Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

気になるアイツ

2014-02-20 01:00:00 | 雪3年3部(新学期~気になるアイツまで)
「あれっ?」



小西恵は、遠目に雪の姿を見た。

いつも一緒に居る友達二人と談笑しているようだ。恵は手を上げ雪の名を呼び、走り寄る。



しかし振り返ったその人は、雪ではなかった。

(それはただいま絶賛”赤山雪コピー中”の、清水香織であった。)



恵はすいませんと言って、そのまま後退りしていった。

目の前の”雪に似た人”は、どうやら二人組から道を聞かれていたらしく、軽く会釈をしてそのまま去って行った‥。






そして恵は本物の赤山雪に会うため、約束していたベンチに向かった。

そこには雪と聡美、太一が集まっていた。恵はカバンから、彼らに買ってきた欧州土産を取り出す。



美味しそうなチョコレート、見たこともないオーストリアのお土産‥。

聡美と太一は素敵なプレゼントにキャアキャアとはしゃいだ。見守る雪は嬉しそうに微笑んでいる。

「旅行から帰ってすぐ開講じゃ、気も休まらないんじゃない?」



そう言って心配する雪の言葉を受けて、恵が「そうなの!労らなくちゃ~」と冗談ぽく口にする。

雪が「今度サムゲタン食べにおいで」と優しく言うと、恵は嬉しそうに頷いた。



聡美が「ヨーロッパで何を見物したの?」と恵に聞くと、恵は美術館を中心に見て回ったと答えた。

実際に目にする絵画の数々に恵は圧倒されたようで、興奮した調子でその思い出を語った。

「恵は絵が本当に上手なの。高校の時だって、先生達大絶賛だったんだから!」



雪が恵の背に手を当てながら、まるで自分のことのように誇らしげに自慢する。

褒めても何も出ないよ、と言って笑い合う恵と雪は、まるで仲の良い姉妹のようだ。



そんな二人の仲睦まじい様子を目の当たりにして、少し寂しさを感じる聡美。黙々とチョコレートを頬張る太一‥。

秋の午後は、穏やかな時間が流れていた。


「あ!あたし次授業だ!」



恵はそう言って、カバンを手に立ち上がった。開講早々授業開始らしく、恵は忙しない様子だ。

すると不意に聡美が雪に声を掛けた。

「あ、雪!あんたもそろそろ先輩んとこ行かなきゃじゃないの?」



あ‥と雪は言葉に詰まった。

「そうなんだけど‥」と言葉を濁して恵の方を窺う。



すると恵はニッコリと微笑み、雪の手を取って祝福を口にした。

二人が付き合っているということは、以前雪から電話にて報告を受けていたのだ。

「雪ねぇと先輩付き合ってるんだよね!大体予想はしてたけどさ~!すごいお似合いじゃん~!」



雪は決まり悪そうに頭を掻いた。

何だかごめん‥と謝りもした。



恵はそんな態度の雪に、幾分困り顔で続ける。

「も~!何よ雪ねぇ!言ったでしょ!あたし全然気にしてないってば!」



若干気まずい表情の雪、あっけらかんとした雰囲気の恵‥。

その後ろで、聡美がしまったという顔で口を押さえている。



合コンの時‥と呟いて思い出すのは、先学期雪から聞いた、恵を先輩に紹介した時の話だ。

あの時恵は淳のことが気になっていて、雪に仲介を頼んでいた‥。



それがこんなことになり、雪は恵に申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、

彼女は「あたし今はヨーロッパで見たイタリアのイケメンたちで頭がいっぱいだから!」

と冗談を口にするような調子で言って、雪をホッとさせた。



そして恵は笑顔で雪達三人に別れを告げると、そのまま授業に向かって行った。

カップル成立記念で今度サムゲタンご馳走してよ!と明るく口にして、雪が笑いながら了承する。




腕時計を見ると、もう遅刻ギリギリだった。

恵は慌てるあまり、道中でカバンからスケッチブックを取り落とした。

「ああっ!」



地面に開かれた状態で落ちたそれを拾い上げると、幾つも描いてあるデッサンが顕になった。

何ページにも渡って描かれた、数々の青田淳の絵が。



正面を向いた顔、横を向いている姿、俯き加減に微笑む表情‥。

恵はスケッチブックを抱き締めて、何とも言えない気分だった。何だかんだで気になるアイツ‥といったところである。



恵はそこに描かれている幾数の淳の絵に目を落としながら、ポツリと一人呟いた。

「第一印象は完璧理想の王子様だったのになぁ‥。でもやっぱ描き甲斐あるんだよな!」



恵はしみじみと思いを馳せながら、スケッチブックを大事そうに抱えた。

そしてハッと我に返ると、大慌てで授業に向かって行ったのだった‥。








同じ頃。ここは雪の叔父が所有する倉庫である。

叔父は意外そうな顔をして、モップを持った亮を前に口を開いた。

「ふぅむ‥これ以上は業者にお願いしようかと思ってたけど、亮君が最後まで手伝ってくれるとは‥」



亮は叔父の言葉が聞こえてはいたものの、頭の中は倉庫に置かれたピアノのことでいっぱいであった。

チラチラと何度もそれを窺いながら、逸る気持ちを抑えきれずソワソワする。

「大丈夫かい?まぁ僕からしたら安く上がって万々歳だけど‥」 



「あっハイ!勿論ッスよ!!」

心配そうに亮を前にする叔父に、亮はニッコリと笑って了承した。

いつになくハイテンションな亮は、叔父に向けて饒舌な調子で喋り出す。

「最近は景気も悪いし、オレも日当貰えるし、社長はお金を節約出来るし!HA,HA,HA!

