Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

多大なる勘違い

2015-11-19 01:00:00 | 雪3年4部(鍵の行方~多大なる勘違い)
「おーい!聡美さーん」



突然後方から声を掛けられた聡美は、思わずビクッと身を震わせた。

「ヒィッ!」「ヒィ?」



そんな聡美のリアクションに太一は首を傾げて彼女を見つめるが、

聡美は太一から目を逸らしながら、ボソボソと挨拶を口にする。

「う‥うん‥オハヨ‥」「?」

「あっ!そーだ聡美さん、聞いて下さいヨー」



そう言って太一は一方的に喋り出した。

「あーだこーだ‥ぺちゃくちゃ‥」



聡美は太一の方を見ることが出来なかった。

彼の話にも、適当な相槌を打つことしか出来ない。

恥ずかしくって‥恥ずかしくって‥。とてもじゃないけど‥目、合わせらんないよ‥

 

瞑った瞼の裏側に、先日目にしたあの光景が浮かぶ。

目を逸らしたくなるくらいの感情が、聡美の心を掻き乱した。

あたし一人、大きな勘違いしてたんじゃん‥。ずっとあたしのこと好きなんだとばっかり‥



萌菜の耳に揺れるピアス、親しそうに笑う二人の姿。

考えれば考える程、心の中が得も言われぬ感情でいっぱいになる‥。



しかし太一はそんな聡美の様子などお構い無しだ。

「聞いてマス??聡美さんってば!

 

太一の大声に聡美の身体は一瞬ビクッと震えたが、

頭の中はクリアになるどころか、困惑はますます深まるばかり‥。

こんがらがりんちょ‥



頭を押さえる聡美。

そんな彼女を見つめながら、太一の頭に疑問が浮かぶ。

「?」



すると彼らの前を、同期が通り掛かった。

聡美は急に大声を上げ、彼女を呼び止める。

「あっ!おはよーー!一緒に行こ!あ、あたしもう行くから!後でね!」

 

ビューーン!!



そう言うやいなや駆けて行く彼女の背中を、ポカンと見つめる太一。

明らかに避けられている‥。

「???」



聡美と太一、両者の間にある多大なる勘違いが、徐々に二人の関係性を狂わせて行く‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<多大なる勘違い>でした。短い記事で失礼しました!

聡美は太一には何でも話せるのかと思いきや、意識するとこんなにも乙女になっちゃうんですね~。

聡美はここらへんの自身の変化を自覚してるから、なかなか友達から一歩踏み出せなかったのかもしれませんね。

そして最後の聡美!”その場走り”!?



