉そうに‥」



しかしもうこの場には雪しかおらず、しんとしていた。

雪はムカムカする胃を押さえながら、柱に凭れて暫し俯く。



待てど暮らせど、タクシーはやって来ない。

眠いし、気持ち悪いし、おまけにここから遠く離れた家までタクシーで帰るなんて‥。

雪は項垂れながら、一人呟いた。瞼の裏に、足早に離れて行く青田淳の後ろ姿が映る。

「あーもう‥。タクシー代置いてけよぉ‥」



ろれつの回らない雪の呟きが、誰の耳にも入らぬまま曇った空へと溶けて行く。

皆の真意をぼやかしながら、薄雲が月の周りを揺蕩っている‥。







「あ‥頭が‥」



翌日、雪は二日酔いで大学へと登校した。こめかみの辺りがズキズキと痛む。

昨日の自分は相当酔っ払ってはいたが、幸いなことにどこかへ連れ込まれる前にその事態に気がつけたと、

雪は自分自身に対してガッツポーズを決める。いつもは自分を疲弊させる鋭敏さも、今回ばかりはGood Jobだったと。



そのまま構内を歩いていると、ふと聞き覚えのある声が耳に入った。

雪が視線を送った先に、大きな声で通話する三田の姿があった。

「はい、はい!昨日淳から紹介してもらった、三田スグルです。こんにちは!」



すると三田は雪に気づき、通話しながらこちらをチラリと見た。

わざとらしくニヤニヤと笑いながら。

「河村静香さんですか?今日時間あります?」

 

三田はそのまま、雪を無視して通り過ぎた。彼の仲間と共に、大きな馬鹿笑いをしながら。

三田のチャラい人となりを目の当たりにして、雪はようやく目が覚めたような気がしていた。

昨日強引に出て来ちゃった時予想はしてたけど‥。

ウマイ話には全てワケがあるってことね‥。




三田の下心に気づいた今、気分は良くないが勉強になったと雪は感じていた。

それでもそう思えるのは、最悪の事態を回避出来たからそう思えるのであって‥。

雪は昨日のことについて一人思いを巡らせていた。

それでも昨日の私は結構冷静だったような‥。自分で出て行ってたし‥。

それで‥ぼんやりと思い出すのは‥




脳裏に浮かぶのは、強引に手を引いて自分を店から連れ出した、彼の背中だった。

そして振り返ること無く、彼はそっけなくこう言った。「いいからもう帰れ」と。

 

一夜明けて、酔いが覚めて、雪はそっけなかった彼の真意が、だんだんと分かりゆくような気がしていた。

あの疎ましい後ろ姿は高慢で冷淡で無愛想だが、そこには彼の本心が隠れている‥。



青田淳のその行動と真意を知って、今雪は当惑していた。

あの文化祭の話し合いの全面対決以降、完全に無視しようと思っていた相手だ。

一度自分の中で下した決断が、昨日の出来事の前で微かに傾ぐ‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>真意 でした。


最後、三田が淳に静香を紹介してもらったことが発覚‥!

そして実はこれが一年後の三田の姿では?ということでした↓(CitTさんが一番最初に推理してらっしゃいました^^)