これまさにwin-win!一石二鳥!社長のお姉さんも得する、社長も得する、ザリガニ取ってどぶをさらうってもんスよ!」




亮は自分が手伝うことで皆がHappyになる、まさに一挙両得!と鼻息荒く語った。

叔父は積極的な亮を快く思い、頑張れよとエールを送って倉庫を後にする。亮は大口を開けて笑いながら、彼を見送った。



叔父がいなくなるのを見届けた後、亮はすぐさまピアノに近寄ってその周りをグルグルと回った。

「これこれッ‥!これこれこれ‥!」



昨日これを見つけてからというもの、亮は片時もピアノのことが頭から離れなかった。

亮は胸をドキドキと高鳴らせながら、ゆっくりと蓋を開ける。

 

亮はうわ言のようにコレコレ言いながら、震える指を鍵盤に向かって伸ばした。

心臓が口から飛び出そうな心情の中、ようやく鍵盤を押す‥。



がしかし、音は鳴らなかった。

スコ、と鍵盤はただ引っ込んだだけで、待ち望んだあの音は聞こえない。

「んだコリャ?!電子ピアノか?!コンセントは‥?!」



亮が大きな声を上げるのを、コーヒーを取って戻ってきた叔父が耳にして、

「あれ? 亮君ピアノ弾けるの?」と彼に声を掛けた。

「いいえ!弾けまっせん!!」



叩き返すかのような亮のリアクションに、思わず叔父はビックリしてコーヒーを吹き出した。

口を拭きながら訝しげな視線を送る叔父に、亮は直立不動で言葉を続けた。

「オ、オレみたいな奴が何で‥HA,HA,HA!まぁ‥ドレミくらいなら‥」



亮がそう口にすると、叔父は幾分残念そうな表情で言った。

「そうか‥。ゆくゆくはライブカフェにしたいと思ってたんだけど‥無用の産物になっちゃったなぁ」



叔父は溜息を吐きながら、捨てるのも勿体無いし修理も費用がかかるし‥と言って唸った。

亮はニコニコと笑いながら叔父の言葉に頷いていたが、頭の中はどうやったらピアノが鳴るかということでいっぱいだった。



そのため口にする言葉は、気もそぞろのため支離滅裂なものになった‥。

「そーっすよね!ごもっともでござーます!倹約すなわちエコ!ゴミ削減で青い地球!

我らの山や川は青く青く‥」




気になるアイツが後ろにある。

亮の心の中は”電気”でいっぱいだった。それがあればピアノが鳴るのだ‥。



指が無意識に鍵盤を弾く動作を始めていた。

雨が降りそうだ、という叔父の言葉など耳に入らないくらい、亮はひたすら焦れていた‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<気になるアイツ>でした。

恵ちゃん‥そんな誤解を生むもの持ち歩いちゃって‥!^^;


しかし淳の絵、上手です。

前回の”ピカソ淳”静香の絵と対称になっているんだと思います。

 

対称になっているのは絵だけではなく、静香と恵は美術という夢を諦めた者と、その夢を現在追っている者、という対称でもありますね。

かつての夢に憎しみすら抱く静香と、夢の最中でキラキラと輝いている恵‥。

 

この二人が相対する日が、いつか来るのかもしれません‥。


次回は<彼の将来>です。



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眠れる鍵盤

2014-02-19 01:00:00 | 雪3年3部(新学期~気になるアイツまで)
9:30 AM。

亮はセットしたアラームが鳴る前に、パチッと目を覚ました。



勢い良く上半身を起こすと同時に、携帯アラームが鳴る。

亮はその電子音を止めると大きなあくびをし、全身をぐんと伸ばした。



ようやく慣れてきた、朝の風景。

歯磨きをし、朝ごはんを作りながら携帯でニュースをチェックして、駆け足で職場へ向かう。

  

職場である宴麺屋の店内に入ると、既に雪の母親はエプロン姿で仕事に取り掛かっていた。

「亮君おはよ」 「うっす!おはよーございやす~!」



亮は威勢よく挨拶した後、まずは掃除掃除と言って店内を進んで行く。

しかしその間にも椅子や机にぶつかって大きな音を立てるので、雪の母親は気が気でないようだ。



この日初めて亮の姿を目にする雪の叔父は、彼の後ろ姿を見て雪の母親に声を掛けた。

「おっ!あれが新しく入ったバイトの子だね?」



雪の母親は頷き、娘の友達らしいと言って彼を紹介した。

叔父は、雪の友達ということは大学の‥?と口にするが、雪の母親は首を横に振った。

バイト経験は豊富らしい、と付け加えて。

「しかし力は結構ありそうだな‥!」 「力は強いですよ、力は‥」



雪の母が遠い目をする隣で、叔父はキラリと目を光らせた。

実は彼の経営するカフェが内装をリニューアルするということで、倉庫の掃除と整理に追われている最中らしい。

そこで力のありそうな亮を貸して欲しい、というわけだ。



雪の母親は彼の要求を飲んで、亮に叔父を手伝うように言った。日当も別に出るわよと付け加えると、

亮はニッコリと微笑んで返事をした。

「うぃーっす!了解しやした!」










‥しかし亮はその了承をすぐさま後悔した。

ゴミ袋を作っても作っても、一向に終わる気配が見えないのだ。

何だこのゴミの山は?!どーすればこんなになるんだ?!業者呼んで片せよ!