結構な頻度で出てくるその場走り‥↓




次回は<彼女の意図(1)>です。

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

この手に残るもの

2015-11-17 01:00:00 | 雪3年4部(鍵の行方~多大なる勘違い)
二人は日が暮れてから外へと繰り出した。近所をゆるゆると散歩する。



公園を歩いている最中、彼が言った。

「変わり無い?大学」



雪はニッコリと微笑んでこう返す。

「はい」



彼を見上げながら、雪は心の中で思った。

敢えて先輩にアレコレ話す必要はないと思った。

どうせ時間が経てば過ぎ去るだろう日常的ないざこざに過ぎないし、

私自身がちゃんと分かって行動すれば良い話だ。

それに前から思っていたけど、会社勤めの先輩にとってこんな話は、

子供のワガママと同じようなものだろうし




今学科で巻き起こっている”青田淳の過去問問題”について、雪は何も言わなかった。

代わりに彼からされた質問を、そのまま彼に返してみる。

「先輩は?」



そして彼もまた穏やかな表情を崩さず、こう言ったのだった。

「いつも同じだよ。いつでもね」



変わらない彼の答え。

以前は不満だったその答えが、今雪の心にピッタリと沿う気がした。

そうだ。疲れてるのはお互い様



淳は雪に向かって、「雪ちゃんが4年になったらすぐ、うちの会社に来てくれたら嬉しいな」と言った。

雪は拳を固めて強く頷く。

「めっちゃ頑張りますよ」「いいねいいね」



このまま同じ道を辿り、同じ方向を見て行きたい。

それを阻む余計な因子を、出来るだけ介入させないようにして。

会ってる間は楽しい話だけ



握った手の温もりが、口には出さない互いの気持ちを繋いだ。

二人はそのまま手を繋ぎながら、彼の車が停めてある駐車場まで歩く。




別れの前に、雪は彼に向かって深々と頭を垂れた。

「今日は本当にすみませんでした。ここまで来てもらっちゃって‥」

「分かったって。大丈夫」



すると淳は雪の肩を掴んで、彼女にこう言葉を掛ける。

「雪ちゃん、」



「会うの大変かもだけど‥努力してみよう」



彼はニッコリと笑顔を浮かべ、来週のデートプランを提案する。

「来週末は映画観に行こっか。ゼッタイだよ?」「はいはい!ゼッタイ~!」



楽しそうな先の約束に、心の中がフワフワと弾む。

こんな風に楽しく 笑いながら

 

二人は言葉なき気持ちを分かち合いながら、嬉しそうに笑い合った。

笑顔でいれば大抵のことは、きっと乗り越えて行ける‥。









週明け月曜日。

財務学会にて、代表の先輩は笑顔でこう言った。

「それでは期日までに必ず!発表の準備をして来て下さいね」



それを聞く雪も笑顔だ。隣にいる佐藤が口を開く。

「資料の準備進んでるか?まぁ赤山なら問題無いだろうけど」




その後授業に行くと、突然教授がこう言った。

「新しい課題があります」



学生達は顔を青くして「うわっ!前のもまだあるのに!」と言って騒いだが、雪はまだ笑顔である。

授業後廊下にて、女子学生達がこんな会話をしていた。

「期末まであとどのくらいだっけ?」

「マジで時間過ぎるの早すぎなんだけどー」



心の中で完全同意するも、雪の笑顔はまだ崩れない。

笑顔でいれば大抵のことは、きっと乗り越えて行ける‥。





‥か?

‥そうなのか?本当に??



人通りの少ない校舎の隅っこで、雪は一人震えていた。

次の週末までに全部コンプリート?絶対無理だと思うんだけど‥!



その仕事量たるや膨大である。

そもそもどうしてこんなにやることがあるのか?

私どうして財務学会通ってんだっけ‥なんでわざわざ仕事増やした?!私?!



頭の中に、財務学会に受かった時に嬉しくて小躍りしている自分が思い浮かんだ。

あの時は「きゃー!財務学会受かった!これで内定に一歩近付いた!」と思っていたが‥。

その上昨日は全く休めず‥課題も勉強も一つも進まず‥



路地裏のスパイごっこや先輩を実家でおもてなしする羽目になったなど、

週末は予期せぬ出来事が舞い込んでいっぱいいっぱいだった。

あぁ‥昨日は全部夢だったのかな‥



そんなことすら考えてしまう。

雪は今の自分の状況を省みながら、ふとこんなことに思いを馳せた。


”デキる人間は学業と恋愛を両立できる”と、一体誰が言ったのだろうか。



やるべきことが溜まって常にイライラしていても、



先輩から連絡が来た途端、まるで逃避するかのようにそれを受け入れてしまう。



頭ではこんなことしてる場合じゃないって分かっているのに、

先輩と一緒に居る瞬間だけは、現実から抜け出したような、フワフワ浮いているような気持ちになる。




最近は二人で歩いていると、周りの空気が違って見える気がしている。

そんなことあるはずないって、頭では分かっているけれど。

焦りから抜け出して余裕を感じたくて、私は意地になっているんだろうか。






並んで歩く先輩を見上げると、イルミネーションのせいだけじゃなく、キラキラ輝いて見えた。

どこか現実とは掛け離れた場所にいるような、そんな錯覚すら覚えながら。



だけど結局先輩が居なくなったら‥



あの時確かに握り締めていた、淡い光。






いつの間にか、消えてしまった。

この手に残るのは、窮屈な現実だけ










窮屈な現実を噛み締めながら、雪の心は重く沈んで行く。

気持ちが折れそうになる前に、立ち上がって己を鼓舞した。

「いやいや!やるぞっ!」



「勉強でも恋愛でも何でもござれのスーパーマンに‥俺はなる!!」



キラーン



拳を握り締めながら、目の前に広がる荒波を超えて行く決意を固める。

「出来ないことはない!」と声を上げながら、雪は立ち上がって進んで行った‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<この手に残るもの>でした。

今回記事の中ではカットしてますが、本家では雪と先輩の近所デートにこんな二コマがあります。

 

なんか滑り台のシーン、シュールですよね‥。先輩‥お父さんか‥!