<不安と孤独>の記事にて出て来ましたね。

いや~思わぬところに張られる伏線の数々‥!チートラの醍醐味ですね~^^


次回で過去編はとりあえず一区切り。

<雪と淳>妥協 です。

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<雪と淳>察知

2014-08-25 01:00:00 | 雪2年(コンペ事件)
「カンパーイ!!」



”火の窯”にて、雪と三田を含むコンペメンバーは、もう何度目か分からない程の杯を重ねていた。

男達がグラスに入れられた焼酎を一気飲みし、店員に追加を申し付けるのに対し、雪は一人チビチビと酒を啜っている。

そろそろ酔いそうだな‥セーブセーブ‥



酒に弱い雪は、自分のキャパシティーを考えて飲む量を調整していた。

しかしそれを見た先輩の一人が、雪に向かって顔を顰める。

「なんだよ~!さっきからチビチビ飲みやがって~」



お酒に弱くて‥と弁解する雪の横で、

三田が「さっき沢山飲んだじゃないか」と言って男を窘めようとしたが、

男は「とりあえずこの一杯は飲め」と言って譲らない。



そのまま「飲め飲めコール」が始まると、雪は既に酔い始めている頭の中で思う。

これもギブアンドテイクか‥と。



これで本当に最後だと自らに言い聞かせながら、結局雪は焼酎を飲み干した。

三田を始めとする、男三人の口角が上がる。



雪は一杯を飲み干した後、目の前がぐらりと歪むのを感じた。

これ以上は無理だと、脳がキャパ限界を認識する。



しかし雪の飲みっぷりを見た男達は、もう一杯行けと無情にも酒を勧めた。

雪は酔いのせいか、彼等がしゃべる声がどこか遠くに感じられる。

大丈夫? 最後だって最後~ マジマジ



そんな彼等を見る雪の眼差しは、酔いでトロンと重たくなった。

口元を押さえながら、雪は微かに揺れる。



そんな雪の後ろから、三田は腕を回した。

「大丈夫?どのくらい飲んだっけ?」と彼女を気遣う言葉を掛けながら。



そんな三田の姿を見て、周りが「紳士!」と囃し立てる。

三田は「飲める?」と聞きつつ、雪の腕にその手を絡ませた。

雪は下を向いている。厚い前髪のせいでその表情は窺えない。



すると男の内の一人が、沈黙する雪に「彼氏居るの?」と聞いてきた。

「スグルはどう?」と三田を勧める男を、三田は「止めろよ」と言って制止する。



ごめんね、と雪に対して謝る三田に、雪は目を擦りながら首を横に振った。

その受け答えも、酔いのせいで少し朦朧とする。



すると男二人は、雪に向かってこう言い始めた。

「そういえばさぁ、スグルだけ注いでなくね〜?

俺達だけが悪者みてーじゃん!フェアに行こうぜ!フェアによぉ!」


「マジで最後だって~。もう一緒のチームなんだからさぁ~」



雪は先ほど目を擦った自分の手を触りながら、ぼんやりと俯いていた。

三田は再び「大丈夫?」と声を掛け、ニッコリと微笑みながらこう言った。

「まだ酔ってないでしょ?」



彼女を心配するフリをしながら、三田は笑顔で酒を勧める。

それに対して雪は再び目を擦りながら、まだ酔ってないですと言って頷く。

しかしその横顔はどう見ても、酒量のキャパを越えて酔っ払っていた。



ニヤリと、三田の口角が雪から見えない角度で上がる。微かに揺れる雪の肩に密着しつつ、更に三田は彼女に酒を勧めた。

「ねぇ、最後にもう一杯だけ飲もうよ。したらその次からは俺が全部飲んであげるからさ」



スグルの笑みを見て、男がもう一度囃し立てた。乾杯しようぜ、と言って杯を手に取る。

我らがチームに、と言って男達はグラスを掲げた。同じ様に雪の手にも酒が注がれた杯がある。

これを飲み干せば、おそらく彼女は意識を無くし三田の計画は成功だ。

そんな隠れた欲望をチラリと覗かせて、彼等はもう一度大きな声で乾杯した。

「カンパ~イ!!」



しかしそこで、予想外のことが起きた。

グラスを掲げる三田の横で、雪はキョトンとしたまま動かない。



三田は固まった。

先ほどまでフラフラしていた雪が、まるで正気に戻ったかのように静止しているからだ。



そのまま動かない雪に対し、三田は若干戸惑いながら彼女に声を掛ける。

「ど、どうしたの?どっか痛い?」 「いえ、大丈夫です」

「じゃあどうしたの?なんで黙ってんの?」



三田からのその問いに、雪は真っ直ぐに前を向き、真顔のままこう答えた。

「ただ‥もう飲まない方が良いと思いますので」



その酒の席に似つかわしくない程の真面目な返しを聞いて、三田を始めとするコンペメンバーは顔を顰めた。

三田も思わず虚飾の笑顔を浮かべるのも忘れ、雪を異質なものでも見るかのような目で見る。

「は?今、何つった‥?」



しかしここで諦めるわけにはいかない。三田は再び笑顔を浮かべると、雪に向かってもうひと押しした。

「えー?突然どうしたの?みんなビックリすんじゃん。あと一杯だけ飲も?あと一杯‥」

「飲むためにチームに入ったわけじゃないんですが」

 

