Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

ファーストコンタクト

2013-07-31 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
雪と聡美が構内の廊下を歩いていると、不意に健太先輩とすれ違った。



いつもの彼とは違い、幾分ぼんやりとしているようだ。

雪は振り返って彼を呼び止めた。

「先輩!この前は‥てか私のメール見てくれましたか?」



健太先輩はこの間、恵と彼との面会現場に雪が隠れていたことに対して、もう気にしていないと言った。

続けて、恵には俺より青田のほうが似合ってると言って、頭を掻いた。

「恵ちゃんも青田のこと気になってるみたいだし‥お前も青田と仲良くなった甲斐があったな~」



否定する雪だが、健太先輩は授業があるからとそのまま行ってしまった。

どうしてこうなるんだろう‥。

最善策をと考えてきたのに、結局悪い方へ事態は流れてしまっている。



頭を抱え苦悩する雪に、「健太先輩怒ってないだけマシだよ」と聡美は一生懸命フォローした‥。






雪は学校が終わると、急いで地下鉄乗り場まで走った。

実はこの間実家に帰った際、教科書を忘れてきてしまったのだ。

明日も学校があるので、また下宿に帰ってくるつもりの雪は、急いで改札へ向かった。



母親にどの教科書が要るかを電話していると、今日の夜ご飯は焼肉だというので、

晩御飯も食べて下宿に帰ることに決めた。

鼻歌混じりに、雑踏の中を行く。



雪の後ろから、ある人物が付けてきていた。

雪は不穏な視線を感じると、パッと後ろを振り返った。



特に怪しい人影は見えない。

そのまま雪は改札へと向かったが、さすが彼女の感覚は鋭い。



柱の影から、河村亮がその後姿をじっと見ていた。


雪は冷や汗が頬を伝うのを感じていた。



その感覚に、去年横山からストーキングを受けた過去が蘇る。

その後プラットホームへ向かう道すがらも、雪は何度も後ろを振り返った。



忌まわしい横山の記憶を思い出してしまったことにも、嫌な気持ちになってしまう。



亮は雪の後を付けながら、そんな自分を焦れったく感じていた。

「あー‥オレとしたことが何やってんだ‥気になるなら直接聞いてみればいいじゃんかよ!」



亮は意を決すると、早足で彼女の後を追いかける。







雪はぼんやりと電車を待ちながら、音楽でも聞こうとMCプレイヤーを取り出した。



しかし手が滑り、ガシャンと音を立ててそれは地面に落ちてしまう。



慌てて拾おうとしゃがむと、彼女より先に誰かがそれを拾い上げた。



雪がお礼を言おうと顔を上げると、




その男は、真っ直ぐに雪のことを見つめていた。




彼は外国人のような、ハーフのような、独特の雰囲気があった。

雪はその端正さに顔を赤らめながら、たどたどしくお礼を言う。



すると男は、雪に「おい」と声を掛け、ストレートにこう聞いた。

「お前、青田淳とどういう関係?」



雪は一瞬固まったが、最近この質問を受けるのは実は三度目‥。(直美さん達、遠藤さん、そしてこの初対面の男‥)

