Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

女の戦い

2015-11-29 01:00:00 | 雪3年4部(彼女の意図~彼の願い)


構内を闊歩する美しき虎、河村静香。

そんな彼女の前に現れたのは、げんなりとしたライオン、赤山雪である。



美しく輝いている静香の前で、雪はあからさまに顔を顰めた。

顔を見合わせながら、二人は暫し固まっている。



先に口を開いたのは静香だった。こちらもあからさまに嫌な顔をしている。

「あぁーーっもう!どうしてやたらめったら会うのよ!こんなに大学広いのに!」

「いえ、この建物に用事があって‥」



静香は雪の方へと近付くと、皮肉るような表情で言葉を続けた。

雪は前を向いたまま、淡々と彼女の質問に答える。

「広隆?」「はい」

「ふざけんじゃねーよ。広隆はあたしと行くんだけど?」

「何言ってるんですか?佐藤先輩は私と勉強しに行くんですよ?」

「は?広隆があたしを置いてどうしてアンタと?」



雪は「それはですね、」と前置きした後、バンッとプリントを掲げて見せた。

「財・務・学・会!」



「一緒に課題やるんですよ、課題。

急ぎですんで邪魔しないで下さいね」




そっけなくそう言って、雪は静香に背を向けた。

静香の顔がみるみる歪んで行く。

「このクソ××‥!」



鬼の様な形相で、静香が追って来た。

「マジで人生そんなもんに捧げんの?!

勉強勉強でポックリ逝ったら心残りで成仏出来ないとか考えないワケ?!

つーかそれに広隆を巻き込むんじゃないわよ!あぁ?!」


「それじゃあマジで一緒に勉強すれば良いじゃないですか」



雪は溜息を吐いた後、静香の方に向き直って口を開く。

「一緒に行きます?」



しかし静香はその言葉に対し、吐き捨てるように言った。

「悪あがきっての?みっともな」



雪のその誘いが、上辺だけのそれだと分かっていたからだった。

雪はそんな静香に別れの挨拶を口にし、パッと背を向ける。

「はい、それじゃこれで」「は?何だっつーの?」



しかし想定外なことに、静香はその背中を追った。

「ちょ、アンタ!誰が嫌だっつったよ?一緒に行くって」



タタタ、と小走りで雪の背中に駆け寄る静香。

「アンタって見かけより‥」



「冷たいのね?」「キャッ!」



追いつくその勢いのまま、彼女は雪に体当たりをかました。

思わず前のめりに転ぶ雪。

「あらぁ?」



「あらぁ~ごめんねぇ~あたし貧血持ちで‥」

「いやいやいや今押しましたよね?!



わざとらしい静香の演技に青筋を立てる雪。

すると静香は、なんと足元に落ちたプリントにコーヒーを零したのだった。

「あらっ!」



「あらあらあらあらどうしよ~~!すぐに拭いてあげるわぁぁ!」



そう言いながら、静香はプリントをグチャグチャに踏み潰した。

そしてそれを指の先で摘み上げ、半笑いを噛み殺しながらこう口にする。

「あーあ。ごめんね?」



「勉強出来なくなっちゃったー」



信じられない展開に、思わず口をあんぐりと開けて固まる雪。

しかし雪は勝ち誇ったような静香を見上げながら、冷静にこう返答した。

「いえ、また貰えばいいですから。」

「このクソッ!」



地団駄を踏む勢いで悔しがる静香。

雪は溜息を吐きながら、散らかった本やプリントに手を伸ばす。

「はぁ‥マジか‥」



しかし冷静な行動とは裏腹に、心の中で振り切れていく怒りのバロメーター。

徐々に雪の顔が歪んで行く。



そして雪は立ち上がると見せかけて、静香に向かってタックルをかましたのだった。

「あっ!足元にネズミが!」「ギャッ?!」



バシャン!