しかし雪は頑なに同意しなかった。真っ向から反論を口にする。

今までこうやって女を口説いてきた三田にとって、その雪の物言いはカチンと来た。

思わず苛立ちの表情を露わにする程に。



そして雪はおもむろに立ち上がると、「それじゃ失礼します」と言って退席しようとした。

男達は無礼な態度の後輩に腹を立てるが、三田はそんな二人にコソコソとこう告げる。

待てって!この子のことは言っといたじゃん?!



雪は今ケロリとしているが、三田はどう考えても彼女は酔っているとしか思えなかった。

まだ希望はある‥。三田は雪の腕を掴むと、再び優しい口調で彼女に話し掛けた。

「ちょっと待ってよ~。雪ちゃん、君酔ってるんだろ?

俺が送ってくからさ。このままじゃ危ないよ」




雪は三田の提案に対しても、頑なに首を横に振った。

彼女の中の鋭敏さが、無意識にその危険を察知して彼を拒む。

そして暫し二人がその場でもたついていると、突然そこに賑やかな声が掛かった。

「あっれ~?三田先輩~ここだったんスねー?!」



その聞き覚えのある大きな声に、三田も雪もキョトンとしながら顔を上げた。

するとそこには、見慣れた経営学科三年男子の面々が居たのだった。

「こんばんは~」 「こんばんは」

「おっ!赤山も居たのかぁ!」 「赤山ちゃ~ん、ハ~イ?」



彼等はガヤガヤと挨拶を口にしながら、三田達の居る方へと近付いて来た。

そして雪は柳からされた挨拶と全く同じ様に、

「ハ~イ」と言って真顔で手を振る。いつもはマジメな雪が見せたその態度に、思わず柳はポカンである。

 

三田は取り繕うような笑顔を浮かべると、「お前達もここに来たのか」と彼等に声を掛ける。

どうやら健太がこの”火の窯”じゃないと嫌だとゴネたらしく、残りの面々は渋々それに従ってついて来たというワケだった。



その彼等のやり取りを、暫し雪は真顔で聞いていたのだが、そんな雪を見て柳が小さく笑った。

からかうように、彼女の頬を人差し指で軽く小突く。

「赤山ちゃん酔ってんの?何か変だぞ~?」「酔ってまへん」



するとその会話の流れに乗るように、三田は雪の手を取って笑顔でこう言った。

「そうなんだよ。だから俺が送って行こうとー‥」



するとそこに、予想外の男が割って入った。

彼は三田の手からするりと彼女の手を取ると、三田に向かってこう声を掛ける。

「あ、本当だ。大分飲んでますね」



青田淳は三田に向かって、柔らかい態度でこう言った。

誰にも反論を許さない、完璧な微笑みと共に。

「先輩、俺この子をタクシーに乗せてきますね」



行こう、と言って淳は雪の手を引いた。

雪は目を丸くしながら、ただその成り行きに身を任せている。



三田は戸惑いながら、「あ、いや俺が‥」と言って手を伸ばした。しかし淳は、柔和な笑顔でそれを制する。

「先輩は気になさらず、どうぞお席に戻って下さい。俺が送って来ますから」



めまぐるしい事態の展開に三田が戸惑っている間に、既に淳は雪を連れ、早足で店の入り口をくぐっていた。

健太は「先輩達と同席=タダ飲み出来る」と踏んで、上機嫌で三田を席へと導く。



そして暫し二人は姿を消した。

皆の思惑が、霞んだ夜空に渦巻いて溶ける‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>察知 でした。

酔いながらも、雪の鋭敏な部分が三田の欲望を見破りましたね~。

しかし三田、本当に悪質だな‥。淳、GJ!