重いゴミ袋を沢山運んで、亮はもうクタクタだ。叔父はそんな亮に、ニコニコと微笑んで声を掛ける。

「あとはあっちの倉庫を大まかに整理してくれればいいから。残りは業者さん呼ぶからね」



ボロボロになった亮は力無く頷き、隣の倉庫へと歩いて行った。

日当ケチれば容赦しないぞ、と思いながら。



キイ、とその扉は開いた。

埃っぽい空気がドアの隙間から漏れ出てくる。

早く終わらせよう、と呟きかけた亮の目に、それはいきなり飛び込んで来た。



雑然とした室内に置かれた、一台のピアノ。

心臓が一瞬動きを止めた。ハッと息を飲んだまま、亮は目を見開いた。



叔父が亮の背中越しに、あのピアノは買ってはみたものの使わなかったんだと説明した。

亮は叔父とピアノを交互に見ながら、あんぐりと口を開けて呆然とした。



確かに今、目の前にある一台のピアノ。

頭で考える前に足は歩を進めていた。ゆっくりと、亮はピアノに向かって行く。



亮は初めてピアノを目にした子供のように、恐る恐るそれに手を伸ばした。

指でピアノをなぞってみると、黒いホコリが指についた。長らく誰にも触られていないのだ。



亮はゆっくりと、鍵盤蓋を上げた。

埃が舞い上がる中、蓋の下から鍵盤が姿を現す。



亮は吸い寄せられるように、その白い鍵盤を眺めた。

小さく震える指を、ピアノに向かってゆっくりと伸ばす。



しかし音を押さえる前に、亮はその指を引っ込めた。

何も考えられない最中だったが、何かが亮を阻んだ。







数年ぶりに見た鍵盤。

川のように広がる、白黒計八十八鍵。



すると鼓膜の奥で、音が聴こえた。

白と黒の川から聴こえてくるその音。

昔自分が奏でたあの、音の洪水‥。



亮は思わず目を瞑った。

脳を揺らすようなピアノの音が、鼓膜の奥を叩くように響く‥。












ショパン、シューベルト、ベートーベン‥。

亮の記憶の中に、何百回何千回と白と黒の鍵盤を叩いた日々が蘇る。

特に思い出されるのは、高校時代の練習風景だった。

神童と言われていた。亮にとって、ピアノを弾くことは生きていくことだった。







そして美術を専攻して日々を送っていた姉のことも思い出した。

しかし姉は亮とは違い才能が無く、彼女はいつも亮に突っかかった。

記憶に残っている。瞬きもせずに亮を射た、あの鋭い視線が。








亮は同じピアノ科だった、あの男のことも思い出していた。

あの時彼に対して、亮の警戒心は微塵も無かった。同じピアノを愛する仲間だとさえ思っていた‥。







最後に思い出すのは、遂に静香が美術を辞めた時のことだった。

淳の父との面談の末、その未来を諦めた時の姉の記憶。



アイツにはマジ心配が尽きねぇよ、とその時亮は口にした。

淳の部屋で寝転びながら。パラパラと漫画を捲りながら。







あの時は全然分からなかった。

夢を諦めるということ、夢を失うということが、一体どういう意味を持つのかを。







そう亮は心の中で呟いた。

ピアノの蓋を閉じ、それに背を向ける。



遂に鍵盤には触れぬまま、亮は倉庫を後にした。

しかし何度も振り返り、ピアノに視線を送った。亡霊のように、亮の心を離さぬそれに。








同じ頃、静香は家であるバッグを探していた。

高かったのにどこに仕舞ったのか思い出せず、静香は古い荷物がまとめてある箱にまで手を伸ばした。



そして奥の方に転がる、黒い筒を見つけた。

思わず蓋を開け、中に入っていた絵を取り出して広げる。



それは高校時代、淡い恋心を燃やして描いた淳の絵だった。

頑張って描いたが、散々亮に笑われた。そして結局、自分は絵を辞めることになった‥。

「クソッ‥何でまだこれがこんなとこにあんのよ‥!」



静香は忌々しそうに言い捨てると、そのまま絵をビリビリに破いた。

力を入れて紙を裂いていると、眠っていたあの感情が静香の心を揺らす。




あの時は分からなかった。

忘れていた夢が浮かび上がる時、どんな心情になるのかということを。









心の奥底に沈めたあの感情が、再び浮上して心を掻き乱す。

そしてその中に希望は一つも無い。ただ絶望と、落胆と、後悔だけが渦巻いている。









あの時は分からなかった。

あの頃咲き乱れていた希望や楽しさは、二度と取り戻すことは出来ないという、事実を。














亮の中のピアノは、静香の中の美術は、心の奥底深く沈んでいる。

しかし死んでいるわけではない。


それは今はまだ、滾々と眠っている。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<眠れる鍵盤>でした。

亮がピアノに手を伸ばそうとして、引っ込めるところ。

彼の無意識な葛藤が見て取れましたね。

そして弾いていないのに鍵盤を目にした途端頭の奥で音が鳴り出し、目を瞑って過去に場面を移すところ‥鳥肌モンですよね!

