Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<和美>その真実(3)

2013-06-28 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)
和美は涙が止まらなかった。



先ほど聞いた青田先輩の言葉が、嘘であればどんなにいいかと思った。

あんな姿、自分の知ってる先輩じゃない。



あたしと仲が良かったじゃない、なんであんなにも人が変わってしまったんだろう。

和美の心の中は、動揺と先輩に対する不信で渦巻いていた。

自分も確かに酷いことをした、けれどホームレスが空き瓶を持っていると言ったのに、しらんぷりして行ってしまうなんて‥。



そこまで考えたところで、赤山雪のことを思い出した。

こうしている場合じゃない、和美は再び走り出した。




ようやく辿り着いた教育科の建物は、しんと静まり返っていた。



特に事件が起こったようには思えない。

和美は胸を撫で下ろした。

しかしふと気づく。



警備員が寝ている。



和美は2階へ階段を上ろうとした。しかし次の瞬間、誰かの大声と共に、2階から人が降りてくるのが見えた。



和美は速攻、女子トイレに走るとそこに隠れて様子を窺った。

声の主は警備員で、ホームレスの腕を掴みながら、居眠りをしている裏門警備を大声で責めていた。



「おい!起きんか!学生がケガをしちまっただろうが!」



和美は思わず口元を抑えた。



赤山の手のひらに、真っ赤な血が流れているのが見えた。





騒ぎがおさまり、皆建物の外へ出て行くまで、和美は女子トイレに隠れていた。



まさか本当にこうなるとは‥

だけど本人はまだ何も知らない。自分さえ黙っていれば事を乗りきれる!


和美は自分の罪を、黙秘することで水に流そうとした。

青田先輩にすでに事情を話してしまったが、彼も見て見ぬふりをしたのだ。

きっと自分に共感してくれるに決まっている。先輩には明日また説明しよう、と踵を返した時だった。


「平井」



和美はぎくっとした。振り返ると、暗闇に一人、彼が立っていた。

「遅かったな」



じっと和美を見つめるその冷淡な視線に、彼女はすくみ上がった。

どうしてここにいるのかという和美の問に、青田先輩は冷静に答える。



「俺が警備員を呼んだんだ。これ以上大事になるのはごめんだからな」

度が過ぎたってことくらいは分かってるよな、と彼は続けた。



「適当な所で止めるべきだろう?本当に一大事になるとこだったんだぞ」



まともに目を合わせられず、下を向きながら、すみませんでした‥と和美は謝罪した。

しかし彼は「俺に言ってどうする」と冷たく言った。

「怪我した本人に言うべきだろ」



和美は文字通り彼に縋り付いた。



自分が悪いのは十分承知している、だからどうか、後生だから、

「見なかったことに‥してくれませんか?」



「お願いします‥!」




彼は空を見つめた。

淀んで汚らしいものが、空中を浮遊しているのを目にしたような目つきで。


「本当に呆れた人間だな」



青田先輩は、和美の頼みを聞き入れると言った。

これまで世話になっていた部分もあるから、と。

「けど、これ以上はごめんだ」



もう懲り懲りだと言いながら、彼は和美を横切って、出入り口に向かった。

背中越しにそれどういう意味ですか!と問う和美に振り返って、一言だけ口にした。









「二度と俺に近付くな。」



「二度とな。」












翌日、和美はビクビクしながら登校した。



ただ構内を歩いているだけでも疑心暗鬼になり、



学生がヒソヒソ内緒話をしていると、自分のことを嘲笑っているようにしか思えなかった。

すると、自販機の前で青田先輩と赤山が会話しているのを目にした。



先輩は赤山に、昨日何かあったのかと聞いているところだった。



和美は隅に隠れながら、もしかして自分のことをバラすのではと気が気じゃなかった。

そんな視線に、彼が気づいた。




口元の笑み、

その言葉とは裏腹な冷淡な核(コア)、

やがて和美が自分の元から去らずにはいられないことを、見越しているようなその眼差し。



彼は赤山に言った。



「昨日の事件と関係ないなら、よかった‥」





和美は恐ろしさのあまり書類を落とした。

そしてその物音で赤山が振り返り、彼女と目が合う。

和美は何か言うどころか目を合わし続けることすら出来ず、逃げるように駈け出した。












それ以来、ただの一度も心落ち着く日など無かった。

時が経てば経つほど、耐えられない重圧に押しつぶされるようだった。

一体いつまでこんな毎日が続くのだろう。

永遠に続く地獄のような日々。

和美はその辛さに、学期が終わったら休学することを決心した。



そして彼女は去って行った。

自らの意志で。






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<和美>その真実編でした。

ホームレス事件の顛末でした。
事件の翌日、青田先輩は事の顛末を知りながら、雪に声を掛けてたんですね~。

横山にしろ平井和美にしろ、程度を超える行動を仕出かした人物には、先輩の無言の鉄槌(結果休学)が
くだされるようです。

恐ろしいですね‥!