(そして火の釜へ行きたいとゴネた健太もGJ!)


次回は<雪と淳>真意 です。



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<雪と淳>男の本性

2014-08-24 01:00:00 | 雪2年(コンペ事件)
青田淳はその日、大学の構内に居た。例のごとく、つまらなそうな顔をしながら。



淳の姿を見た同期が、声を掛けて来た。

淳は手に持ったプリントを見せながら、健太先輩を見かけなかったかと彼に聞く。

同期は「またあの人青田に頼み事か」と溜息を吐きながら、B館の方で煙草を吸っていたと淳に教えた。

 

淳は同期に礼を述べ、一人B館の方へ歩いて行った。

健太からの課題への催促や持っている物への嫉妬には辟易していたが、それでも彼の言うことを聞く方が労力も少ない。

淳が気怠い気持ちでB館の裏を歩いていると、不意に建物の向こう側から話し声が聞こえて来た。



声は健太のものに違いなかった。よく見ると健太の前にもう一人居る。

「話して下さいよ~」 「今度な」



淳は建物の影に佇み、彼等の方を窺った。健太と共にそこに居たのは、三田という先輩だ。

彼等は煙草を吸いながら、とある女性について話をしている。

「クラブじゃちょっと見かけないタイプだな。俺も偶然見つけてね。ちょっと好みかも」

「うちの学科にそんな女居たかなぁ?」 「ま、特別カワイイってわけでもないんだけど」



淳の佇む角度からは、健太の表情は窺えないが三田の顔はハッキリ見えた。

彼はニヤリと笑いながら、美味しそうに煙をくゆらせて健太にこう言う。

「とにかく近いうち、ヤったら教えるさ」



三田はそう言って、吸い終わった煙草を地面に投げ捨て、踏みにじった。言うねぇ、と唸る健太に三田は、

「心配ねーよ。ネタ撒いたら早速食いついて来たから」と自信たっぷりに口にして笑う。



淳の脳裏に、先日三田と話していた赤山雪の姿が思い浮かぶ。

淳の頭の中で全ての点が繋がり、彼は事態を把握した。



三田と健太はまだ会話を続けている。

「見たところ酒にも弱そうだしな」 「悪い男だねぇw」

「したらちょっと付き合えばいいだろ。なぁ健太、イイ感じのクラブどっか知らねぇ?」



三田が、赤山雪を落とそうとその毒牙を彼女に伸ばす。善良そうな顔をして、彼は今彼女に罠を仕掛けている。

しかし淳は、そのままその場を後にした。全ての事情を知ったところで、自分には関係のないことだと。

知るか







そして次の授業の為に教室に向かい、ひと通り授業を受けた淳であったが、彼の気分は優れなかった。

学生が周りに沢山居るにも関わらず、彼は不機嫌そうな表情で前を向く。



その視線の先には、まさに先ほど話題に出た赤山と当事者の三田が居るのだ。

男は本性をその笑顔の裏に隠し、今まさに彼女を落とそうと罠の手綱を手繰り寄せている。



彼等は親しげに会話し、傍目からはカップルに見えなくもない。

淳はそんな二人を見て、一双の◯キブリを想像した。惚気カップル、という意味合いである。



コンペの話を進める雪と三田を、彼等の横に座る聡美と太一もじっと窺っていた。

雪は資料を指差しながら、自分なりにまとめた改善点を口にする。

「良いアイデアですけど、この部分が少し不足してませんか?」



雪の鋭い指摘に、三田は何度も頷いて雪を賞賛した。

「君、やっぱり優秀だね~!ここもよく見つけたよね!」「いえいえ‥」



雪は照れたように両手を振り、謙遜した。そして謙虚にこう口にする。

「私は後から参加したし、アイデアも出してないし‥。