頭を抱えて悶絶する雪に、亮は不信な目を向けた。



もう一度どういう関係か亮が聞くと、雪はパッと顔を上げて言った。

「そういうあなたはどちら様ですか?!」



亮は少し黙った後、目を合わせずに俺は淳の友達だと言った。

早く質問に答えろと急かす彼に、雪は苛つきを覚える。

「何の関係でもありません!」



その取り付く島もない答えに、亮は溜息を吐いた。

そして雪のことを、ジロジロと観察し始める。

「まぁ‥そうだよな。ルックス、背丈、ファッションからしても‥ナイもんな」



続けて「淳の奴がこんな低レベルの女を傍に置くはずがない」と言った亮に、さすがに雪もカチンと来た。

「あの!さっきから黙って聞いてりゃあぬけぬけと‥!何なんですか?!」



亮は天を仰ぎながら、納得出来ないながらも感じていた疑問が口を吐いて出た。

「んー‥、でもあいつのニヤニヤしたあの眼差し‥」



「絶対何かあるはずなんだよな‥」

「??」



プラットホームに風が吹き込み、電車の到着を告げるアナウンスがこだまする。

まだ青田先輩との関係を聞いてくる男を、無視して雪は電車に乗り込もうとした。



すると男は「待てよ」と、雪の腕を掴んだ。



雪の脳裏に、横山から受けたストーキングの記憶が鮮烈に蘇る。

その恐怖にも似た衝動を受けて、雪は咄嗟に叫んでいた。

「ぎゃあっ?!何すんのよ!!」



亮は、いきなりのその剣幕に驚きを隠せず、その目を見開いた。



そんな彼の目の前で扉は閉まり、淳と何かしらの関係を持った彼女を乗せて、地下鉄は発車したのだった。






雪は男から見えない席へ座ると、電車が彼を過ぎ去るまで身じろぎせずその身を凍らせた。

突然腕を掴まれたとはいえ、自分でも驚くくらいの大声を出したことが、なんだか恥ずかしい。

けれどあの男は一体何者なんだろう‥。

本当に青田先輩の友達なのか?なんだか変な人みたいだけど‥



雪は電車に揺られながら、彼の残像が瞼の裏に映るのを感じていた。






轟音を上げて過ぎ去る地下鉄を見送りながら、亮は一人プラットホームに佇んでいた。



しかし次の瞬間彼は被っていたキャップを地面に叩きつけると、苛立ちのあまり地団駄を踏む。

「なんだぁあのキ◯ガイ女?!淳とクレイジー同士お似合いじゃねーかよ!」



すると携帯が鳴った。♪卑怯と罵るな~♪との着信とともに表示された名前は、

彼の元職場の同僚だ。

「おい!もう電話してくんなって言っただろ?!オレはもうお前達とは縁を切ったんだよ!」



同僚は亮の言葉を遮って、社長が怒り狂っているということを彼に伝えた。

亮が社長から金を借りた巻き上げたまま姿を消したということで、社長は机をひっくり返す大騒ぎを起こし、

元職場は軽いパニックに陥っているらしいのだ。

亮は、俺が上京したことは社長に伝えるなと同僚に命令すると、もう切るぞと言って電源を切った。



気がかりな同僚の言葉に、亮は小さな胸騒ぎを感じ、黙り込む。




「Hi~! Where are you from?!」



突然亮は、彼を外国人だと勘違いしたバックパッカーに声を掛けられた。

しかし亮は英語が分からないため絡まれていると思い、大騒ぎし始める。

「何ほざいてやがんだ?!失せろコノヤロー!オレはヤンキーじゃねぇぞ!!」



地下鉄の構内に、その大声はしばし響いていたのだった‥。


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<ファーストコンタクト>でした!

亮の着メロはこれらしいです↓
CAN - Spring days of my life, Music Camp 20020202



亮と雪の初対面でしたね。高校時代は淳とのことを散々聞かれてウンザリだった亮が、今度は雪にしつこく聞くという‥。

今回は日本語版未掲載分もあり、漫画の流れを少し変えて記事を書きました。ご了承下さいませ。。

次回は<彼の周囲>です。

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接触

2013-07-30 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
「何だって?」



健太先輩が素っ頓狂な声を上げた。

それもそのはず。

雪は言ったのだ。「恵のことを、諦めてもらいたい」と。

健太先輩は雪に詰め寄った。自分の何がダメなのか。

「顔か?!金持ってなさそうだからか?!」



雪はその勢いに後退りながら、「あの子男の人に興味ないみたいで‥」と上ずった声で答えた。

「‥嘘じゃないだろうな?」



ここで健太の野生の勘が働いた。雪のことを疑り深く見つめると、きっぱりと言い切る。

「納得いかん。本人の口から聞くまでは何も信じないからな!」

そんなぁ‥と当惑する雪。



その彼女の態度に、健太はますます苛立ちを濃くして行く。

「直接会ってもしも断られたら、その時は潔く諦める!それでいいだろ?!」



その言葉をまだ信じられない雪が、「本当ですか?」と尋ねると、健太先輩はキレ気味に言った。

「どうしてそう人を疑うかね~?!約束するっつーの!

その代わり電話とかメールとか、仲介は一切認めないからな!Eye to Eye!分かったな?!」




「‥‥‥‥」






雪は悩んだが、恵にそのことを正直に打ち明けると、意外なほどすんなり承諾してくれた。

「ハッキリ言えば諦めてくれるんでしょ?