するとその勢いで静香の持っていたコーヒーが落ち、その中身が彼女の持っていた本にぶち撒けられた。

その光景を目にしながら、思わず固まる二人。







先ほどまで振り切っていた怒りのバロメーターは、逆方向に向かってメーターを上げていく。

ヤバイ、マズイ、そんな感情が心の中に膨れ上がる。



雪はゆっくりと静香の方へと顔を向けた。

は‥と声にならない声が口から漏れる。







次第に上がっていく静香の手が、まるでスローモーションのように見えた。

それが振り下ろされるのとほぼ同時に、雪はそれを避けるため身を捩る。

「ぶっ殺す!!」「ヒィィィッ!」



地面に膝をついた雪めがけて、静香は落ちていたコーヒーを拾って彼女にそれを投げつけた。

雪は頭を庇う姿勢で、その攻撃に身を竦める。

「キャッ!」

 

コーヒーの飛沫が髪を濡らした。雪は青い顔で静香を見上げる。

静香は怒りのあまり俯いていた。

マジで何なの‥



雪の心の中で、再び怒りのメーターがぐんぐんと上がって行く。

は?”仲良くしよう”?

私にこんな仕打ちしといて?私が住んでる所も、私自身もディスって‥




雪の脳裏に、これまで静香に対して取っていた自分の態度が次々と浮かんで来た。

ずっと笑って流して避けて、様子見てたけど‥



考えれば考える程、今のこの状況もこの女も、あり得ない。

私のこと、お人好しバカだとでも思ってんの!?



なめられるばかりじゃいられない。

雪はグッと鞄を掴んで、自分を見下ろしている虎に牙を剥くーーーー‥。

「このクレイジー女ぁっ‥!!」



女の戦いにゴングが鳴る、そう思われた時だった。


「おいっ!止めろっ!!」







背後から掛かったその声に、目を見開いて振り向く二人‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<女の戦い>でした。

コーヒー零すのは‥ナシでしょう‥静香さん‥

本当子供の喧嘩っぽいですよね。それでも裏でコソコソやられるよりは良い‥のか‥?