さて次回は大学の文化祭が催されることになり、その出し物について学科で話し合います。
雪と淳のお話です。



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<和美>その真実(2)

2013-06-27 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)


もうとっくに日も暮れて、大学の構内は静寂に包まれていた。

その中を、一人息を切らせて平井和美は走っていた。



どこだっけ?教育科‥。裏門!

普段足を運ぶことのない他学部の校舎へ、曖昧な記憶を辿って向かう。

あの子に何かあったら、と思いながらも、途中何度も立ち止まり、和美は自問自答した。



こんなに慌てなくても、裏門にも警備はいるはずだ。

そもそもあのホームレスが教育科まで辿り着けるかどうかも定かではない。

もしも赤山と鉢合わせしたら気まずいし、もうこんな時間なんだから、赤山はすでに帰ってるんじゃないか‥。


しかしやはり嫌な胸騒ぎは抑えられず、先ほどバーで見た血まみれの手のひらが思い浮かんだ。



和美はもう一度走り出した。

今度ははっきりと心の中で自問する。



万が一あの子に何かあったら‥あたし、どうなっちゃうの?

和美の頭の中には、最悪なシナリオが思い浮かぶ。



もし自分のせいだと赤山にバレたら、彼女は今までの出来事も含め皆に暴露するだろう。

もしかしたら教唆罪になったりして‥。そうなったら人生終わりだ‥。学科中の子たちに卒業まで嘲笑われるに決まってる。

その前に休学でもしちゃおうか‥


嫌な想像が頭を廻るし、建物は暗くてひっそりとしているしで、和美は恐怖で足が竦んだ。


躊躇っていると、向こうから見覚えのある人物が歩いて来るのが見えた。



「先輩!」



和美は青田先輩に駆け寄ると、必死に縋り付いた。

今までの事情を説明し、一緒に付いてきてほしいと頼み込んだ。



和美が説明をする間、彼は一言も口をきかなかった。

言葉に詰まったり、言い淀んだりする間も、彼はただ黙っていた。

ようやくこうなった理由を聞いていた彼に、和美は「イタズラで‥」と答えても、

先輩は言葉を続けようとはしなかった。



いよいよ和美の言葉が続かなくなると、青田先輩がようやく口を開いた。

「平井、」



「特別な理由もなしに、面白がって他人の悪口を行って、薬物を混入した上に、今度はこんなことまで仕出かしたっていうのか」

先輩は溜息を吐いた。その表情は、その態度は、今まで和美が見たことのないものだった。



そして次に発された言葉に、そのイメージはガラガラと音を立てて崩れていった。

「気に食わないなら無視すりゃいいものを、どうしてこう面倒くさい生き方をするんだ?」



「お前も、赤山も」

和美は言っている意味と、事態がよく飲み込めなかった。

しかしとにかく一緒に行って下さいとその腕を掴み、必死に頼み込んだ。



何を喋ってもどんなに訴えても、彼の身体は動かない。

いやむしろ、その表情はどんどん侮蔑を孕んだものに変わっていく。



和美は自分の懇願だけでは動いてくれないと判断し、

赤山のことを引き合いに出した。

先輩は彼女を気にかけてるんだろう、心配じゃないのかと問い詰めた。

すると、彼は一際大きな溜息を吐いた。



強い力で腕を振り解かれる。



「いい加減、俺を巻き込むのは止めてくれ」



和美は知らない人を前にしているみたいだった。

向けられた背中も、浴びせられた冷たい視線も、いつもの彼からは別人の印象を受けた。

「二人の問題は二人で解決すればいいし、」



「自分でやらかしたことは、自分で解決するんだな」




彼は行ってしまった。

暗闇に和美一人、呆然と取り残された。




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<和美>その真実(3)へ続きます。



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<和美>その真実(1)