あたしのことはともかく、雪ねぇにこれ以上迷惑かけるのは許せない!」




鼻息荒くそう言い切る恵。

その威勢は頼もしいが、やはり雪にとってはいつまでも小さい妹分だ。

「やっぱり心配だし、私が言っとこうか?」と雪は恵を気遣ったが、

彼女は、もう自分は子供じゃない、大学生なんだから心配ないよと笑った。

「Eye to Eye、受けて立とうじゃない!面と向かってキッパリと断ってやる!」



そう言って目からビームを出す恵に、雪は親心に似た気持ちを抱いた。

小さな頃、ミルクを飲んで雪の肩に吐いたのが嘘みたいだと、恵の頭を撫でて言う。

その優しい記憶を思い出しながら。









健太先輩が、落ち合う場所は100歩譲って学校にしてやるよと言ったので、

構内の中庭のベンチで待ち合わせとなった。



待ち合わせ時間より早く、健太先輩はそこに座っていた。

鏡を見て身だしなみを整えた後は、ポケットからバラを一輪取り出して鼻歌を歌う。



何が諦めるだ‥やっぱりアタックする気満々じゃないか‥。



雪は草陰に隠れながらその様子を窺っていた。

健太からは尾行はお断りだと言われ、恵からはついて来なくても大丈夫だと念を押されていたが、

大人しくしていられるわけがない。

雪は盗み見るのに丁度良い場所を得たとほくそ笑み、そこで恵の到着を待った。



草の合間から、恵の姿が見え始めた。




「来た来た」「誰が?」「恵です。あー緊張する‥」





!!

「恵、って雪ちゃんの友達の?」



雪は心臓が口から飛び出そうになった。

青田先輩は、どうして隠れているの?と不思議そうに雪を見ている。

「健太先輩がこっちに居るって聞いて探しに来たんだけど、

雪ちゃんがこんな所に隠れてるから気になって‥」




青田先輩は健太先輩に貸していたノートを返して貰うために来たんだと言った。

草陰の合間から、ベンチに座っている健太先輩に気がつくと、青田先輩は立ち上がり彼に声を掛けようとする。

「あ、健太せんぱ‥」



きゃあ!ストーップ!!



