Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

一難去ってまた一難

2014-08-31 01:00:00 | 雪3年3部(彼を待つ~窮地と逆上)
翌日横山は登校したが、ずっとソワソワ落ち着かなかった。

キョロキョロと辺りを見回して、進む足が先を躊躇う。



やがて横山は意を決して教室へと入ったが、別段変わったところはなさそうだった。

誰も変な視線を送って来ないし、仲間は普段通り横山に挨拶して来る。



横山はホッとして息を吐くと、自分の取り越し苦労だったと胸を撫で下ろした。

あそこは毎日数十のスレッドが上がる巨大掲示板だ。同じ学科の人間が偶然あのスレを目にする可能性は低い‥。

「おい横山!」



しかしいざ声を掛けられると、横山は過剰反応して声を荒げた。

「何だよ!俺がどうしたって?!」



仲間達はそんな横山に戸惑いながら、昨日の出来事について言及する。

「お前昨日路上で人殴ったって‥」



友人が確認して来たのは、昨日構内にて発生した揉め事についてだった。

横山の脳裏にふとその一コマが蘇る。



横山はニッコリと笑顔を浮かべると、友人達に向かって軽い調子で弁解を始めた。

「あーそれは誤解だって!ちょっとふざけてただけ~俺がそんなヤバイ奴に見えっか~?

昔のダチなんだけど、あまりにも悪ふざけすっからよぉ~!」




横山の言葉を聞いた仲間達は、安心したように笑顔を浮かべ、その言葉を信じた。

横山は念の為、彼等に一つ釘を刺す。

「当然だけど、それでも動画とか上げんなよ?誤解されっからさ」



仲間は「OK」と言うと、納得して去って行った。

横山は胸を撫で下ろすと、ニヤリと口角を歪めて一人嗤う。

そうだよな‥見る奴居るかもしんねーけど、それが何だよ。

俺と赤山のことがバレたところで、それがあいつらにとって何になる?余計な心配なんて要らねーわ




ニヤつく横山。そんな彼の姿を見つけた直美が、横山に駆け寄った。横山はうんざりとした表情を浮かべる。

「翔!授業始まっちゃうよ?早く行こ!」「へーへー」



そしてそんな二人の後方から、赤山雪が教室へと入って来た。

雪は重い足取りで、鳴らない携帯を浮かない表情で眺めている。



雪が暫しその場で佇んでいると、先生が入って来て着席を促した。

もう授業開始時刻なのだ。聡美が大きく手招きをして雪を呼ぶ。

「ちょっと雪!早く座んな!」



聡美は隣に座った雪を見て、そのやつれ具合に驚いた。二人はヒソヒソ声で会話する。

「なんで遅れたの?てかどうしちゃったのよその顔は!」

「あ‥あんまり眠れなくて‥」



まだお喋りを続けたいところだったが、既に授業は開始されている。雪は黙って前を向いた。

そして座っている雪の姿を、横山は離れた席からじっと見つめる。



彼女の目の下にはくまがあり、明らかに何かに悩んでいる風だった。

授業も上の空で、溜息ばかりを吐いている。



横山はそれを見て、事態の展開を推測して笑みを浮かべた。

あの写メ見たな‥。これでも二人が別れなければ、あれを学科全体に広めてやる‥。

まぁ既にあの写真一つで青田の二股は確定なんだけどね~。別れなくても青田はとんだ恥晒しって寸法よ




横山は不敵な笑みを浮かべながら、計画通りに物事が運んでいる現状に満足していた。一人心の中で考えを進める。

青田さえいなくなれば、赤山の周りに居る目ぼしい男は俺だけだ。

それでゲームセット!




横山の頭の中にある、勝利の方程式。

しかしとある人物の存在が、その方程式が答えに辿り着くのを唐突に阻んだ。

いや‥あのヤンキー男が‥



脳裏に浮かんだのは、度々現れるあの素行の悪い男の姿だった。

夏頃から赤山の周りをウロチョロとあの野郎‥



あん時俺に暴力振るいやがって‥。そんで昨日も‥!そういえば頻繁に遭遇して‥。

 

そこまで考えたところで、横山の頭の中に一つの考えが浮かんだ。

‥!俺を追いかけて、写真撮ったんだあの野郎‥あのヤンキーが‥!