プレゼンだけで参加者メンバーとして名前を載せてもらうのが申し訳なくて‥。だから最大限お手伝いします」




それを聞いた三田は、その謙虚な雪の言葉に更に彼女を賞賛する流れへと会話を運ぶ。

「いやいやそんな風に思う必要無いよ。君は俺がスカウトしたんだからさ。

チームメイトも褒めてたし、満足してたよ。俺はマジで鼻が高いよ。頭も良い、パワポも上手い、協力もする、顔も可愛い‥」




三田は雪の瞳をじっと見つめながら、ひたすらに彼女を褒めちぎった。そういうことに免疫のない雪は、真っ赤になって首を横に振る。

そしてそんな雪の頭を、三田はその大きな手で優しく撫でた。本当のことだよ、と甘い言葉を掛けながら。

「どしたん?」 「いや、なんか気持ち悪‥」



淳は口元を手で押さえながら、何だかモヤモヤとした気持ちが胸に広がるのを不快に思った。

雪と三田は親しげに、未だ会話を続けている。

「あ、そうだ雪ちゃん。君夜間講義は聞いてる?」



三田からの質問に、雪はかぶりを振った。すると三田はニッコリと微笑み、雪を夕食に誘う。

「コンペの予選を通過して本戦まで行くことを考えれば、長くを共にするチームメンバーだろ?

一緒に飲みに行こうよ」




その三田からの誘いに雪が頷くと、またしても彼は彼女の頭を撫でる。

「次は君だけ特別におごるからさ」



三田は”雪だけ特別”ということを強調した。

女性を褒めて褒めて、特別という点を強く推す。彼が女性を落とす時の、必勝パターンなのかもしれない。

「それじゃメールするね。”火の窯”で会おう!」



三田は、次の授業に行くからと忙しなく教室を後にした。「火の窯」という学生の間で有名な飲み屋の名を口にして。

そして雪の姿が見えなくなるまで、彼は何度も振り返り雪に手を振っていた‥。



笑顔を浮かべながら三田を見送った雪の元に、サッと聡美と太一が寄って来る。

「なになに~?トキメキドキドキ?」 「久々に胸が萌えまスか?」 「うん、コンペにね‥」



からかうようにそう口にする二人に対し、雪は気まずい表情だ。そして聡美は少し心配そうに雪に聞く。

「それでチームはどう?信頼できる先輩なの?」



それに対し、雪は三田について「よく分からない」という評価を口にした。

彼は復学生であまり情報が無いし、それにどんな人でもそれは関係ない、と。

「まぁ‥とにかく良いチャンスだから。ちょっと損してもそれはしょうがないよ。

私も得るものがあるし、ギブアンドテイクって感じで‥」




その雪の発言に、聡美は納得出来たような気がした。結局グルワとかもそんなもんだもんね、と。

そして上方の席では、淳を始めとする四年男子達が今夜どこに飲みに行くかの相談をしている。

「俺も今日”火の窯”行きて~な~。行こっか?」 「俺そこ飽きたー」 「俺も」



柳も三田が行こうとしている、”火の窯”という飲み屋に行きたいらしいが、

同期の彼等は今まで”火の窯”に行き過ぎて、皆そこに飽きていた。その空気を読むように、淳が提案する。

「他の所へ行こう」



淳は三田が”火の窯”へ向かうことを知った上で、皆にこう提案した。彼等も淳の提案に乗る。

ゆで豚を食べに行くかそれとも鍋か‥。彼等は口々に言い合いながら、教室を後にした。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪と淳>男の本性 でした。

三田‥!女の敵‥!ですね。。


”火の窯”どんなところなんでしょうね。激辛料理が目玉なのかな?^^

最後に皆が口々に提案しているポッサム(茹で豚)



と、プルナ(牛肉と真蛸のすき焼きみたいなもの?)