ここ、映像で見てみたいです^^。


あと気になったんですが、ここで出てきたこの人‥↓



だだだ誰?!(@@;)

エプロン着けてるということはバイト?それとも厨房の人‥?!

この先出てこないので、この人が誰なのか謎のままです‥。


次回は<気になるアイツ>です。


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漠然

2014-02-18 01:00:00 | 雪3年3部(新学期~気になるアイツまで)


雪と淳が手を繋ぎ楽しげに歩いて行くのを、直美はぼんやりと眺めていた。少し元気が無さそうだ。

そんな彼女を見て、横山が心配して声を掛けた。

「直美さん、どうしたんすか?どっか痛い?」



いきなり額に手を当ててきた横山に驚き、直美はパッと彼から身体を離した。

横山は手を離し謝ると、「直美さんが心配だったから」と彼女を気遣った。直美は困惑顔だ。



学科代表の仕事が多くて疲れているんじゃないか、と横山は言葉を続けた。彼女を優しげに見つめながら。

「大変だったら俺に話して下さいよ。ね?」



直美は困惑しつつも、なぜあんたが心配するのよと言ってその申し出を突っぱねた。

すると横山は淋しげな表情で俯くと、自分の気持ちを口に出した。

「‥分かります。直美さんも知っての通り、去年俺がしでかしたこと考えれば、

正直顔向け出来ないです‥」




横山は直美が彼を疎ましく思ったとしても、それは去年の自分の行動を省みればしょうがないことだ、と言った。

そして去年皆に迷惑を掛けた分、今年はその汚名を返上して行きたいと横山は静かに語った。

「‥それを何でわざわざ私に‥」



彼がなぜ自分にそんなことを言うのかと疑問に思って直美がそう口にすると、

「皆、謝罪しても取り合ってくれないから‥」と横山は淋しげに言った。



彼と彼女は並びながら、後輩たちの後ろを歩いた。横山は少し歩を緩めて、直美にしか聞こえない声で語る。

「‥勿論直美さんが俺のこと笑ったとしても、それはしょうがないことだと思ってます。

ただ‥直美さんが俺のことひどく嫌ってなかったらいいなと、思います‥」




それきり俯いた横山の横顔を見て、直美は彼に対するイメージが変わっていくのを感じた。

もっと軽くていい加減で、チャラい男だと思っていた‥。



直美は咳払いを一つしながら、彼に対するアドバイスを口にした。

少しきまり悪そうな態度で、しかし心から彼のことを考えて直美は口を開いた。

「別に‥笑ったりしないよ。とにかく、あんたが心からそう思って一生懸命過ごしてれば、

だんだん皆も分かってくれると思う」




そう直美が口にすると、横山はニッコリと微笑んで頷いた。そして彼女に、流し目の視線を寄越す。

「‥はい。そうしようと思います」



直美は幾分困惑しながらも、それからも彼の隣に並んで歩いた。

秋の空から注がれる木漏れ日は、二人の頭上からも降り注いでいる‥。










眩しかった太陽もとうに沈み、時刻は既に夜。雪は実家に居た。

シャワーから上がって台所に入ると、冷蔵庫の前で父親と出くわした。

 

父親の前に出ると、雪はわけもなく緊張した。

コーヒー飲む?と話しかけてみるが、父はそっけなく首を横に振るだけだ。



気詰まりの空気の中、雪が自分用のコーヒーを沸かそうとポットに手を掛けると、不意に父親が話しかけてきた。

雪は弾かれるように振り返って返事をする。



父親は眉を寄せながら話を始めた。難しい顔で雪を見る。

「新しく雇ったバイトの男‥本当にお前の友達なのか?」



突然河村氏のことが話題に出たので、雪は少し驚いた。脳裏には、以前彼から言われた言葉が蘇る。

じゃあオレは? お前の友達?



あの時雪は戸惑ったが、今や彼は雪の中で”知り合い以上”から”友達”になっていた。

頭を掻きながら雪が頷く。

「何っ?!あのいい加減な奴とか?!一体どこで出会った?!