昨夜目にした自分の写真の数々。

あれらを撮った真犯人はあのヤンキー男なのだと横山は思い至ると、怒りのあまり小さく震え出した。

やっと青田を片づけたと思ったら!またもや邪魔者が‥!クソッ‥



すると横山は恨みの篭った目で雪の方を睨んだ。心の中が怒りで燃える。

赤山‥!あいつ、誰それ構わずはべらせやがって‥!しかも俺を攻撃する連中ばっかり‥!

どんだけお高くとまってんだよ!!




横山の怒りの矛先は雪へと向かった。

様々な男を飼い慣らしながら、自分にも気がある素振りをする雪に腹が立った。

一難去ってまた一難‥。思い通りにならない現状に、イライラが募って行く。



横山は今にも席を立って雪を問い質したい気持ちでいっぱいだったが、

ギリギリのところでそれを理性でセーブしていた。横山はイラつく気持ちを、頭を抱えて堪えている。



そしてそんな横山の姿を、一人冷静に観察している男が居た。

福井太一である。



太一はじっと横山のことを見ていた。

なぜ彼がここまで苛ついているのか、彼には思い当たるフシがある‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<一難去ってまた一難>でした。

横山の考えがぶっ飛びすぎて今更ながら愕然‥。

どうやったら雪が自分に気があると思えるのか‥スーパーポジティブですね‥^^;


次回は<現れた虎>です。



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見えない敵

2014-08-30 01:00:00 | 雪3年3部(彼を待つ~窮地と逆上)
「送ったった~」



横山翔は自宅にて、携帯を眺めながら一人ニヤニヤと笑っていた。

先ほど赤山雪に、「青田淳の浮気現場」の写真を送りつけたところだった。

「これでもう青田はオ~シマイ!」



雪にLINEで送ったメッセージは無視されても、メール添付したあの写真は必ず目にしているはずだと横山は確信していた。

そして青田淳と赤山雪の仲もこれまでだと、横山は二人の破局を見通して、一人機嫌良く鼻歌を歌う。

「ルッルル~♪明日の大学が楽しみだぜ~。今日の内に予め書いとこっと」



そう言って横山は、いつも書き込んでいる掲示板をクリックした。

そこにアップされるスレッド数は多く、横山が少し席を外した間だけでも幾数ものスレが立つ。

「ん?」



そんな中、一つのスレッドタイトルが横山の目に留まった。そこには、

”00gonのスレが全部ウソである理由”と書かれている。



「00gon」というのは、横山のハンドルネームである。

横山が不審に思いながらそこをクリックすると、予想もしなかったものが目に飛び込んできた。

その不吉なメッセージと共に。



私はその実体を全て知っている。



そこに映っていたのは、自分の後ろ姿だった。

視線の先の赤山雪と伊吹聡美、その他通行人の顔には、モザイクがかかっている。

そしてそのスレには、他にも赤山雪を追っている自分の、様々な姿が画面に踊っていた。

 

そしてメッセージは続けられた。

‥は、ストーカーだ。



私が全て見ていた。



横山は時が止まったかのように微動だにしなかった。

その見えない敵を前にして。



そして次のメッセージを目にした時、横山は激昂する。

もうこの辺で止めておけば?



横山は、自身の心臓が大きく跳ねるのを感じた。

な‥何だ?!どうなってる?!



スレ主が、突然横山に対してメッセージを送った。

ということは、横山がこのスレッドを見ていることを前提に主はこのスレをあげているということだ。

横山はパニックに陥りながら、続けてスレッドをスクロールした。

「?!」



そこには、スレ主とここのスレ住人とのやり取りが連なっていた。

”「00gon」がしていることはストーカーだ”というスレ主の言葉を住人達は信じ、「OOgon」を罵倒する。

「くそっ‥!」



それを見た横山は頭に血が上った状態で、激情のままに長文を書き込み始めた。

「あれは俺じゃねーから!変な細工してんじゃねーぞこのマジキチ野郎が!!

てかおまいらも何偉そうに抜かしてやがんだ!このキ◯ガイ野郎共!

つか、こんな写真撮ってうpしたテメェこそストーカーなんじゃねーの?!

俺がお前をサイバー捜査隊に申告して捕まえてやんよ!虚偽事実流布罪で臭い飯食うことになんだろうなぁ!?」




横山は肩で息をしながらその台詞を一気に書き込んだ。するとすぐに、スレ主からの返信がアップされる。

お前が今までここに書き続けたスレは、虚偽事実ではないのか?