2013-06-26 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)
時間は少し遡る。

平井和美は一人途方に暮れて涙を流していた。



先ほどの光景がフラッシュバックする。

「全部青田先輩にバラしてやる」 「今の話は聞かなかったことにするよ」



赤山雪のコップに下剤を入れたことがバレて、彼女から今までしてきた嫌がらせを、全部先輩にバラすと脅された。

それを青田先輩に聞かれ、彼は呆れたように溜息を吐いて去っていった。

和美は、赤山雪が憎くてしょうがなかった。

あの頭の切れる彼女のことだ、先輩が来る時間も場所も全て想定済みで、

自分を陥れようとしたに決まっている。

和美に背を向けた青田先輩の後ろ姿が、瞼の裏に映った。



先輩に嫌われちゃう‥




以来和美は、青田先輩の自分に対する態度が、心なしか変わったように感じていた。

先輩たちが、そして赤山雪が自分のしたことの噂を広めるんじゃないかと、



それで皆が自分を責め立てて、態度が急変するんじゃないかと、日々見えない恐怖に襲われた。



そして赤山雪と目があう度に、自分を嘲笑っているように見えて、



気が狂いそうだった。









ある秋の日、経営学科の皆にレポートが出た。

学生たちは文句を言いながら、それぞれどこでレポートを完成させるかとわいわい話し合っていた。

さっきA館2階の閲覧室へ青田先輩達が向かって行ったよ、と人づてに聞かされた和美は苛立っていた。



今まで一番先輩の近くにいたのは自分なのに‥。

そう思わずにはいられなかった。

伊吹聡美と赤山雪は教育科の資料室が良いと言っていて、友人もそこへ行こうと和美を誘ったが、

無下に断った。

青田先輩たちが歩いて行くのを目にして、そちらへ走って行った。









閲覧室でレポートに取り組んでいても、和美は全然集中出来なかった。

先ほど青田先輩に、一緒に行きましょうと言った時の彼のそっけない態度が頭をよぎる。

後ろに座った先輩の姿を、和美は何度も振り返って窺ったが、



彼が振り向くことは一度も無かった。



和美の友人が、もう遅いからそろそろ帰ろうと耳打ちしてきた。

和美は最後のチャンスだと思って、先輩にメモを渡した。

”先輩、もう遅いし一緒に帰りましょう”



彼は振り向きもせず、



「先帰って」と言っただけだった。




暗くなった構内を歩きながら、和美は友人に、ストレス発散に飲みに行こうと誘った。



今のこの状況が、やるせなくてしょうがなかったのだ。

和美がその心の内を友人に話そうとしていると、事件が起こった。

きゃあああ!



何者かに後ろから髪を引っ張られたのだ。

友人と二人がかりでなんとかその腕を振りほどく。

振り返ると、老女のホームレスだった。



何やらずっとブツブツと呟いている。

和美は早く構内から出て行ってと強い口調で言った。



保護施設でも何でも入ればいいじゃないと無下にも言った。

すると、



ホームレスはしくしくと泣き出した。

事情を聞くと、昔歌手を目指していたが、何らかの事情で諦めたというようなことを切れ切れに言っていた。

一曲だけ聞いてくれとホームレスは言った。

そしてそのまま歌い出した。



和美は怒りを通り越し、自分の運命に呆れて笑った。

最近、ツイてないにも程がある。


先輩はそっけない、ホームレスには絡まれる、自分を陥れる女はいる‥。



和美の頭に、一つの考えが浮かんだ。

荒廃した心の中に、暗く光る炎のようなもの。



和美はある建物を指差しながら言った。

「そんなに歌が好きなら、あそこへ行って歌うといいわ。

そうね、2階がいいわ。そこなら観客も多いし声もよく響くだろうから」




ホームレスは和美の言葉を信じ、よろよろと歩いて行った。



友人が、ホームレスが空き瓶を拾いマイクのようにしていると嗤った。

そしてその後姿も見えなくなった頃、遠くで何かが割れる音がした。



しかし和美は聞こえぬフリをして、友人と二人でバーへと向かった。






鬱憤晴らしで来たバーなのに、和美はちっとも楽しめなかった。

さっきのホームレスと、向かった先、そして割れた空き瓶が気になってしかたがなかった。

すると、一際大きなガラスの割れる音がして、そちらを見ると従業員がグラスを落としてしまったらしく、

床にはガラスの破片が散乱していた。



従業員は片付けようとしている間に、手を切ったようだった。



その手の平に、切り傷から流れる真っ赤な血が滴るのが見えた。



嫌な胸騒ぎがした。

和美は友人にお金を渡して、これで支払ってと言うやいなや走り出した。



向かう先は一つしかなかった。

先ほどの情景が思い浮かぶ。

「教育科の資料室なら人もあまりいないし、静かに出来そうだよね」



和美の心に揺らいだ暗い炎。

それに似た儚い光は、先ほどホームレスにその場所を教えた教育科の資料室から漏れる灯りと似ていた。




和美は走った。

暗い夜道を、そしてその心の中の闇を、振り切るように。


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<和美>その真実(2)へ続きます。



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<雪>巻き込まれた災難(2)