もしかしておかしな奴なんじゃないだろうな?!」




すると父親は、凄い形相で雪に迫ってきた。よもや真面目な雪とヤンキー風味の亮が友達とは思わなかったのであろう。

雪は困惑しながらも、河村氏は変な人ではないと念を押した。何度も助けてもらった恩もある、蓮も気に入っている‥。

「変に外を歩き回るな。恋愛に夢中になりすぎるのも駄目だぞ」



父は溜息を吐きながら、娘に説教を垂れた。変な奴と出会う機会を作るような真似はせず、真面目に粛々と暮らせと。

彼氏って奴もおかしな男なんじゃないだろうな、と言った後、父はとある疑いの眼を雪に向ける。

「もしやあのバイトか‥?」



雪は予想外すぎる父親からの疑いの目を、必死で否定した。

「えっ?!違ッ‥!!彼氏は同じ大学の先輩で‥。

それに河村氏もよく知ればそんなおかしな人じゃないし‥」




ワタワタと説明する雪。父親は暫し眉を寄せていたが、やがて息を吐いて話を続けた。

「とにかく彼氏がどんな奴なのかまた詳しく説明しなさい。娘の彼氏がどういった人間なのか、

父親として知る必要があるからな」




雪はきまり悪く思いながら、大人しく頷いた。そして父親は雪自身の話へと話題をシフトする。

「そしてお前も三年生だが、就職活動は上手く行ってるか?お前なら大企業にも入れるだろう」



そうだろう? と言って父親は雪を見下ろした。

雪は父親からのプレッシャーを受け、何も言えず、顔を上げることも出来ず、ただその場で沈黙した。



父は溜息を吐きながら、娘に対する自分の気持ちを口にした。

「お前が良い環境で良い男に出会えて結婚でもすれば、心配事が一つは減るのにな‥」



夕食後の台所は、どこかうら寂しくて静かだった。冷蔵庫の鳴らす低い唸りに交じるように、父親からの小言が響く。

父はもう一度雪に質問した。先ほど初めて耳にした”彼氏”のことだ。

「その”先輩”のお前の彼氏は四年生なんだよな?どこに就職するんだ?」



雪は父からの問いに答えられなかった。

よく分からない、と口にすると、父親は呆れたように息を吐いた。

「彼氏のそんなことも知らないのか? 卒業するんだろう?

就職とか結婚とか、そういった将来の計画は何もないのか?」




雪はポカンと口を開けたまま、父親の言葉を聞いていた。

突如父から投げかけられた質問は、雪が今まで考えたことのないものだったのだ。

そういえば‥先輩とまだそういう話ってしたことないな‥



雪は暫し考えこんだが、それでも父に対して返す言葉は無かった。

進路のことはともかく、結婚だなんて‥。まだ彼と付き合って二ヶ月なのだ。将来を考えるも何も‥、と思って下を向く。



それきり黙り込んだ雪を見て、父親は雪に一つ忠告をした。

「‥お前もよく分かっているとは思うが、将来性や未来の展望が無い男は駄目だぞ」



父は雪が沈黙しているのは、しっかりしたところの無い男が相手だからと思っているようだ。

雪は何も言い返さず、素直に「はい」と言って頷いた。



そんな二人の会話を陰ながら聞いていたらしい母親が、

「事業熱に浮かされてる男にも注意して」と言って通りすぎて行った。



父親は苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちする‥。



お父さんの小言と、お母さんの癇癪が増えた気がする



実家に戻って数週間。

生活は快適だがどこか気詰まりを感じる日々に、雪は息を吐いた。

そして両親の変化を感じる度、私もまた焦燥感を感じ始める



雪は一人机に向かっていた。

授業のノートを開きながらも、ペンを走らせる内容はその焦りが書かせるものだった。

授業時間 変動あり? 課題はいつ始まるのか? 昼食の時間 友達と? 先輩と?



差し当たっての問題は、授業のこと、課題のこと。

そして今日直面した、誰とランチを共にするかということ‥。



雪は更にペンを走らせた。

就職‥無条件で大企業に入るべき? 結婚‥二十代で?それとも三十代‥?



雪は書いた文字を、結局グジャグジャと黒く塗り潰して消した。強い筆圧がノートにあとを付ける。

「あああもう‥!」



雪はそのままノートに突っ伏して唸った。

この家にいつまでも居るわけにはいかない、でも未来は漠然としすぎていて何も見えない‥。

雪の頭の中も、このノートのようにグジャグジャだった。

その日夜遅くまで、雪の唸りは響いていた‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<漠然>でした。

お父さん厄介ですね‥。

要するにお父さんの雪に対する希望は、大企業に入って孝行しつつ良い男を見つけ結婚‥ということですね。

親としては一般的な希望なのかもしれないけれど‥。雪ちゃんはプレッシャーでしょうねぇ‥。

うーん‥。


次回は<眠れる鍵盤>です。


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木漏れ日の中で

2014-02-17 01:00:00 | 雪3年3部(新学期~気になるアイツまで)
皆さんは覚えているだろうか。

去年雪が、平井和美から嫌がらせを受けていた時のことを。

青田先輩と親しいと勘違いされ、嘘をつかれたりミスプリントを寄越されたり‥。



その時雪は平井和美の後ろ姿に中指を立てた。

F◯ck You!



そしてふと視線を感じて振り向いたのだった。



そこには彼が居た。

ぼんやりとした視線を送りながら、彼女のその姿を目にする青田淳が‥。



‥ということと同じような場面が、今年に入ってまた繰り返されたのだった。

今度の相手は横山だったが‥。

 
 

去年と引き続き雪は石になった。

中指を立てた格好のまま‥。

デジャブ‥

 