腸が煮えくり返る程、冷静なその返信‥。

横山はその見えない敵を前にして、怒りのあまり身体を震わせた。

先ほどまで感じていた勝利の余韻は、もうとっくにどこかへ飛び去ってしまっている。



横山は震える手でマウスを握ると、覚悟を決めるようにその意志を口に出した。

「ちくしょうコイツ‥!捕まえてやる‥俺が‥!」



「ただじゃおかねぇ‥!」



横山の叫びが、半月の夜に響いて消えて行った。

見えない敵はその半月のように、実体が半分以上闇に包まれている‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<見えない敵>でした。

横山オンリーな上に短めな記事ですいません‥。

けれど次回もメインは横山‥。皆さん暫しご辛抱を‥。


次回は<一難去ってまた一難>です。


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不安の蔓

2014-08-29 01:00:00 | 雪3年3部(彼を待つ~窮地と逆上)


とっくに日は沈み、暗い空は街灯やネオンを反射して鈍く光っていた。

人通りの多い緑道で、雪は携帯と睨めっこをしながら座っている。



何度確認しても、先輩からの返信も着信も無かった。

時間だけが過ぎていく現状に、雪は焦っていた。

メールも着信も、見てるよね‥?

ひとまず待ってみよう‥明らかに誤解があるよ‥。会って話を‥




しかし彼を信じるという思いの傍らで、不安の種が芽を出し、心の中にその蔓を伸ばす。

あたしは淳の彼女だけど?



鼓膜の奥で響いた、河村静香の声。

彼女を目の前にした時に感じた、自分に対する嫌悪感。

狂気を孕んだ、あの恐ろしい瞳‥。



雪は意識的に、脳内の静香をシャットダウンした。自らに言い聞かせるように、強く心の中で思う。

待つんだ‥。今はただひたすら‥。



不安の蔓はするすると伸び、だんだんと雪の心を覆って行く。心臓がドクドクと痛いくらいに拍動する。

雪は漠然とした不安を持て余しながら、そこに座り続けていた。



時刻は夜の九時。雪はただ待つことしか出来ない。

彼が心の扉を開けてくれるのを、雪はその場でただ待つしか。



九時半になった。相変わらず携帯は沈黙している。

ぼんやりと落とした視線の先に、人々が楽しそうに通り過ぎて行くのが見える。



十時を回った。もう地下鉄に乗らないと、家に帰れなくなる。

雪はフラフラと立ち上がり、駅に向かった。もうそこには、誰も居なくなった‥。









真夜中過ぎ、雪は家に帰ってシャワーを浴びると、ベッドに横になった。

長い間地面に座っていたせいで、身体がギシギシと軋むようだ。



長い一日だった。

昼頃先輩からメールを受け取って、胸を弾ませながら走ったのがもう何日も前のようだった。

私に会いに‥?



わざわざ自分に会うために、彼は大学まで出向いてくれたんだと思っていた。

けれど実際のところ、彼は誰に会いに来たのだろう‥?



彼の腕に絡みつくように組んだ静香の腕。

雪の心の中にも、不安の蔓の先がヒタヒタと広がって行く。



雪は携帯を取り出し、もう一度横山から添付された写真を眺めてみた。

メッセージには”もっとあるから送ってやろうか?”と書かれている。



雪は写真を眺めながら、心の中で一人悶々と考えた。

どう見てもプルム館の近くだ‥。だから今日二人が大学で会ってたのは間違いない‥。

‥いやいや、ただの知り合いって言ってたじゃん。そんな関係なら、会って軽く腕組むくらい‥(‥

けど特別な関係じゃないなら、なんで”あたしは淳の彼女”なんて言ってからかってくるんだ?

そしてどうしてわざわざ大学で会うのか‥。


  

心の中に広がった不安の蔓は、切っても切っても伸びてくる。

そして雪の頭の中にふと蘇ったのは、去年偶然耳にした、彼と(おそらく)静香の通話だ。

夜ご飯抜かずに、ちゃんと食べろよ



あの時の彼の口調は、まるで彼女に対するもののように優しかった。

そして一年後、映画を観た後で静香から電話が掛かって来た後は、

彼はそっけなく「知り合い」とだけ口にした‥。



気の知れたような彼と静香の関係とそのやり取りに、やはりただならぬ仲なのではと雪は疑心を抱いた。

イライラする思いを抱えながら、思わず布団から飛び起きる。

てかやっぱり付き合ってたんじゃないの?!そしてその元カノとコッソリ密会ってか?!