考えるより早く、彼の服を掴んでいた。






ガサッ、とその瞬間草むらが揺れたのだが、丁度その時恵が健太先輩に声を掛けた。

「先輩!」



健太は恵に気がつくと、ベンチに座るよう促した。

このままでいいですと断る恵に、健太は聞く耳を持たない‥。


















草むらでは、フリーズした二人がそこに居た。





彼女を凝視する彼と、





彼より向こうの様子が気になる彼女。



彼女の手の平が、彼の唇を塞いでいた。









雪はなんとか気付かれていないことを確認すると、





そっと、自分の唇に人指し指を立てた。





それを見て頷く淳。





雪は彼が今の状況を理解したことを確認すると、そっとその手の平を外した。









雪の関心はもっぱら健太先輩と恵の方へと注がれていたが、





淳はそのまま雪を見つめて動けなかった。





予想外とも想定外とも言える彼女の行動は、彼に衝撃を与え続ける。







「彼氏と別れたんだって?じゃあ俺でいいじゃん」

「それとこれとは話がまた別だと思うんですけど」



必死で聞き耳を立てる雪を見て、淳はようやくその状況が掴めて来た。

草むらの隙間からあちらを窺い見ると、健太先輩が小西恵に花を渡そうとしているところだ。



今度メシでも‥とめげない健太先輩に、恵はハッキリと言った。

「先輩、話が違いますよ。自分が言った言葉には責任を持つべきだと思います」



目を見て諭されるそのもっともな正論に、健太は二の句も継げず、そのままダッと走り出した。

「クソッ‥!」



恵は健太先輩がこの場から走り去るのを見届けると、草むらに居る雪に声を掛ける。

「雪ねぇ、もう出て来てもいいよ」



雪はバレていたことに驚いたが、恵はカサカサ音が聞こえるからおかしいと思ったと笑った。

すると後ろから、恵の予想だにしなかった人が頭に葉っぱを乗せて現れる。



丁度通りかかってさ、と笑う青田先輩に、恵は驚きと喜びを隠せなかった。









その頃健太は、少し離れた所で一人考えを巡らせていた。



これで諦めたら男じゃないよな?と自分に言い聞かせると、また来た道を戻って行く。









雪たち三人は、その後談笑していた。



青田先輩はせっかくだしご飯でもご馳走してやりたかったけど、健太先輩に用があるからごめんねと言い、

恵の名前を覚えていなかった先輩に、彼女はもう一度自己紹介したりした。



雪は多少困惑していた。恵が青田先輩に気があるのはその態度からして明らかで、

自分がこれからどう振る舞えばいいのかについて考える必要がある。



ふと、視線を感じた。

振り向くと、遠くから健太先輩がこちらを見ている。



しかし彼はすぐ踵を返し、また向こうへと歩いて行った。


雪は漠然とした不安が、心の中を覆って行くのを感じた。


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<接触>でした。

ここが先輩→雪にとってのターニングポイントなんでしょうね~!

先輩はその予測できない行動をする彼女に対して、ここからより一層関心を抱くようになったのでしょう。

そして、先輩が恵に何度も名前を聞くのは「俺は君に興味ないよ」という遠回しな拒絶のような気がします。
(幼い頃からモテて来た彼は、自分のことを好きな女の子を見抜く力がかなりあると思っています)

マニアック豆知識としては、前回の雪のTシャツと今回の先輩のTシャツはまるでおそろ‥。

 

先輩もしかして、ペアルックを狙ったのか‥?!

次回は<ファーストコンタクト>です!

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痕跡の残像

2013-07-29 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
雪が構内を歩いていると、青田先輩が声を掛けて来た。



手には先日雪が恵に貸した本を持っている。

雪はお礼を言うと、本を受け取った。彼が髪の毛を切ったことに内心気がつきながら。



そのままニコニコと雪の前に立っている先輩に、

雪はどうかしたんですかと声をかける。



「俺、何か変わったと思わない?」



雪は最初彼が何を言っているのか分からなかったが、もしかしてと思い言ってみた。

「か‥髪?髪が短く‥」「うんうん!当たり!」



変じゃないかなぁと髪の毛を触りながら雪を見る先輩に、

雪はまさか嫌味じゃないよな‥と訝しげに思いながら、彼の髪型を褒めた。

(彼女は髪の毛にコンプレックスがあるので、サラサラヘアの彼が髪の毛について言及する事にことの外敏感だ)