雪はアセアセと先輩の方へ駆け寄った。

一体いつからここに居たのかという問いに、彼は「今さっき」と簡潔に答える。



「で、何でそうやってたの?」



彼はストレートに、雪が中指を立てていたことの理由を聞いてきた。

雪は幾分取り乱しながら、ゴニョゴニョと言葉を濁す。

「い、いや‥ただ‥横山の奴にちょいちょいムカついて‥」



そう言って顔を逸らす雪を見て、彼は意地悪く微笑んで首を傾げた。

「ふぅん?」



雪はタジタジしながら言い訳を口にする。

横山とは色々あったから、まぁその‥ゴニョゴニョゴニョ‥。



淳は軽く息を吐くと、彼女に向かって一つ提案した。

「そう?俺が話をつけようか?」



雪は思わぬ彼の発言に幾分驚いたが、すぐに首を横に振った。

先輩がそんなことをする必要は無いと言って。

‥何だかそうしちゃいけないような‥感じ‥



しかし雪が遠慮したのは彼を巻き込む心苦しさからではなく、

彼女の第六感がその提案を受け入れるのを拒否したからだった。

要するに、嫌な予感がしたのだ。

彼が意図を持って意地悪く微笑むのを、雪は去年何度も見てきたのだ‥。



それきり黙り込んだ雪を前に、淳は腕組みをしながら唸るように言った。

「度々イライラさせられるね」



去って行く横山の後ろ姿を眺めながら、「とにかく気をつけて。また何かあったら俺に言って」

と雪に伝え、彼女がそれに頷いた。

「まぁ‥あんな奴に度々神経使ってちゃ、時間がもったいないですよ」



雪は悟ったように、息を吐きながらそう言った。

すると隣の彼はニッコリと微笑んで、彼女の頭をワシャワシャと撫でる。

「そうだね。時間も財産だよ。大切に使わなきゃ」



それは、正しい答えを出した子供を褒めるような仕草だった。

彼は同じ場所に位置する先輩として、彼女があるべき答えに辿り着いたことを褒めたのだ。

そして彼は雪の目の高さまで背を屈め、大切な”時間”をどういう風に使うと良いかを提案した。

「例えば‥俺と昼飯食べるとか!」 「へっ?先輩お昼まだなんですか?」



二人はそのまましばし顔を見合わせた。

お互いが予想外の行動をしていたようだ‥。



雪は先に授業が終わったので、聡美と太一とすでに昼食を済ませたことを話した。

そうだったんだ‥と淳は残念そうに言った後、呟くようにこう口にした。

「俺と食べようよ‥」



先輩であり彼氏である淳にそう言われ、

雪の心にグサッと”リョウシンノカシャク”の矢が幾つも刺さった。



背中にペタッと”恋愛初心者”のレッテルが貼られる。

雪は弁解するように先輩に向かって言葉を紡いだ。

「す、すいません‥違う授業だったから、先輩は柳先輩と一緒に食べるだろうとばかり‥」

「柳は雪ちゃんと食べろって言って、先に行っちゃったんだよ」

「‥‥‥‥」



さすが彼女持ちの柳。

いつもおちゃらけているだけかと思われがちだが、何気に気を使える男なのである。

しかしますます立つ瀬のない雪は二の句を継げないまま、申し訳無さそうに彼の袖を小さく掴んだ。

「次は絶対一緒に食べますから」「次「は」じゃなくて次「から」ー」



タハハ、と雪が頭を掻く。

彼は少し拗ねながら、もう腹ペコだから行こうと彼女を促す。

はいはい、と雪が頷く。



秋風の吹くキャンパスの中を、二人は肩を並べて歩いた。

口にする会話は授業のことや履修のことなど、何気ないことだったけれど。



彼の横を歩く彼女は、ごく自然な表情で微笑んでいた。

一年前は敵対心と悪感情ばかりを抱き続けた、大嫌いだった彼の隣で。



ザワッ、と強い風に緑が揺れた。葉擦れの音が聞こえる。

その風は二人の間にも吹き抜け、彼女の柔らかな髪をたなびかせる。



風は彼のサラサラとした髪も揺らした。前髪が上がり、形の良い額が見える。

二人を真上から照らす日差しの眩しさに、彼は目を細めた。



いい天気、と淳は呟いた。

風に揺れる緑が、日差しを映してキラキラと輝いている。

 

彼が優しい眼差しで、彼女を見つめる。

彼女は少し照れたような表情で、その視線を僅かに下に流す。



彼が彼女の小さな手を握った。彼女がぎゅっと握り返す。

伝わってくる温かな体温が溶け合うと、一層距離が縮まった。



二人は木漏れ日の中を、手を繋ぎながら歩いた。

黄金色の日差しがキラキラと輝きながら、木々の間から二人に注ぐ。



雪は自然と微笑んでいた。

心の中に温かなものが芽生えゆくのを感じる‥。



そして二人は並木通りを抜けると、様々な科の学生達が行き交う広い道に出た。

お昼休みともあって、道は学生で溢れている。



そして次第に雪の心は変化していった。

握り合う掌に、ジットリと汗をかいていくようだった。

手を繋ぐの、初めてってわけじゃないのに‥何か今更‥



チラッと行き交う人達を窺ってみると、皆こちらを見ている気がした。

ジロジロと人々は、彼、彼女、繋いだ手、と左右上下に視線を動かし、すれ違って行く。



雪はだんだんと緊張していった。

先輩と付き合うことになった日想像していた悪夢を、現実に見ているような気になる‥。

青田と赤山付き合ってるらしーよ。 え?!マジで?!ありえないんだけど!

あれが経営学科の青田の彼女だと。 誰?あの子 何かの間違いじゃね?


違う違うって言っといて結局付き合ってんのかよ‥

いつまで続くことやら? しーっ!