しかし雪は頭を抱えると、冷静になろうと己を戒めた。

つい考えが悪い方悪い方へと向かってしまう。

違うって信じる‥。少なくともこういうことで嘘をつく人じゃない‥。



そして雪は開き直るように、両手を広げて独り言ちた。

「いや、てかそもそも私と河村氏だってそんな関係じゃないじゃん?

そんなに怒って出て行くことかぁ?!”俺は良くてお前はダメ”ってか?!」




そう口に出しつつも、雪は再び携帯に目を落としてあの写真を見る。

親しげに腕を組んだ、淳と静香の二人の姿を‥。






違うと言い聞かせてみても、開き直ってみても、結局心は晴れなかった。

不安の蔓は心の方方に向かって伸び、広がり続けている。



雪は再びベッドに横になった。

うつ伏せになりながら、今の自分の気持ちを客観視する。

何らかの誤解があるってことは分かるけど‥。それでも、傷つくな‥。

 

雪の手が、ぶらりと垂れ下がっていた。

あの時掴んだ彼の腕から、振り払われてしまった手‥。



彼が去り際に口にした、あの言葉が鼓膜の奥で響いた。

明日も来るから



今自分に出来ることは、待つことしか出来ない。

彼のその言葉を信じて、その背中が振り向くのを待つことしか‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<不安の蔓>でした。

亮の片思い自覚ムービーまで作った身としては、この台詞が‥↓

「てかそもそも私と河村氏だってそんな関係じゃないじゃん?」



亮さん‥ いや分かってましたけど!


しかし上記の台詞もそうですが、

先輩が”なぜあそこまで取り乱したか”に、雪ちゃんがまるで思い至らない所に愕然としました。。

横山からの横槍や静香の思惑に惑わされすぎて、雪ちゃんは先輩のことを全然理解しようとしてるように見えず‥。
(おまけに静香との浮気を疑う始末)

まぁ彼が背を向けてる以上しょうがないのかもしれませんが、読者としてはもう本当にもどかしい‥!

どうにか二人が一対一で向き合える時が来ますように‥。


次回は<見えない敵>です。


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彼を待つ

2014-08-28 01:00:00 | 雪3年3部(彼を待つ~窮地と逆上)