「とっても似合ってますよ!先輩は格好いいから何だって‥」



まぁ嘘ではないが、とりあえずリップサービス‥と思いつつ、雪はにこやかに言った。

「え?本当に?」



雪の予想に反して、青田先輩は真顔で返して来た。

リップサービスという心の声が聞こえたんじゃないかと思うような反応に、雪はたじろぎながら尚の事褒める。



「あー‥、ありがと」



掴みにくい彼の見せるその表情は、多分照れてる時のもの。

雪はムズムズしながら、「本当のことを言ったまでです‥」と太鼓を叩いた。








遠藤修が廊下を歩いていると、ふと前に赤山雪が居るのが目に入った。

彼女のサインが必要な書類が事務室にあり、折を見て呼びだそうと思っていたところだったので、

遠藤は早速声を掛ける。



すると壁の影に隠れていて見えなかった、彼女が談笑していた相手と目が合った。



青田淳‥。

遠藤はビクッと身体が強張るのを感じた。



遠藤は青田淳から視線を外し、雪に事務室に寄るよう言うと、そのまま早足で去って行った。

雪は先輩にお先に失礼しますと言うと、早足の遠藤を小走りで追う。



雪の心に、モヤモヤとしたものが膨れ上がった。

なんだろう今の‥。



雪の鋭敏さが、先ほどの遠藤と先輩の間にあった変な空気を察知していた。

見ないフリ見ないフリ‥。気にしない気にしない‥。



雪はその背中を追いながら、必死に頭をもたげるものを振り切ろうとした。



事務室では、遠藤がブラインドの隙間から窓の外を窺っていた。



雪は就活キャンプ参加申込書の不参加欄にチェックを入れると、そのまま事務室を出ようとした。

すると、遠藤が声を掛ける。

「お前、青田と仲良いのか?」



雪はなぜこの人にそんなことを聞かれるのか甚だ疑問だったが、

作り笑いを浮かべると、たまに話す程度だと答えた。



雪が事務室から出て行くと、遠藤は再びブラインドの隙間から窓の外を見た。




事務室の丁度下のあたりに、青田淳の姿が見える。



にこやかに、通りかかった後輩達に挨拶をしていた。

遠藤は彼の笑顔を見ながら、あの忌まわしい記憶を思い出していた。


何を考えてやがるんだ‥



遠藤は青田淳の姿を見つめながら、心の中がざわめくのを感じた。

また何か企んでいるんだろうか、また自分を脅迫してきやしないか‥。



前を見つめる青田淳であったが、次の瞬間遠藤と目が合った。



遠藤は弾けるように窓から身を離すと、高鳴る心臓の音を聞きながら俯いた。



ブラインドの締められた事務室は暗く、彼の心の中も暗雲が立ち込めていくような気がした。





お気に入りの歌を口ずさみながら建物から出てきた雪は、彼の姿に気が付いた。



目が合うと、先輩は笑って雪に手を振る。



「ここで何してるんですか?」「もうそろそろ出てくるかと思って待ってたんだ」



裏門か正門かと聞く先輩に、雪は正門と答えた。

しかしやはり彼の行動の真意は掴めず、なんだかぎくしゃくしてしまう。



すると偶然、健太先輩と佐藤広隆が雪たちの傍を通りがかった。



この間喧嘩をした二人だが、和解のために飲みに行くと言う。

雪は健太先輩に恵のことを切り出そうかと思ったが、その雰囲気に結局口を噤んだ。

次授業で会った時言うしかないな‥と去って行く健太先輩の後ろ姿を見ていた雪だが、



次の瞬間、青田先輩が大きな声を出した。

「雪ちゃん!足元に何かいる‥!」「ぎゃあっ?!」



叫びながら、バタバタとその場で足を動かした雪だが、その足元には何も居なかった。



雪が呆気に取られていると、青田先輩は無邪気な笑い声を上げた。

「ぷははは!イタズラだよ!」



「イ‥イタズラ‥?」



目を丸くした雪に、先輩はやりすぎたかと謝って来た。

雪は事態が飲み込めずにいたが、とりあえずわざと明るく笑って見せる。

すると先輩はまた笑顔になり、こんなことするのは初めてだと無邪気に笑った。



よりによってなぜ私にこんなことを‥。雪は掴めない彼に戸惑った。



「イタズラってすごい面白いのな」「‥先輩はやめた方がいいかと‥」



「なんで?」「んー‥、何か違う気が‥」



「どんな風に?」「いや、なんとなく‥」

「あれ?虫がついてる‥」「もう騙されませんよ‥」



二人が構内を歩く様子を、ベンチに座った男が新聞で顔を隠しながらこっそり見ていた。



その後姿が見えなくなると、男は新聞を下ろして舌打ちする。

「‥チャラチャラしやがって‥」



亮は苛つきを感じていた。

女を前にしてあんな無邪気に笑う淳は、初めて見た、と。


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雪が事務室の建物から出てきた時に歌っていた歌はコレです↓
Maroon 5 - This Love MUSIC VIDEO


作者さんがMaroon5のファンらしいですね!


今回髪の毛を切った先輩ですが、前回写メ撮った時に「先輩の前髪屋根みたい」って雪が言ったからでしょうね(笑)


次回は<接触>です。


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憂鬱な環境

2013-07-28 01:00:00 | 雪3年1部(二人の写メ~映画)
不意に鳴った携帯を開くと、あの写メが添付されている。



雪は歩道を歩きながら、この写メをどうしようか考えあぐねていた。

消す?いやでも自分の写真でもあるし‥。

ロックかけとく?いやロックかけてまで保存する価値があるのか?








雪は目を細めながら微妙に焦点をずらしてその写メを見た。

よく見たら私の顔だって悪くないかも‥。いや!やっぱりこれは世に稀な衝撃写真だ!