そして去年は先輩に対してこんなだった雪ちゃんが‥↓



「先輩と一緒にいると気持ちがフワフワ浮いてるみたい」だなんて‥!!



いや~関係性変わり過ぎでビックリですよね‥。

恋愛に逃避しちゃうという雪ちゃんにもビックリですが‥。

恋は人を変えますね‥


次回は<多大なる勘違い>です。



人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

雪の家にて

2015-11-15 01:00:00 | 雪3年4部(鍵の行方~多大なる勘違い)
「えおうひへほうほうひふひはへうへひは(寝坊して本当にすみませんでした)」



口元をぐぐぐと引っ張られながら、雪は謝罪の言葉を口にした。

それを見ている淳は、穏やかな笑みを浮かべている。あぁ怖い

「ふーん」



彼はそれでもまだ手を弛めない。そこで雪は、こんなことを提案する。

「あうえおはへへひははひはふ(何でもさせて頂きます)」

「へー本当?」



そこでようやく淳は手を外した。

そして彼のリクエストを叶えるべく、二人は雪の家へと向かったのだった。


At home



楽しそうに笑いながら淳は「雪ちゃんの部屋には入らないからさ」と若干の配慮を口にした。

ったく‥最初からここに来てもらえば良かったじゃん‥!



雪はそんな彼の隣で、結局ここに舞い戻って来た現状を嘆いていた。

それならあんな大変な思いをせずに済んだのに‥。




二人がリビングへと移動すると、淳が椅子に手を掛けてこう切り出す。

「それじゃ、」



「早急にランチをサーブしてくれるかな。メイドさん」



どっかりと椅子に座ったお坊ちゃまは、メイドにランチを持ってくるようご所望だ。

「そしてその後にアイスクリームを食べさせてね。メイドさん」



なんという偉そうな態度‥。

雪はプルプルしながら、私が悪いんだから‥と必死に自分を納得させる。

コートと帽子を脱ぎながら、雪はチラと時計を見上げた。

先輩とご飯食べてちょっとお喋りして‥、

それで夕方くらいから課題を‥




頭の中でそんな算段をしている時、背後から彼の声が。

「あ~楽しみだなぁ」



のし掛かるプレッシャー‥。

とりあえず雪は冷蔵庫を覗いてみる‥。





コチコチと時計の針が時を刻む。

既に三十分が経過していた。

「すごい時間掛かってるけど‥」

「私料理出来ないので‥TT」



手の込んだものを作っているわけではなく、どうやら要領がつかめないらしい。

そして四苦八苦の末、ようやく一品出来上がった。

ドン!



「‥‥‥」



雪は俯きながら、必死に言い訳を口にする。

「思ったより材料がなくて‥ていうか皆家でご飯食べないからそれで‥」



しかし次の瞬間彼の口から出た言葉は、予想外のそれだった。

「美味しいよ?」



雪は思わず顔を上げ、彼の方へと身を乗り出す。

「ほ、本当に?お世辞じゃなく?」「本当だよ。食べてごらんよ」



淳はそう言いながら、雪にスプーンを差し出した。

あーん‥ おっ!



Yes!!