2013-06-25 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)
翌日、聡美が雪の包帯の巻かれた手を見て声を上げた。



大きな声で心配する聡美に、雪は昨日のことを説明しようとした。

しかし‥



気がついたら、周りの人達が皆雪の方を見ていた。

とっさに、「‥ツナ缶を開けようとして‥」と嘘を吐く雪。

聡美が、びっくりさせないでよと安堵の溜息を吐く。

「さっき聞いたんだけど、昨日教育科の校舎にホームレスが忍び込んだんだって!」



雪はビクッとしたが、昨日はすぐに帰ったんだともう一度嘘を吐く。

「そっかよかった~!なんでも女の子が一人殴られて、未だ意識不明らしいよ!」



雪が耳を疑っていると、前に座っていた学生が「違う違う!」と話し掛けて来た。



それを皮切りに、皆口々に昨日の事件についての推測を口にし始めた。

「私が聞いたのは逃げる途中に階段から転げ落ちて‥」

「俺はホームレスがその女の子を裏山に引きずって行ったって聞いたぞ」

「その子歯も全部折れちゃったらしい。学校も辞めるらしーよ」



噂というものは、回るのが早くて過大されていて、そして当たっていることは一つもないものだ。

雪は昨日、警備員さんに言われた通りになったと思い返した。

「たまに構内でこういう事件が起きた後によくあるんだが、

変な噂が立っちゃ本人が苦労するだけだから、このまま黙って過ごすのが一番だよ。

明日学校に来てみれば分かるだろうけどね」




黙っておいてよかった‥と思いながら、雪は自販機で一人ジュースを買った。



缶を拾おうと手を伸ばすと、鋭い痛みが走る。



思った以上に重症らしい。

溜息を吐く雪。

すると誰かが、雪の代わりに缶を拾ってくれる。



顔を上げると、思いもしない人物だった。





青田淳。

雪は躊躇いながら礼を述べる。すると、その手どうしたのと彼は聞いてきた。

これは‥と雪が説明しかけると、彼は言った。

「昨日何かあったの?」



「昨日‥ですか?」



不信を感知する、雪の勘が働いた。

彼のこんな眼差しを、いつか見た気がする。

それを見た後は決まって、雪の心にザワザワとさざ波が立った。

「昨日教育科で起きた事件で皆大騒ぎだろ。もしかしてと思って聞いてみたんだ。

雪ちゃんも残ってたのかなぁと思って」




雪は否定した。ツナ缶を開けるときに切ったのだと。

青田先輩はふぅん、と含みを持たせた返事をした。

自販機にお金を入れ、ボタンを押す。

「雪ちゃん‥転ぶわ手ぇ切るわ‥。もっと自分自身に気を遣ってあげなきゃダメだよ」



ゴトン、と缶が落ちる。

「え?」と聞き返した雪に、彼は静かに言った。

「いや、気をつけろってことだよ」



怪我をして損をするのは自分だろう、

そう言って、彼はジュースを手に取った。

「昨日の事件と関係ないなら、よかった」



お大事に、と言って彼は去っていった。

雪の胸にモヤモヤとしたものを残して。

あれのどこが心配してる顔なのよ‥。むしろ嬉しそうなんですけど



すると後方から、何やら物音が聞こえた。



振り返ってみると、平井和美だった。



一瞬雪と目が合ったが、彼女はすぐに視線を逸らすと駈け出して行った。



雪は事態が飲み込めなかった。

いつも青田先輩と会話をした後に和美と会うと、睨まれるのが常だったからだ。

あの二人に何かあったのだろうか。

理解不能の状況に、雪は一人立ち尽くした。







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雪が感じたデジャヴ。

先ほどの、彼のあの眼差し。



雪があれと同じ眼差しを見たのは、確か横山のことで新学期が始まってすぐ彼を問い詰めた時のこと。



そんなつもりじゃなかったのに、と彼が言った時。

あの時と同じ目をしていた。

これらの共通点は何だろう?