七変化よろしく、雪の表情はコロコロ変わった。

しかしここは曲がりなりにも公共の歩道。

周りを見渡すと、雪の不審行動に道行く人は皆振り返って彼女を見て行く‥。



雪は照れ笑いの後に、一目散で帰路に着いた。





家の前では、隣人が座り込んでタバコを吹かしていた。一人歌を歌いながら。



♪日~は暮れていくばかり~ 来るはずのない尋ね人を‥♪

隣人は雪に気がつくと、もう一度同じフレーズを口ずさんだ。

「♪月を見ながら待ちぼうけ‥?♪」



雪が続きを歌うと、隣人は凄い勢いで捲し立てる。

「ちょっと!誰が一緒に歌えって言ったのよ!空気読めっての!この姿見てなんとも思わないワケ?!」



雪が何か嫌なことでもあったのかと誘導されて尋ねると、

隣人はここのところ恋人と上手く行っていないのだと言った。

今日も喧嘩をしたと言って、わんわんと泣く。



「うーん‥とにかく落ち着いて‥相手の方とじっくり話し合った方がいいかと‥」



生真面目な雪のアドバイスに、隣人はグチグチ言った。



いつも自分が折れてあげてるから、そんなことしても無駄なのと。

近頃は笑っただけでバカにしてるのかって怒られるんだと彼は淋しげに言った。

隣人は涙ぐみながら、またさっきの歌の続きを歌う。



♪ああ~君が居ないベンチでひと~り~ 今日も枕を濡らすぅ~♪

雪は自暴自棄になるほど人を好きになっている隣人を見て、少し不思議な感じがした。



そのまま家に入った雪に、隣人は♪お隣さんは冷酷無情~♪と歌ったのだった‥。



家で寛いでいると、小西恵から電話が掛かって来た。

恵は開口一番、さっき健太先輩と青田先輩に会ったと言った。

彼女が話した事の顛末はこうだ。


恵が雪に借りた本を返そうと経営学科の建物へ入ると、健太先輩とバッタリ遭遇。



健太先輩は恵にご飯へ行こうと誘ってきたが、恵は約束があると断った。



けれどそんなことおかまいなしといった態度の健太先輩。

恵が困っていると、そこに青田先輩が通りがかった。



青田先輩は、自分は”雪ちゃんの友達”だと言って、

恵の代わりに本を返しておくと言ってくれた。



おかげで変に思われずにその場を逃れることが出来た恵だったが、



健太先輩の不機嫌な顔が気になった。



「両手に花ってか?さすが秀才クンは違うね~」



健太先輩はその後冗談だと言って青田先輩の肩を叩いたが、恵はその不穏な空気が気になったのだった。

「何か意味深だったけど、気にすることないよね?」



雪は、「健太先輩は青田先輩にいつも親切だから、冗談言っただけだと思うけど」と言って、恵を安心させた。

健太先輩には改めて恵のことを諦めてもらうよう言っておくと、雪は恵に謝りながら電話を切った。


携帯を睨むと、続けて携帯のアドレス帳を開く。

か、き、く、け、健太先輩までピピピとボタンを押す。

彼氏居るって言っても聞かない。忘れてるのかと思いきや、不意をついてくるし‥。



雪は呼び出し音を聞きながら覚悟を決めた。

こうなったら真っ向勝負だ。どうせあの人は今年で卒業なんだから、多少揉めたとしても関係ない。

健太先輩は電話に出た。だが電波が悪いのか、彼の声は切れ切れにしか聞こえない。

雪は息を吸い込むと一息で言った。

「もしもし赤山ですけど、話したいことがあって電話しました。恵の件なんですけど‥」



「赤‥ま‥俺今日朝方に‥帰って来て‥うぅ‥眠い‥きもちわる‥ぐっ‥」

雪はブチッと電話を切った。



直接言うしか無いかと溜息を吐くと、心がくさくさするのを感じた‥。




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<憂鬱な環境>でした。

お隣さんが歌っていたのはこの歌だそうです↓

故郷の思い (John Park)