思ったよりも大分美味なそれに、思わずガッツポーズをする雪。

淳は微笑みながらこう呟く。

「俺も久々に食べるよ。誰かが家で作ってくれるご飯」



そう言って淳は、嬉しそうにスプーンを口に運んだ。

雪はそんな彼を見つめながら、穏やかに微笑む。



そして雪は、料理上手な母が作った惣菜もテーブルに並べた。

おかずも食べて下さいね



緩やかに過ぎていく時間。

満腹になった二人は、ソファに座ってぼんやりとテレビを観た。



ポカポカと温かい室内に、いつの間にか瞼が閉じる。

彼も、彼女も。



雪の頭がゆるゆると倒れて行き、彼の肩に乗った。

淳も次第に身体が倒れて行き、二人はもたれ合いながらお昼寝する‥。








二人が目を開けると、ちょうどおやつの時間だった。

彼が雪の家に差し入れたアイスクリームのバケツから、雪はワンスクープすくって彼に食べさせる。

「うーん」「おいしいですか?」



「いや」「なんですって?じゃあどうして食べさせてって言ったのさっ



首を横に振るお坊ちゃま。メイドさんは若干おかんむり‥。

「俺元々甘いもの好きじゃないもん」







お昼ご飯で使った食器も含め、皿洗いをすべく雪はシンクの前に立った。

すると淳が雪の頭をポンポンと叩きながらこう言う。

「俺がやるから」「いいですよ。あっちで座ってて下さい」



首を振りそう言ってゴム手袋を嵌めようとする雪。

しかし淳は後ろから彼女のことを抱き締める。

「もー邪魔して‥」



ぎゅっと強い力で抱き締める淳から、雪は身体をよじって逃げようとした。

けれど彼は腕を振り解かずに、そのまま彼女の耳元に優しくキスをする。






ザアア、と水の流れる音が、二人の間に響いていた。

雪の腰に回した淳の手が、ぐっと身体を引き寄せる‥。






ガチャッ



「服だけ変えたらすぐ行こーぜ」「あたし水もらっていい?」

「水?俺持ってくるよ」



デート中の蓮と恵が、途中で家に立ち寄ったらしい。

バタバタと足音が近づいてくる。

「あれ?」



「淳さん!いらしてたんスか?!」「やぁ」「うお!アイスだ!!」



間一髪セーフ‥。

雪は青い顔をしながら、なんとか変な場面を見られずに済んだことに安堵した。

「イエー!これ食べてから行こうぜ!キンカーン」

「こんにちは~」「あぁ。こんにちは」



そんな姉の様子を察してか、蓮がニヤニヤしながらこう言う。

「まさか俺らが居ない間にイケナイことしてねーよね?」

「アイスクリームをお食べ‥」



雪は言い返す気力もなく、二人にアイスクリームを勧めた。

恵が嬉しそうにバケツを覗き込み、蓮が淳を尊敬の眼差しで見つめている。

「やっぱり淳さんはスケールパネェっすわ!」「あたしこの味好きー!」



今回淳が差し入れたアイスクリームは、最大サイズのバケツなのだ。

ワイワイと騒がしい雰囲気の中、淳は楽しそうに笑っている。



そんな彼の笑顔を見つめながら、雪もまた穏やかに微笑んでいた。

時間とやることに追われる毎日の中で、不意に訪れた僅かな休息‥。



時計の針が五時を指す。

「ほら、雪ねぇも食べよ!」「うん」



ははは、とリビングに笑い声が響いていた。

家で過ごす穏やかな時間を、雪は一人噛みしめる‥。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<雪の家にて>でした。

今回若干意訳にしたところがありまして‥。

ここの先輩のセリフです。直訳だと↓

「早急にランチをサーブしてね。直接」



みたいです。「直接君がサーブしてね」って感じだと思いますが、

ちょっと萌え感を出すために雪ちゃんをメイドにしちゃいました‥。あしからず‥^^;

そして淳が差し入れたアイスクリーム‥↓



蓮の「淳さんスケールパネェ」発言から、これは韓国のサーティーワンでの一番ビッグなサイズ、

「ハーフガロン」サイズっぽいですよね。



5種類入って1200グラム‥。すごい量‥!

果たして赤山家の冷凍庫に入るんでしょうか‥。要らぬ心配‥笑


そして今回淳が「元々甘いもの好きじゃない」とか言ってますが、

どうして1部25話でケーキの美味しい店を知っていたのか?!


(懐かしの食べかけが汚いティラミス)

どうして3部72話で雪ちゃんが淳家に行った時、チェリーパイが出たのか‥?!


(蘇る手づかみチェリーパイ)

地味に往年の意識を覆す結構な衝撃でした‥今回の淳のセリフ‥


次回は<この手に残るもの>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

逃げまわる兎(2)

2015-11-13 01:00:00 | 雪3年4部(鍵の行方~多大なる勘違い)
バッ!



