Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<淳>扉の開いた日(下)

2013-07-06 01:00:00 | 雪2年<淳>扉の開いた日(上・下)
元来静かな性格だった。

いつも母親の影に隠れているような。



しかしそれだけでは、淳に与えられた人生は渡って行けそうにも無かった。

彼が望む望まないに関わらず、周囲が彼を放っておかないからだ。



家柄も良く、器量も良く、そして利発な彼は大人たちから可愛がられもしたが、

同時に妬み嫉みの対象にもなりやすかった。



自分は何もしていないのに、壊されたラジコン。

降り掛かってくる災いに似た人々の関心には、笑顔を絶やさないことが一番の武器であると、

彼の従兄弟は教えてくれた。





見せかけの笑顔を纏えば、人々は彼の意のままになった。

それはこの世界を上手く渡っていくために、彼が身につけざるを得なかった処世術だった。




人々を意のままに動かすこと‥。

それは、子供がおもちゃの車を好む理由に似ていた。

自分の思い通りに進む車に、子供は最初支配欲を得る。

手のひらの上で転がすように、あちらこちらへと車を走らせる。

しかし必ず、飽きてしまう時が来る。

予想通りの行動しかしないものには、必ず退屈が訪れるからだ。

関心が無くなればおもちゃの車は捨てられる。

子供とは、いや無拓な心とは、時に残酷なものだ。










淳が大学生になってからも、退屈な日々は続いていた。

繰り返される日々。意のままになる人々。




近付いて来る目的が透けるように見える。





一緒に居ればご飯をおごってくれるとか?

授業で同じグループになると良い成績を取ってくれるとか?

つるめば自分の価値が上がるとか?






お腹をすかせたネズミには、チーズを与えるのが一番だ。

望むものを与えれば、ネズミは大人しくただそれにありついている。


元来、静かな性格なんだ。

噛み付かれたりキーキーと鳴かれたりすれば、それだけ対処に労力を使うことになる。

ただ自分が疲れないために、毎日毎日見せかけで暮らしている。

恒常的で退屈な日々。募っていく倦怠感が、彼を孤独の闇に引きずり込んで行く。






その日は、特に何もない一日だったのだが、

淳は特別疲れていた。


笑顔を浮かべている自分が、世界の隙間にポトンと落ちてしまったような感覚。


埋もれている




埋ずもれていく


顔の無い人々の狭間で埋没していく自分自身を、彼はぼんやりと外側から眺めていた。





その諦めを映したような、沈んだ色を帯びた瞳で。



「雪!」








その声は、その名前は、暗闇の中に光る一点の灯火のように彼の気を引いた。

友人と談笑している、彼女の後ろ姿。








無意識の中で、視界に入る彼女。

淳は何度も意識的に目を逸らすのに、気がつくと再び彼女の姿を探していた。





その度に、目にしたものがある。

自分と同じものを映した、彼女の目。

世界の狭間に落っこちたような、沈んだ色を帯びた瞳。





友人に話しかけられ、笑顔で応える姿。




レポートや宿題の質問に、嫌な顔をせず答える姿。




その彼女の一挙一動に、紛れもなく憶える既視感。




淳は彼女の方を振り返る。

背中合わせの対と対が、片方の孤独がその一方を求めるように。




頭の中で、ある考えが実感となって淳の心に浮かんだ。






「ぷっ」




君は俺に気付き、

嘲笑い、

背を向けた。





なぜあんなに彼女が気に障ったのか。

淳は彼女にまつわる記憶が次々と浮かび上がってくるのを止められなかった。




中庭で耳にした、彼女と父親との不和。




騒がしい学生の狭間で浮かべる疲れた表情。


何もかもが気に障った。

だから他人を利用して彼女に災難を振り掛けた。




しかし淳は無意識下で気がついていた。


あの瞳を知っている。





あの姿を知っている。





向き合った彼女の瞳に映る自分は、





彼女と同じ表情をしていた。





彼は振り返ってみてようやく気がついた。

彼女の起こした行動を、その歩んだ道筋を、気がついたら自分もなぞっていたんだと。



その暗い世界に現れた、もう一人の自分。





同じ世界の狭間に落っこちた、二つの孤独。





その時、鼓膜の奥でカチャリと音がした。





ノイズから隔絶された世界で、それは生まれて初めて聞く音だった。













再び場面は彼の心の中へと潜る。





そこは暗く静かなところで、彼は一人きりで座っていた。


元来の彼が彼らしく居られる場所。


しかし心の中は微かにざわめき、凪いだ海に小さなさざ波が立つように、その襞(ヒダ)は揺らいでいた。





煩わしく厭わしい、しかしどうしても惹かれるような、言葉に出来ないような感情であった。





幽暗な世界の中に現れた、一点の鍵穴のような光明。


カチャリという音と共に、その扉は開かれた。







人生には、予測出来ないことがある。





そして俺にもやはり、予測出来ないことがある。



もう一人の自分に会いに行く。

さぁ、学校の時間だ。


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<淳>扉の開いた日<下>でした。

今回の話は台詞が少なく独特な雰囲気の話だったので、

もう完全自分の解釈で書かせてもらいました。

色の付いた文字以外は全て私の解釈ですので、ご了承下さいませ。。

一応扉の開いた日<上>と<下>で繋がるように書きましたので、二話続けて読んで頂けると嬉しいです。


長かった<淳>主人公の話は今回で終わり、次回は<雪>の話です。

さて今の時系列の話(雪2年、淳3年)ももう大詰め!早いものですね~。


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<淳>扉の開いた日(上)