あの何もかも分かっているような目つき。

きっとその瞳の中に、彼の描いたシナリオが記されている。

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<雪>巻き込まれた災難、でした。

謎に包まれたホームレス事件ですが、次回その真実が明らかになります。
雪でも淳でもない、ある人物の視点から描かれるお話です。



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<雪>巻き込まれた災難(1)

2013-06-24 01:00:00 | 雪2年(グルワ、ホームレス事件)


秋もすっかり深まり、日の入りも早くなった。

その日、雪はレポートを完成させるための場所を探していた。



静かな場所が良いという雪に、聡美が教育学科の資料室なら、

今の時期教育学科の子たちは教育実習に行っていてあまり人はいないみたいだと教えてくれた。

教室の片隅で、平井和美とその友人もその話を聞いている。



友人は和美に私達もそっちへ行こうか?と言ったが、

和美はすぐに断った。そして廊下を歩いている青田先輩を見つけ、その一行に付いて行く。



今日中にレポートを完成させてしまいたい。

長丁場を見込んでコンビニで食料調達をした雪は、肌寒くなってきた季節に思いを馳せながら資料室へと向かった。



するとこの間和美と言い争っていたホームレスが、

女学生ばかりを狙ってイチャモンをつけているのを見かける。



まさか自分の顔を覚えてたりしないよね?と不安に思った雪は、

ホームレスに見つからないように裏道を通って行った。




教育学科の資料室は、聡美の言った通り静かだった。

警備室の警備員もその静けさに居眠りをしているくらいである。



資料室の中は、端っこの方に座ったのが意味のないくらいガランとしていた。

しかし今の雪にはこの方が都合が良い。



雪はレポートに集中した。

前学期は奨学金も少ししかもらえなかったので、それを取り返すつもりで気合が入っている。



静かな環境が功を奏して、レポートは捗った。

気がついたら3時間が経過していて、いつのまにか資料室には雪一人しか残っていなかった。



休憩もせず根を詰めていた雪は、ふと肩の凝りと眠気を感じて時計を見た。

終電までには帰らないといけないな‥と思った時だった。



ふいに、誰かの話し声が聞こえた。

それは後ろの資料棚の方からだった。

雪は、恐る恐る振り返る‥。



いつかの‥確か青田先輩がお金をあげたホームレスだった。

ぶつぶつと、彼女は何かをしきりに呟いている。



雪が動揺していると、彼女はこちらに向かって右手を上げた。



割れた瓶を持っている。あれで殴られでもしたらひとたまりもない。

雪に向かって手招きをするホームレスから、逃げ出そうと駆け出した時だった。

「うわっ?!」



雪は勢い良く椅子に弁慶の泣き所をぶつけてしまい、その痛みにうずくまった。

すると後ろから髪の毛を捕まれ、身動きが取れなくなる。



「どうして知らん顔するんだ」



雪は大声で助けを呼んだ。

誰かいませんか、助けて下さい!

その叫びは、しんとした資料室に響くだけ。

ホームレスは尚もブツブツと何かを呟きながら、雪の顔の近くで瓶を振り上げた。



よろよろとしたその動きに、雪は落ち着いて対処すれば大丈夫だと判断した。

「お、おばさん!」



雪はホームレスの腕を掴むと、そのまま力を込めて瓶を投げ落とした。



瓶は手の届かないところまでゴロゴロと転がって行く。

ホームレスがそれに気を取られた隙に、雪は彼女を突き飛ばして入り口へと走った。



ドン!!



次の瞬間、雪は誰かにぶつかった。

悲鳴を上げかけたが、顔を上げるとそれは警備員さんだった。



どうかしたのかと不思議がっている警備員は、次の瞬間資料室に居るホームレスに気がついた。

警備員はホームレスに駆け寄ると、雪に裏門の警備を呼んできてくれと指示を出した。

雪がドアノブに手をかけると、鋭い痛みが走る。



先ほどの瓶を投げた瞬間に、右掌をざっくりと切ってしまっていた。

恐怖と怒り、そして動揺で雪の足はガクガクと震え出した。




心臓がドクドクと大きく鼓動を打つのを、ただ混沌とした思いの中で聞いていた‥。




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<雪>巻き込まれた災難(2)へ続きます。



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