意を決して、雪は自分から静香の居る方へと顔を出した。

悪いことをしたわけじゃないんだから、自分が隠れる必要なんて無いー‥。

しん‥



しかしそこには誰も居なかった。

確かに向こうから足音が聞こえて来ていたはずなのに‥。

「えっ」



雪が目を丸くしていると、横の路地から聞き慣れた声が聞こえた。

「テメー、風呂までの道まだ覚えてねーのかよ!」



そう言いながら静香を引っ張っているのは河村亮だ。姉弟は会話を続ける。

「この辺りの道がおかしいのよ!」「テメーは今後運転すんなよこの方向オンチが

「関係ないっしょ」



偶然出会った弟に対し、姉は不思議そうにこう問う。

「てかアンタこそ仕事にも行かずに、

どーしてフラフラしてんのって話よ」




そっけなく答える亮。

「‥今日は出勤日じゃねーんだよ」「は?出勤日じゃねーんだよぉ?」

 

亮の言葉をオウム返しする静香。

すぐにはその意味が分からなかったが、

やがてピンと来たらしく、静香は目を見開いた。



「あ~‥ピアノ?」





「もーいいや。あたし風呂行くの止める」



そして姉弟は会話を続けながら、雪から遠ざかって行った。

雪はキャップを被り直し、二人に背を向けて駆け出す。



細い路地の方へと戻り、

違う通りへと走って行った。



そして次の角を曲がろうとした、

その時だった。





ぐんっ!!



「う‥」

「うわぁっ?!」



「捕まえた!」



青田淳は雪の服のフードを、まるで首根っこを掴むかのようにして捕らえた。

路地裏を逃げまわる兎一匹捕獲、である。

「ははは」



驚きのあまり、目を白黒させる雪。

「先輩?!」



淳はどこか嬉しそうに、得意げな表情を浮かべてこう言った。

「先回りしたんだ。俺の勝ち!」



雪は目を丸くしながら、信じれない思いで口を開いた。

「はい?!!どういうことですか?!先輩、ずっとこの辺りにいたんですか?!どーして‥」

「俺を驚かせようとしてアイスクリームの話持ち出したでしょ。声聞いただけですぐ分かった」



そして淳は、雪の耳元でこう囁いた。

「嘘吐いてるって」



ヒィィィィィ



ニッコリと微笑む淳と、白目になって鳥肌を立てる雪。

おまけにすぐ後ろに、河村氏の姿が見える。

「かくれんぼのつもりだった?まだまだだね」



雪は淳の肩を組むように抱え、後ろを向かせないように必死だ。

「ア‥アイスクリームは‥」「え?それ本気だったの?」



「はい。もう喉乾いちゃって‥食べたいです」「そっか。行こ行こ」



そして二人は腕を組みながら、繁華街の方向へと足を踏み出した。

ふと、後ろを向く淳。



しかしそこには誰も居なかった。






フン、と小さく息を吐きながら、淳は再び前を向いた。

手土産のアイスクリームを買いに、二人は共に歩いて行く。




一方河村亮の方は、ピアノの練習をしに雪の叔父のカフェに到着したところだった。

雪の叔父は不思議そうな顔をしながら、亮にこう問いかける。

「お前、あっちから来る時ずっとキョロキョロしてたよな?

誰か知り合いでも居たのか?」




叔父のその問いに対し、亮は「いえ」と返した後、ポツリとこう言った。

「オレを知ってる人間なんて居ないすよ」










路地裏で一服している静香の前で、甲高い声が上がる。

「あれっ?!静香さん?!」

 



突然目の前に現れた小西恵に、静香は「何なのよ」と言って顔を曇らせたが、

恵は嬉しそうに彼女に駆け寄った。

「静香さん?!この辺住んでるんですか?!うわ~!不思議な感じ!」



静香は手で顔を覆いながら、心の中で現状を嘆く。

もう‥何なんだよ‥ムカツク



そんな静香にはお構いなしに、恵はニコニコしながら鞄の中を探った。

「静香さん、グッドタイミング!

展示会の無料招待券が何枚か余ってるんですよ!こんな時に会えるなんて~

一枚差し上げます!あたしは彼氏と行くんで!




キラキラキラキラ、恵の瞳の中には希望が揺れている。

「なんなら2枚でも!」



「‥この‥クソッ」



静香はその善良なオーラを睨みながら、一人頭を押さえた‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<逃げまわる兎(2)>でした。

雪兎、遂に捕まっちゃいましたね~。

そして亮さんが着々とここを去る心積もりをしているのが切ない‥。


次回は<雪の家にて>です。

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

逃げまわる兎(1)

2015-11-11 01:00:00 | 雪3年4部(鍵の行方~多大なる勘違い)


路地の向こうに、先輩の姿が見えた。

雪は心の中で「ああもう!」と叫びながら、路肩に停めてあった車の陰に身を潜める。

なんで?!どうしてまだここにいるの?!



アイスクリームはそっちじゃないよ!