雪は慣れない状況の中、極度の緊張で手足が同時に出るようになってしまった。

しかし隣の彼といえば相変わらずの端麗さで、何も頓着していないようだ。

そんな彼を意識して、雪はより一層ギクシャクしてしまう。



不自然な彼女の行動に、淳が「どうしたの?」と彼女に聞いた。

雪はビクッとしながら、構内をこうやって歩くのは初めてだから、と口にする。



雪は軽く息を吐きながら言った。

「なんだか変に恥ずかしくって‥」



神経過敏な自分の悪い癖だ、じき慣れますよ、と雪は付け加えたが、

それを聞いた淳はキョトンとした顔で問うた。

「ん?何が恥ずかしいの?」



皆に見られることが当たり前の淳は、彼女の言葉の意味が分からなかった。

変に手を振りすぎて歩いていたかと思って、繋いだ手をオーバーに振ってみる。

「こういうこと?」 「それともこう?」
 


彼の長い腕が、大きな軌道で弧を描く。

雪は彼からされるがままに、その場でブンブンと振り回された。

「いや、こうか?それともこうか?教えてよ」



うわあああ!と雪の叫びが辺りにこだまする。

止めて下さいと必死で口にする雪を見て、彼は心底楽しそうに大口開けて笑った。

「はははは!」



それはどう見ても仲の良いカップルのやり取りで、彼の大きな笑い声に皆が振り返っていく。

そして去年から彼に目を付けていたキノコ頭は、ハンカチを噛み血の涙を流し、悔しがっていた‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<木漏れ日の中で>でした。

いや~いいですね!爽やかな回でした。

木漏れ日や秋の風、そして彼と手を繋ぐ感覚‥。

それらを想像してみると、少し俯いて微笑む雪ちゃんの気持ちが分かる気がします。^^


次回は<漠然>です。

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立腹の理由

2014-02-16 01:00:00 | 雪3年3部(新学期~気になるアイツまで)
授業が終わった味趣連の三人は、一路話題のステーキ屋さんに繰り出した。

三人はモグモグと口を動かしながら(太一はゲーム機を持った手も動かしながら)、料理に舌鼓を打つ。

 

お腹も落ち着いて来たところで、雪は聡美に先ほどのことについて切り出した。

「てかさぁ‥さっきどしたの?香織ちゃんにあんなこと‥」



雪が言及したのは、先ほどの授業の前に見せた聡美の態度だった。

清水香織に対して、あからさまな敵意を見せた聡美‥。



雪の言葉に、聡美は心外だと言わんばかりに憤慨して声を荒げた。

「はぁ~?!あの子いつからあたしたちと仲良かったっけ?!ってか突然何なのあの子!」



呆れ顔の雪の前で、聡美は腕を組んで唇を尖らせた。とにかく清水香織が気に食わないようだ。

「それでも同期同士なんだし、そんなに態度に表さなくたって‥」



そんな雪の発言を蹴散らすように、聡美は両手を上げて清水香織が嫌いなことを主張した。

雪も小さく本音を漏らす。

「まぁ‥私もあんまり好きじゃないけどさ‥」



雪の脳裏に、先学期グループワークでDを貰ったことが浮かんで来た。彼女はその一因を担ったのだ‥。

しかしそれとこれとは別、と雪は尚も聡美を説得にかかる。

「けど、そんなに態度に出してたら変にギスギスして‥お互い気まずいじゃない」



聡美はその言葉に、憤慨しながら意義を唱えた。

「気まずいだなんてとんでもない!さっき見たでしょ?あたしのこと完ムシ!幽霊扱い!」



マナーがなってないのは香織の方だ、と言って聡美は譲らなかった。

そして雪に対しても不平を鳴らす。

「てかあんたこそ清水香織だか清水アキラだか知らんあの子の肩をそんなに持つわけ?!