2013-07-05 01:00:00 | 雪2年<淳>扉の開いた日(上・下)
今日は淳の心の中を覗く機会を得たようだ。

そこは暗く静かなところで、彼は一人きりで座っていた。




元来の彼が彼らしく居られる場所。

しかし心の中は微かにざわめき、凪いだ海に小さなさざ波が立つように、その襞(ヒダ)は揺らいでいた。

煩わしく厭わしい、しかしどうしても惹かれるような、言葉に出来ないような感情であった。

それは幽暗な世界の中に現れた、一点の鍵穴のような光明であった。





人生には、予測出来ないことがある。


人の心は、感情は、一体どのように生まれ来るのであろうか。


何かのきっかけで、変わることはあるのだろうか。







そして彼は仮面を被る。


さあ、学校へ行く時間だ。







「先輩、おはようございます~!」「おはようございます!」



後輩の女の子達が、淳と柳、そして健太先輩に挨拶をした。

「うん、おはよう」「ハ~イ?」



こちらを見て微笑む彼女らの中で、一人だけそっぽを向いた後輩が居た。

柳はそれに気がついて、淳にそのことを匂わしたが、彼は言葉を濁した。












あの全面対決以降、赤山雪とは冷戦が続いている。

それまで互いに積もった悪感情が爆発した後は、変に繕う必要もないくらい彼女とは疎遠になった。



学科こそ同じだが、二人が親しい友人のメンツはまるで違っていたし、

時たま顔を合わせることがあっても、その接点は交わることは無かった。











二人は背中合わせの対と対。

決して振り向くことは無かった。









ある日。

廊下の真ん中で、健太先輩と佐藤広隆が大きな声で言い争っていた。



内容を聞く限り、些細なことが発端の諍いだった。

健太先輩が挨拶の時に佐藤の肩を叩いた力加減が強すぎて佐藤が暴力は止めてくれと言ったのが原因で揉めている‥

というような、瑣末で小さな言い争いだった。

淳は溜息を一つ吐き、その暴風雨の中に突っ込んで行く。




「なぜそういつも喧嘩ばかりするんですか。喧嘩するほどのことでもないでしょう?」



健太先輩をなだめ、佐藤に先輩を敬うよう諭し、その場の喧騒を収める。

二人は和解することは無かったが、とりあえずその喧嘩は終わり、彼らは反対方向へ歩いて行った。

廊下はしばし野次馬でざわめくばかりになった。



柳が苦笑しながら淳に言う。

「お前、毎回あの二人止めんの疲れない?」



といっても、止めれるのはお前しか居ないけど、と柳は付け加えて笑った。

疲れるが、毎回ああなのだからしかたがない。

「騒がしいのを見るよりマシだろ」




そうは言ったものの、やはり疲労感は強く残った。

すると廊下の向こう側から、今度は女子達が言い争う声が聞こえて来た。





彼女らは、とある授業のレポート発表は誰がやるかという問題で揉めているようだった。

自分は資料集めと分析をどれくらいやったとか、やってないあなたが発表する分担を担うべきだとか、

損得勘定見え見えの諍いだ。



途中赤山が仲裁に入るが、



すぐに言い返されて、



彼女は黙り込んだ。




柳が女の戦いを見てケラケラ笑う横で、

淳はいつか見たような彼女の表情が気になった。




そして次の瞬間、彼女はニコッと笑いこう言ったのだった。

「私がやるから」




赤山は発表は自分がやると言った。実は資料分析もそのレポート整理も彼女が大半を担ったのだが、

その分内容は頭に入っているから大丈夫と言って、その場を収めた。

「喧嘩するほどのことじゃないでしょう?」




諍いは幕を閉じた。

二人の女学生はにこやかに、赤山に手を振って去って行く。



二人が去ると、彼女は乾いた笑いを引っ込めて、そのままパッと踵を返した。



共に一部始終を見ていた柳が、健太先輩と佐藤みたいだなと笑う。

そして淳に向かって、柳はこう言ったのだった。

「んじゃ、赤山ちゃんがお前の役?」




赤山と自分が同じポジション‥


淳はそれは違うと否定した。

「誰だってああするだろ。成績落としたくないなら、自分でやるのがベストだろ?」



またまた~と柳は笑った。そういう面もそっくりだと。


赤山雪と淳が冷戦状態であるということは、柳も重々承知しているようだった。

廊下で会った時や構内で出くわした時、二人がそっぽを向く度に、互いに同じ行動をしていると彼は指摘した。

もういい加減和解しろよ、と柳はいつものふざけた口調で言ったが、

淳は取り合わなかった。




ふと、振り返って彼女の後ろ姿を追った。

自分と、赤山が似ている‥?



そんなことはありえない。

程度の低い冗談に過ぎないと、淳は再び背を向けた。







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<淳>扉の開いた日(上)でした。

これは本家版3部のプロローグ部分に当たります。

淳と雪が、それぞれの喧嘩を止めるときに、「喧嘩するほどのことじゃない」と同じ台詞を言っていますね!

柳先輩の台詞を借りるなら、「キャッ!ピッタリだね!よっ、首席と次席!」ですねw





<淳>扉の開いた日(下)へ続きます。


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