雪が差し入れをリクエストしたアイスクリーム屋は、繁華街の方にある。

この辺りは細い路地が迷路のように入り組んでいるから‥

あ‥道が分かんないのか



多分そういうことなのだろう。

雪はこの後どうするべきか、彼の後ろ姿をじっと見つめながら考えた。

う~~~~ん‥



キョロキョロと辺りを見回す。

河村’sはもう居ないよね?



だったら話は早い。

自分も先輩と一緒に行き、河村’sの居ない方へ誘導すれば良いのだ。

「せんぱ‥」



すると雪が口を開いた途端、後方から再び彼女が現れた。

「あーもう何なのこの辺?」



「全部似たような道じゃんよ、クソッ」



雪は自分の口元を手で覆いながら、咄嗟に壁の陰へと身を隠した。

目を白黒させながら、先ほど先輩が歩いていた辺りへと視線を送る。



そこに先輩の姿は既に無かった。

雪は胸を撫で下ろしながら、壁に凭れて息を吐く。



「う‥」



ズルズル‥



力が抜けて、そのままその場にへたり込んでしまった。

あーもう‥マジビックリ‥心臓もたない‥



冷や汗がしっとりと背中を濡らし、心臓が未だ早い鼓動を刻む。

するとどこからか、小さな物音が聞こえた。

タッ



「?」






振り返ると、薄汚れたコンテナや打ち捨てられたゴミなどが目に入った。

何か居るのだろうか?

猫か鼠か、それとも‥

しん‥



しかしそれきり、何の音も聞こえなかった。静香が近づいてくる気配も感じない。

雪は辺りを窺いながら、ソロソロと立ち上がる。

行ったかな?



その時だった。



ガンッ!!!



突然目の前の壁に何かがぶつかり、大きな音を立てて地面に落ちた。

思わず叫びそうになったが、咄嗟に口元を抑える。





地面に転がって回転しているそれは、どうやらコンディショナーの容器のようだった。

それを投げた当事者の河村静香は、ギリギリと歯噛みしながら毒を吐く。

「ネズミ野郎が‥。さっきからずっとカサカサ音立てやがって。ムカツクんだよ‥」

 

静香はそう言いながら、雪の居る辺りまで近づいてくる。

な、なんなの?!また戻って来たの?!



息を飲む雪

コツコツと大きくなる足音

「早くこの辛気臭いトンネル抜け出さないと‥」



雪は辺りを必死に見回した。

えっ?えっ?



彼女の足音が、近づいてくる。



「マンションに住めたらどんなにか良いか‥」



静香はそう言いながら、持っているカゴの中のボトルに手を伸ばした。

「風呂一つ簡単に見つけられないこんな町に、どうしてあたしが‥」



路地の迷路に迷い込んだ彼女の、苛立ちが徐々に募って行く。

一方雪は、身を隠せそうな場所を必死に探していた。

は、反対側に‥



今すぐ走って向こう側の壁に隠れれば、なんとか見つからずに済むかもしれない。

しかし立ち上がろうとしたその時、何かが雪を止めた。



突然心のどこかが、スッと冷めるような感覚。

雪は片膝をついた体勢のまま、今の自分の状況を省みた。

‥てか、私一体何やってるんだろ。

悪いことしたわけでもないのに、どうして隠れてんのよ?




あの人達と先輩が会ったからって何?こんな風に私がウダウダ悩む必要ある?



足元に、静香が投げたボトルが転がっている。



雪はそのボトルを見つめながら、「河村静香」という人間について考えた。

あの人、いつもは堂々としてるけど、

イライラするとあちこちでその苛立ちを発散させる




‥ていうか、どうして私は



何の躊躇いもなく感情を表に出す静香と、路地裏に隠れて逃げ回っている自分。

考えれば考える程、違和感は強くなる。



心の中に、強い思いが湧き上がってくるのを感じた。

そうだよ!隠れる必要なんてない!



雪はすっくと立ち上がり、壁に手を掛けたー‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<逃げまわる兎(1)>でした。

コンディショナー投げる静香‥ひぃぃ‥怖い‥

本家の今回の題名が「兎」なので、記事のタイトルにも「兎」を入れました。

以前「アリス」という題名の話もあったので、雪がアリスに出てくる兎のように走り回ってるからかもしれませんね。


次回は<逃げまわる兎(2)>です。

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!