どちらも美味しそうです。どちらを食べに行くのだろう‥。(蛇足)



次回は<雪と淳>察知 です。



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<雪と淳>誘い

2014-08-23 01:00:00 | 雪2年(コンペ事件)
これはとある秋の一コマ。赤山雪が二年生の時の話である。

「以上で発表を終わります」



雪は無事プレゼンを終え、ホッと息を吐いた。

今期取っている授業は、プレゼン形式のものがとても多い。

それでもグループワークよりは大分マシだと雪は思いながら、席へ向かう階段を上る。

 

そしてその途中で、前を向いて座っている”彼”に目を留めた。青田淳である。

淳は雪の方をチラとも見ずに、次の発表者のことを眺めている。



雪は出来る限りその姿すら見たくないのだが、今期は随分と彼と授業が被っている。

雪は幾分苛立ちながら、足音を立てて階段を上った。

どうした?また質問攻めにして恥かかせには来ないのか?今日は黙りこくっちゃってさぁ



そう思いつつ記憶に浮かぶのは、つい先日の教室での一コマだった。

彼は経営学科の皆が聞いてる中で、雪が学祭の為に考えたアイデアを叩き潰したのだ‥。



あれから、もう彼に関与するのは止めようと、雪は強く決心した。

それきり雪は彼の方を見もせずに、自分の席へと戻って行く。



そんな雪の姿を、青田淳は彼女が通り過ぎてから目で追っていた。

胸の中にはいけ好かない思いが広がるが、なぜか視線は彼女を追う。



しかし彼女が前を向いて座ると同時に、淳は再び前を向いた。

微かに後ろの席を気にしつつ。




そして授業は終わり、学生達は三々五々席を立った。

雪はお昼を食べた後、聡美と太一と合流して学館に行こうと頭の中で計画を立てる。

「あ、あのー‥」



するとそんな雪の元へ、一人の学生が声を掛けて来た。

見上げてみると、そこに背の高い男子学生が一人立っていた。



こんにちは、と男は挨拶して来たが、雪は彼の顔に見覚えが無かった。

雪は目を丸くして、しばし無言で彼と相対する。



やがて男は雪に向かってこう声を掛けた。「さっき発表してた子だよね?」と。

雪が曖昧に頷くと、続けて男は「経営学科?」と聞いてくる。

雪は警戒心を露わにしながら、「そうですけど‥どちら様‥」と小さく口にした。



男は雪が自分を怪しんでいると気付き、ポケットからIDを取り出した。雪はそこに書いてある学籍番号を見て小さく呟く。

「あ‥先輩‥」



他学科の学生が多いこの授業で、声を掛けて来た男は雪と同じ経営学科の先輩だった。

雪は幾分決まり悪い気持ちで初対面の挨拶をすると、男は「やはり同科の後輩だった」と雪を見て笑みを浮かべる。



男は雪に名前を聞いてきたので、雪は自己紹介をした。すると男は微笑みながら、今度は自分の紹介をする。

「俺、三田スグル。◯◯年度入学の、今四年生」



男の自己紹介を聞いて、改めて雪は挨拶を返した。

三田は今期からの復学生で、バイトや就活でバタバタしていたのであまり授業に顔を出せなかったらしい。

そして三田は雪に向かって、早速本題を切り出した。

「実はその為に話掛けたんだ。後輩の‥いや赤山さんの助けを借りたくてさ」



三田のその言葉に、雪は疑問符を浮かべた。

どういうことだか、まるで話が見えない。



三田は、「絶対に損はさせない」と前置きしてから話を始めた。

三田と友人達は”起業コンペ”に参加しているのだが、急な事情で本戦に必要なメンバーが足りなくなってしまったと。

三田は雪のプレゼン力を見て、即戦力になると踏んだらしい。そしてこれは雪にとってもメリットがある。

黙って話を聞いている雪に南は、参加するだけでも就活の助けになるし、

起業のアイデア大会みたいなものだから難しくは考えなくて良い、と優しく言った。



そして三田はニッコリと微笑んで、説明の最後に雪に向かってこう言った。

「経営学科に入った以上、こういうこともやってみなくっちゃ。だろ?」



雪は三田の話を聞きながら、頭の中でこう思った。