淳が自分の元を去ってから、随分長い間雪はその場に佇んでいた。

脳裏には様々な情景が思い浮かぶが、一番印象的なのは彼の後ろ姿だった。

去年ウンザリする程目にした、あの疎ましい後ろ姿‥。



胸の中がズキズキと痛む。

雪は溜息を吐きながら、携帯の発信履歴を眺めて俯く。



もう数え切れないくらい、先輩に電話を掛けていた。

けれど、一度も取ってもらえない。



通り過ぎる人々の間で、自分だけが取り残されて行く。

雪は居ても立っても居られずに、大学を出て街へと向かった。


私、先輩のマンションの前に‥



雪は以前一度訪ねたその記憶を頼りに、彼のマンションの前までやって来た。

それを知らせる旨のメールを送ろうとするが、送信ボタンを押す指がそれを躊躇う。






とりあえず雪は、ロビーにある呼び出しベルを押した。

けれど呼び鈴は繰り返しメロディーをなぞるだけで、一向に彼の声を聞くことは出来ない。

まだ家には居ないみたい‥連絡も取れないし‥。まさか何かあったんじゃ‥



何度かベルを押してみたものの、彼は不在のようだった。

雪は項垂れながら適当な所に腰掛け、騒ぐ胸の内を持て余していた。



すると不意に、携帯が鳴った。

ポケットの中を震わせたそれを、弾かれるように手に取る。



しかしその差出人名を見て、雪は顔を顰めた。

またもや横山からのメールだったからだ。



雪は憤りながらそれを無視し、内容は見ずにまた携帯をポケットに仕舞った。

暫しそのまま座っていたが、再び携帯を取り出して先輩にメールを打つ。

先輩まだ家には‥



しかしそこまで打ったところで、雪は手を止めて俯いた。

‥どっちがストーカーだっつーの‥



数十回の発信と、家の前で待ち伏せしていますと言わんばかりのメール‥。

雪は自分のやっていることを冷静に顧みて、やはりメールを送るのを止めた。

雪は再び携帯をポケットに仕舞うと、壁に凭れながらその場で彼を待つ。



ただじっと座っていると、あれほど騒いでいた胸の内も、混乱していた頭の中も、幾分落ち着いてくるのを感じる。

雪はぼんやりと空を見上げながら、彼との問題について思いを巡らせる。



横山の一件で喧嘩して何日も連絡しなかったから、

河村氏のことを話すタイミングを逃してしまった‥。その上家での問題が立て続けに起こって‥。

けど河村氏に関する話が出来なかったのは、私のせいだ。あまりに安易だった‥。




その上、あの時の先輩の表情‥。

いつもの怒った顔とは、全然違ってた‥。




また怒らせて、連絡も取れなくて、会ってもまたギクシャクして‥。

もうこれ以上こんなのは嫌だな。インターン中だし、明日も来るってのも保障出来ない‥。




雪の頭の中に、いつか彼と仲直りした時の場面が蘇った。

謝るべきことは謝って、解決すべきものは解決して‥。

私たち、そうすることに決めたんじゃなかったの‥?




これからは何でも言い合いましょうと、あの時二人の間で交わした約束。

雪は今こんなにも彼と話し合いたいのに、彼は沈黙を貫いている。



まだ待っていますとか、何かあったんですかとか、携帯には彼に問いかけるメールばかりが並ぶ。

けれど返信は無い。こんなメールを打ち続ける自分にも嫌気が差す。



彼は今怒っている。

だから自分がこんな風に彼を待ち続けることは、彼にとっては嫌なことかもしれない‥。



ここで待ち続けるのはただの自分の意地で、真相を知りたいのはただのエゴなのかもしれない。

もう待つのは止めて帰ろうかなと、雪は心の中でポツリと思った。

瞼の裏に、冷淡な瞳で自分を見る彼が浮かぶ。

怒る顔、見たくないもの‥



それに‥



後ろ姿も‥



去年の自分と現在の自分。

彼の背中の前で、同じ様に雪は立ち尽くしている。

心の扉を閉めた彼に、それ以上近寄ることは出来ないー‥。



昔も今も、自分に出来ることはただ彼を待つことだけだ。寂寥の思いを抱えながら。

電話でも、メールでもいい。

彼に向かって発したメッセージを、受け止めて返して欲しい‥。


 

すると不意に、メールが届いた。思わず雪は携帯に飛びつく。

4件の新しいメッセージ ”イタチ”



しかしそれは、またしても横山からだった。雪は苛立ちのあまり、その場で大きく声を上げる。

「あぁもう‥っ!マジで‥」



雪が声を上げる間にも、携帯には新しいメッセージが横山から入り続ける。

しかも更に悪いことに、警備員から「あまりここに長く居られると困る」と注意が入った。



雪は立ち上がりつつ、横山からのメールを開封してみた。

するとそこには、目を疑うような写真が添付されている。



淳と腕を組んでいるのは、河村静香だった。

雪は、写真の彼の後ろ姿に目を落とす。

今日‥着てた服‥



立った足から、力が抜けて行く。

雪は携帯に視線を落としながら、暫し呆然とその場に立ち尽くしていた‥。





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<彼を待つ>でした。

さて現在に戻って参りました。そして最悪のタイミングでの横山の爆弾投下!

不穏な空気が漂います‥。


次回は<不安の蔓>です。



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<雪と淳>妥協

2014-08-27 01:00:00 | 雪2年(コンペ事件)