あたしよりあの子の方がいいってこと?!」


「そういうんじゃないって‥あの子のせいで単位落としたんだから‥」



雪が弁解しても、聡美の表情は解れない。

聡美が腹を立てている一番の理由がそこにあったからだ。

依然としてゴゴゴゴ、と音が聞こえて来そうな程の凄みで雪を見つめる。

雪は香織のことをどうこう言いたいわけでは無かった。雪の忠告は、聡美のことを心配している故だからだ。

「まぁ単位のことは過ぎたことだから‥。

てか同期同士でいがみ合ってたら大学生活に支障をきたすからここまで言ってるの!」


「嫌よ!だったらあの子にもそう言ってやってよ。あの子も悪いんだから!」



依然として雪からのアドバイスを突っぱねる聡美に、幾分困り顔で雪は言葉を掛ける。

自分の正直な気持ちを。

「あんたとあの子を同じ土俵に上げてどうするのよ。

聡美は私の友達だから、こうやって話してるんじゃない」




雪の気持ちを聞いて、聡美はキョトンとした表情で口を噤んだ。

怒りが心の奥に引っ込んでいく。



聡美はコホン、と一つ咳払いをすると、香織について気になっていたことを冷静に話し始めた。

「それはそうだけど‥てかあんたも感じなかった‥?あの子、突然服装も雪と瓜二つで‥」



雪は躊躇いがちに頷いた。

先ほど目にした香織の姿は、まるで自分のコピーを見ているみたいだった‥。



しかし雪はそう感じはしたけれど、自分の気のせいかも知れないと聡美に言った。

自分はそんなに個性的な格好をする方ではないし、偶然服装がカブっただけかもしれないと。

「さっき青田先輩と付き合ってるって知った時の反応もオーバーだったし!」



服装や身の回りの物を雪と似せていることといい、先ほどの青田先輩とのことを知った時のオーバーアクションといい、

聡美は香織に対して胡散臭さを感じていた。何か企んでいるのでは、と。

「元々そんな敏感な子じゃないっぽいけど‥」



そんな聡美に対して、雪は正直な自分の気持ちを述べた。

そして特別問題になるようなことが無ければ、あまり気に病みたくないと彼女に告げる。

聡美はしぶしぶ頷いた。

「仲良くしましょうよ~仲良く仲良くネ~」



太一はいい加減な相槌を打ちながら、いい加減にステーキを口に運んだ。

しかし目は画面に釘付けなので、肉は鼻の辺りに運ばれている‥。

「あんたはゲームするか食べるかどっちかにしなさい

「ダメです。ステーキが焦げてしまいまス」「どんなゲームよ‥」



そんな折、雪の携帯電話が震えた。メッセージボタンが光っている。

雪ちゃん 俺授業終わったんだけど、今どこにいる?



雪は突然の彼からのメッセージに目を丸くした。今日は時間が合わないと思って特に連絡しなかったのだ。

雪はアタフタと出る準備をし、そのまま席を立つ。

「私先行くね!」「うん!」「急げ~」



聡美は、風のように去って行く彼女の後姿を見送った。

感慨深い思いと共に、少し物寂しい気持ちで聡美は息を吐く。

「恋をするとみんなああなるのねぇ。友達も家族もなげうって‥」

「ステーキが焦げました



太一のゲームも一段落‥。









雪は先輩が待つ場所へと駆け足で移動していた。はっはっと息を切らせながら。

すると前方から歩いてくる、見た顔の男女グループに出くわした。中心に居る男は横山翔だ。



雪は顔を顰め、咄嗟に彼らを避けようと足を止めたが遅かった。

直美さんが雪に気づき声を掛けたのだ。

「雪ちゃん!」 「こんにちは~!」



同じ学科の後輩や同期が、皆雪に挨拶する。

その中には以前雪を敵対視していた、後輩のキノコ頭の姿もある。



しかし今の彼女らといったら、雪を好奇心混じりの羨望の眼差しで見つめていた。

雪は自分の後ろに、彼女らが透かして見ている青田先輩の姿を見る‥。



そんな空気に耐え切れず、雪がその場を後にしようとすると不意に横山が声を掛けて来た。

雪は予想外の彼の行動に目を見開く。

「俺ら今から昼飯食べに行くんだけど、お前も一緒に行く?奢るぜ」



横山はニッコリと笑ってそう言った。

一体どの口がそんなことを言えるのか‥。雪は彼を見て露骨に顔を顰める。



後輩達がそれを聞いてキャイキャイとはしゃぐ中、雪は首を横に振って数歩後退った。

すると横山は大きな声で、さも今気がついたかのように口を開く。

「アッチャ~!青田先輩!やっぱり先輩に会いに行くんだよな?!俺ってばニブチンだな~!」



わざとらしい横山の発言だったが、後輩達は改めて”青田先輩と付き合っている雪”を目の前にして色めき立った。

いいものご馳走してくれるんだろうなぁ、いいなぁいいなぁと黄色い声が響く。



雪は微笑んではいたが、その笑顔は大分引き攣っていた。慣れない状況に耐えながら、余計なことを口にした横山を恨む。

そしてようやく直美さんが雪に別れを告げ、雪も軽く会釈をして彼女らに挨拶をした。



後輩達は先ほど横山が昼食を奢ると言ったことを話題に出し、高いもの頼んでもいいですかと言ってはしゃいでいた。

雪はその場に合わせながら笑顔を浮かべる‥。



すると去り際に横山が雪に近付き、耳元で小さく囁いた。

「すごいねぇ?」



感心するよ、と言い捨てて横山は雪に背を向けた。

雪がその無礼に声を上げようとした時には、もう横山は皆に交じって去って行くところだった。



あの野郎‥と呟く雪の顔が獣になる。



そして雪は横山に向けて中指を立てた。

F◯ck You、昼飯でも何でも勝手に食ってろ!



ケケケと笑いながらも、ふと視線を感じた。

何の気なしに振り返る。



そこには彼が立っていた。

ぼんやりとした視線を彼女に送りながら、いつか見たような彼が息を飲む‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<立腹の理由>でした。

太一のゲーム‥一体何なの?!(笑) ステーキを焼くゲーム‥?気になりますね^^;

そして聡美の雪に対する愛、何だかいじらしいですね。

雪を取られたくない気持ちと、香織の思惑に雪が飲まれやしないかと心配する気持ちと‥。

不器用なほど真っ直ぐな聡美、応援したいですねぇ。

そしてここの聡美のセリフ↓ 本家版ではこう言っています。

「てかあんたこそ何でソンミンスだかソンボムスだか知らんあの子の肩をそんなに持つわけ?!」



ソンボムス氏はフリーのアナウンサーで、司会者としても有名だとか。

名前が似ている、という点で引き合いに出したんでしょうかね‥^^; 

記事での清水アキラ‥厳しかったですかね?汗



最後の雪が中指を立てるカット、デジャブですね~!

次回記事の冒頭で以前出てきたカットも貼ろうと思います。


次は<木漏れ日の中で>です。


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