そういえば私‥勉強しかしてないもんな‥。この先輩は、色々と動いてるんだ‥。

私みたいな単位主義よりは、こういう人の方が就職も上手くいくんだろうな‥。




三田は雪に向かって、先ほどのプレゼンがすごく上手かったと言って彼女を褒めた。

幾分照れる雪に向かって、三田は爽やかな笑顔を浮かべて彼女を誘う。

「どうかな?一度考えてみない?是非やろうよ!ね?」



しかし雪は即答は出来なかった。

幾分気まずそうな空気を出しながら、「私はアイデアも出してないのに‥」と小さく呟く。



けれど三田は「そんなことは気にしないで」と言って首を横に振った。

突然の人材不足で切実な状態なんだ、と続ける。

「5名1チームで、残りの3人がほとんどやってるし、プレゼンテーターだけ必要なんだ。

他の授業に特に支障もきたさないよ」




雪は三田の話を聞けば聞くほど、そのおいしい条件に惹かれて行った。ただ参加してプレゼンをするだけで、

履歴書に書ける項目が一つ増える‥。

三田は微笑みながら、気さくな調子で言葉を続けた。

「それに同じ科の先輩後輩なんだから、変に難しく考える必要もないよ」



三田は鞄からメモを取り出すと、そこに自分の名前と電話番号を書いた。

「一度考えてみて」と言いながら。



絶対面白いからさ、と手渡された紙を持って、雪は笑顔で返事をした。「考えてみてからまた連絡します」と。

三田は「断っても良いから。変に負担に思わないでな」と優しく雪に言葉を掛ける。



そして三田は爽やかな笑顔を浮かべ、後ろ手に手を振りながら最後にこう言った。

「コンペのことに限らず、分からないこととか相談したいこととかあれば、連絡してな!」



そして三田は去って行った。何度も振り返り、大きく手を振りながら。

「連絡してね!」



雪は突然の申し入れに暫し呆気に取られていたが、

三田が去ってから、改めて手渡された紙を見ながら考える。



雪は三田に対して少し申し訳無く思いながら、安心したように息を吐いた。

つい変に警戒してキョドっちゃったけど‥かなり良いチャンスじゃん!気にしなくても大丈夫か?



するとその瞬間、すぐ傍をあの男が通り過ぎた。

雪は心底驚きながら、青田淳の後ろ姿を見て心の中で叫ぶ。

ギャッ!!ビックリしたっ‥!!



まるで幽霊のように現れた彼に、雪の心臓は跳ね上がった。

けれど彼は一度も雪の方を振り向かない。



確かに後方に彼の存在を感じたのに‥と雪は思いつつ、訝しげな表情をして彼の後ろ姿を見ていた。

無視しよう関わらないでいようと思うのに、彼はいつも心のどこかに引っかかる‥。





家に帰ってからも、雪はずっとコンペについて考えていた。

椅子にあぐらをかいて座りながら、鉛筆を口と鼻の間に入れるユニークなスタイルで。

就活‥コンペ‥。ただ黙って机に齧りついてるよりは‥。

履歴書に一行でも書くことが増えれば‥。




こんな機会は滅多にないと、雪は結論づけた。脳裏には、笑顔を浮かべる三田の姿が浮かんで来る。

あの先輩の印象も爽やかで良かったし‥



連絡してね、と言い去る三田を思い浮かべ、雪は照れたように少しニヤついた。

勿論それが目的では無いにしても、イケメンに越したことはない‥。



とにかく雪はやってみることに決めた。

そして三田に電話を掛けたのだった‥。



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<雪と淳>誘い でした。

雪より遥か下の方の席に座っていた淳が、なぜ最後に上方から下方へ通り過ぎて行ったのか‥。

それを思うと南と会話していた雪の姿をチラチラ見ていたであろう淳の姿が想像出来ます^^

気になってるのな。


次回は<雪と淳>男の本性 です。

*2015.5.18
日本語版にて男の名前が「三田スグル」となりましたので、
当ブログで使用していた「南俊彦」を変更致しました。
何卒ご了承下さい。


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