胸にモヤモヤを抱えたまま、雪は授業を受けに教室へと向かった。

席に就き鞄から教科書を出していると、柳が雪に声を掛けて来た。

「赤山ちゃ~ん!ハ~イ?」



その柳の軽い挨拶に対して、雪は真面目に「こんにちは」と返した。

シラフの雪は、ノリの良かった昨日の彼女とはやはりどこか違う様だ。

柳は「つまんねー」と言ってブーたれる。



柳は一つ息を吐くと、雪に向かって早速話を切り出した。

「金曜日に学祭の準備があるっしょ?赤山ちゃんも参加だよな?」

「あ、はい」



いいねいいね~と言いながら、柳は頬杖を突いて改めて雪の方を眺める。

「赤山ちゃんもどうやらイエスガールなのかな?」と小さく笑いながら。



しかし当然雪には何のことやら‥である。頭に疑問符を浮かべる雪を、柳はからかうようにニヤッとしながら眺めていた。

そして柳はあることを思い出し、続けた。

「あっそーだ、赤山ちゃん知ってる?結局うちの科、

赤山ちゃんの意見採用することにしたんだよ。学祭で居酒屋借りるってやつ!」


「え?でもそれってー‥」



雪はそう言いながら、窓際の席へと視線を移した。

そこには、一人で携帯を眺める青田淳の姿がある。



雪が誰を見ているか知った柳は、後方からコソコソと雪に耳打ちをして来た。

「マジモードで否定しちまった手前、淳の奴ちょっと決まり悪ぃみたいよ?ちょっとあま~く見つめてからかってみ!」



雪の頭の中に、以前衆人環視の中で淳から自分の意見を否定された時のことが思い浮かんだ。

学祭‥



あの時の彼は、雪の意見など歯牙にも掛けなかった。雪は淳の横顔を眺めながら、心の中でこう思う。

なによ‥あの人今になって‥



あのプライドの高い男が、自分の案を取り入れることに妥協したと言うのだろうか‥。雪は不思議な気持ちだった。

すると、不意に淳が雪の視線に気づいた。彼と目が合った雪は、ビクリと身を強張らせる。

 

すると後方の柳が耳打ちして来たので、その指示通り雪は淳に手を振った。

その意図を察し、嫌な表情を浮かべる淳‥。

 

そして淳はプイッと向こうを向いてしまった。振った手のやり場に困る雪を置いて、柳は笑いながら去って行く。

私は何をやっているんだろうと、自問しながら固まる雪‥。



雪は一つ息を吐くと、上げていた手でそのまま頬杖を突いた。

彼は窓の外を向いたまま、雪の方には視線を寄越さない。



うんざりする程見たあの後ろ姿。積もり積もった悪感情は簡単には消えない。けれど‥。

それでも昨日は‥私を助けてくれようとした‥んだよね‥



酔って記憶は曖昧だが、場面場面はちゃんと覚えていた。

馴れ馴れしく自分に密着して来た三田の姿も、そこから手を引いて助けてくれた淳の姿も‥。

 

雪は複雑な思いを抱きながら、淳の後ろ姿をじっと見つめていた。

やがて聡美が来て隣に座るまで、彼に対してこれからどうすべきかを思案していたのだった‥。








授業が終わり、学生達は続々と建物から外に出て来た。

一足早く外に出ていた雪は、そこから彼が出てくるのを待っている。



あ、と声を発したのは、彼の姿を見つけたからだった。

青田淳は一人で、コートのポケットに手を入れたまま雪の居る方向へと歩いて来る。



雪はへりくだるような笑顔を浮かべながら、恐る恐る淳に向かって話し掛けた。

「あっ‥あの先輩‥昨日は‥」



しかしそれ以上雪は言葉を続けられなかった。

淳は雪の話に応えないどころか、雪の方を一瞥たりともしないのだ。



そして彼はまっすぐ前を向いたまま、雪を無視して歩いて行った。

あの疎ましい後ろ姿が、目を剥いた雪の視線の先にある。



雪はワナワナと震えながら、怒りが炎のように燃え上がるのを感じていた。

あ‥あのムカつく後頭部‥



自分の間違いを認めるのがヤダから、一度助けたくらいでオアイコってか?

そんな奴に礼儀正しくするとか‥アホらしいわ!!




雪が淳の無礼に憤っていると、不意に胃のあたりがキリキリと痛み出した。

あ‥胃が痛い‥。お酒飲んだからってなんで胃が‥



内蔵に響くようなその痛みに耐えつつ、雪は恨めしげな視線で淳の背中を睨んでいた。

雪のことはまるで無視したくせに、今彼は仲間と楽しげに笑い合っている‥。



少しでも彼に対して感謝を感じた自分を、今までの非礼に目を瞑ってお礼を言おうとした自分を、バカだったと雪は後悔した。

やはり彼は自尊心が強く、傲慢で堅苦しい。

そしてきっとそれは、この先ずっと変わらない‥。



そして金輪際彼のことは無視しようと、雪は秋の空に誓ったのだった。


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<雪と淳>妥協 でした。

3部にて追加された雪2年時のエピソードでした。そしてきっとまだもう少し続きますが、

とりあえず次回からまた現在に戻ります。


<彼を待つ>です。



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