ちょっと歌詞をパロディにして歌ってるようですよ。♪お隣さんは冷酷無情~♪は笑ってしまいました。


次回は<痕跡の残像>です。


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<淳>風光る

2013-07-27 02:00:00 | 雪3年1部(開講~二人の写メ)
さて、雪と淳が二人で携帯写真を撮った日のことを、淳の目線にてなぞってみよう。

その日、淳は真新しいスーツを身に纏っていた。

「おーい!青田さんよ!」



声を掛けて来たのは柳である。

「いや〜キマってるね〜!どこのモデルかと思ったぜ!」

「何だよお世辞なんか」「お世辞じゃねーっての」



「青田先輩かっこいい」と遠くで黄色い歓声が聞こえる。

柳はそちらを指しながらスーツ姿の淳を褒めちぎった。

「ほら見ろ、皆お前に釘付けだっつーの!マジでイケメてるからよ。自分でもそう思うだろ?」

「思ってないって」



「あ、俺ちょっと事務室に書類確認しに行かなきゃ」

「おう」



そう言って歩き出した時だった。

ポケットに入れていた携帯が、一通のメールを受信する。



先輩 

授業のプリントを渡したいのですがどこにいますか?








「雪ちゃん?!」



淳は初めて彼女から送られて来たメールに心底驚いた。

周りの人が思わず振り向く程の大声で、その名を口にしてしまうほどに。







まるで吸い寄せられたかのように、淳はその画面に釘付けだった。

ようやく文章の内容が頭に入ってくる。

「あ、プリント‥」



あれほど切望していた彼女との接点が、再び現れようとしていた。

淳はその指先で、それを繋ぐ。

学館の二階まで持って来てくれると嬉しいな^^



そう返信した後も、淳はずっと携帯を手から離さなかった。

胸の中に、風が吹いているかのように落ち着かない。



ピロン



はい



一文字だけのその返信が、淳の心を躍らせる。

淳は早足で学館の二階へと上がって行った。







落ち着かない胸の内を持て余しながら、淳はジャケットを脱いだ。

無造作に髪の毛を整える。







するとガラスに映る自分の姿が、ふと彼の動きを止めた。

いつもより少しよそ行きの、その自分の姿が。



先程の柳の言葉が蘇る。

「お前マジでイケメてるから!」



胸の中に吹く風が、ふと甘い期待を煽った。

今の自分の姿を、彼女に見せたとしたら‥。








‥と考えた所で、淳は我に返った。

考えを打ち消すように、髪の毛をぐしゃぐしゃにする。

何考えてんだか‥







すると眼下に広がる風景の中を、彼女がこの建物に向かって歩いてくるのが見えた。

淳の視線は彼女に惹き付けられる。



オレンジ色の豊かな髪が、晩春の中で柔らかになびいていた。

彼女は今、淳の元へと向かっている。








まるでキラキラ光る風が胸の中を吹き抜けるような、そんな気持ちに包まれた。

彼女の表情、動き、その一つ一つが、全て特別なものに思えて‥。







春だからだろうか



俺はもうすぐ卒業する。

残された時間は、あと僅かだ




光る風が吹き抜けて行った後で、ふと現実に返って胸が鈍く傷んだ。

時の流れは変えられない。



一日一日を意味あるものにしたいと思った。




たとえ、今この瞬間が刹那に過ぎ去ってしまうとしても、


「‥先輩?」



「一緒に写真撮ろうよ」「はいぃ?!」




意味あるものとして、それを意義として刻みたいと。


カシャッ



「ゲッ?!」



「へ、変な顔してるじゃないですか!」「え?どこが?」

「目がラリってるじゃないですか!髪の毛ボサボサだし!間抜けな顔してますよ!」

「何もだよ?」「私だけ悔しいじゃないですか〜!先輩はアイドルみたいでいいかもしれないですけど!」



必死な顔をしてピョンピョン飛び跳ねる彼女。

まるで兎みたいなその姿に、思わず淳は笑顔になる。



「先輩の前髪屋根みたい!」「何っ」




その日淳は、一つ一つをメモしてあげるみたいに、

彼女と過ごす一時一時を、胸の中に刻んで行こうと決めたのだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<<淳>風光る>でした。

淳目線の話ですね〜^^

2017年の2月に更新された淳の回想編より、記事として時系列順に入れてみました。

行動全てに意義を持たせる生き方をしている、という風に雪の目に映った淳でしたが、

実は淳としては雪と出会ってからのことが大切で、それを意義として刻んで行こうという意志の現れだったのですね。

こうして並べてみると面白いですね〜^^

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