次回は<誰の味方>です。


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自信の裏付け

2015-11-27 01:00:00 | 雪3年4部(彼女の意図~彼の願い)
翌日。



A大学のカフェテリアにて、意外な組み合わせの二人組がテーブルを囲んでいた。

「はぁーーーーー」



「うちの姉ちゃんの話なんだけどよぉ‥」



河村亮×佐藤広隆。

キャンパス内にて佐藤を見つけた亮は、お得意の「メシおごれ」作戦でハンバーガーをゲットした。

佐藤は心の中で静香の弟静香の弟静香の弟静香の弟と念仏のように唱えて今の状況に耐えている。



亮は溜め息を一つ吐いた後こう言った。

「超のつく金好きでよ」



その言葉に、佐藤は心の中で「よく存じ上げております」と唱えた。

亮は目を閉じながら、しみじみと自分の姉という人間について話す。

「性格も汚ぇし、人に頼る(吸い尽くす)んも好きだし、

超メンクイだし、100%俗っぽいもんで出来てんじゃねって感じだし」




静香の特性が口にされる度に、生気が萎えて行く佐藤。

「それでも人間なんだから、弱点が無いワケは無いけどな」



その言葉を聞いて、佐藤はパアッと息を吹き返した。

「こっち一人前追加で!」「注文はカウンターでお願いします」



どさくさに紛れて追加注文しようとする亮のことなどそっちのけで、佐藤はモゴモゴと口を動かす。

「そ、そうだよな。彼女みたいなタイプは、心に弱みを抱えてるってこともあるから‥」

とりあえず変なヤツじゃなさそーだな。もうちっと様子見てみっか



亮はそんな佐藤のことを眺めながら、冷静にそう判断を下した。

ひとまずこの眼鏡の男は、変な目的を持って姉に近付いているわけではなさそうだ、と。







ところ変わってこちらは売店。

サンドイッチを齧りながら、太一が口を開いた。

「つーか雪さん、聡美さんって何かあったんスか?」



「何かって?」



雪は首を捻りながら太一からの質問に答える。

「さぁ‥私が知る限りは何も無いハズだけど‥。

お父さんも退院したって言うし」
「そうっすよね」



しかし記憶を辿ると、確かに聡美はちょっとおかしかったかもしれない。

雪は「そういえば‥」と昨日聡美と交わした会話を太一に教えた。

<昨日>

「なんでこんなに遅れたのよ!授業終わっちゃったじゃん!」

「超便秘で‥」



けれど聡美がどこかおかしいということは分かっても、その理由が分からない。

雪は眉を寄せながら、親友の現状について頭を痛めた。

「はぁ‥」



雪は溜息を吐きつつ、サンドイッチを頬張る太一にこう言っておく。

「何か分かったらメールするよ」「ハーイ。つーか雪さんこんだけしか食べないんスか?」

「うん。私もダイエット」「ほう」



グルグルと鳴るお腹を押さえながら、雪はそう言って売店を後にした。

太一と別れた後、一人図書館へと向かう。



やることはウンザリするほどあった。

雪は机に広げたテキストを片っ端から片付けて行く。



頭の中に、先日先輩から言われた言葉が蘇った。

「会うの大変かもだけど‥努力してみよう」



彼の口から出た”努力”という言葉が、雪の心に残っていた。

自分の方を見ながら、嬉しそうにこう言う彼の姿も。

「来週末は映画観に行こっか」



雪は肩を回しながら、今自分が取り組むべき仕事を改めて確認する。

週末まで資料の調査+勉強、期末準備、課題の資料も準備して‥



彼があれだけ余裕を持ってそう言えるのは、それが可能だという根拠と裏付けが見えているからだ。

”努力”を惜しまない彼と彼女だからこそ見える、その自信の裏付けがー‥。








A大学敷地内、美術学科の近辺。

その女は美術のテキストに挟んである、「展示会」のチケットを見ながら構内を歩いていた。

 




その女、河村静香。

ウインドウに映る姿は、今日も見目麗しい。



静香は得意気な笑みを口元に浮かべながら、髪の毛を軽く耳に掛けた。

ほらね。超イケてる美大生スタイルじゃん?あたしってば



右手に美術のテキスト、左手にカフェ。

静香は誰よりも美しく、キャンパス内を闊歩する。



脳裏に、高校時代の記憶が思い浮かんだ。

「弟さんはピアノでお姉さんは美術?」「ステキ!」「芸術家一家なのね」



羨望の眼差し、感嘆の溜息。

彼女の自信を支えるのは、いつもそんな他者からの評価。



今の自分を目にした誰もが、憧れの眼差しを送って来るだろう。

そんな確かな自信が、今河村静香を支えているーーー‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<自信の裏付け>でした。

ここのコマ下方、紺色に白地で「BGM 猟奇的な彼女」と書かれています。






日本でも有名な映画ですよね!

BGMがどの曲を指すのかはいまいち分かりませんが‥。


さて今回は、雪と静香、それぞれの自信の在処のようなものが浮き彫りになったような回でしたね。

雪は努力とそれに付随した評価でそれを得て、静香は外面や他者からの評価でそれを得る‥。

静香が本当に求めているものは、そこには無い気がするんですけどね。

彼女がそれに向き合う時は来るのか、これからの展開が楽しみですね。


次回は<女の戦い>です。

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姉の本音

2015-11-25 01:00:00 | 雪3年4部(彼女の意図~彼の願い)
駅から家へ帰る道すがら、雪は悩みながら歩いていた。

このまま家に‥う~ん‥



帰ってしまえば楽だが、店のことが気がかりだ。



なんとなく胸が騒いだので、雪はやはり店へと向かうことにした。

店内へ入ってみると、案の定多くのお客さんで賑わっている。

「すいませーん」「はい!今すぐ」



「さっきから呼んでるんだけど」

「あ‥申し訳ありません」

 

やっぱりな、 と思いながら、雪はすぐにエプロンを手に取った。

「あなた!こっち!」「はい!」「お?雪、来たのか」「私やるよ」

 

雪はそう言うと、すぐに料理を運んだ。

そして髪を結いながら、カウンターに居る母に話し掛ける。

「今日って河村氏来る日じゃなかった?」

「そうなんだけど‥連絡つかないのよ。何かあったのかしらね」



河村氏は連絡無しに欠勤‥。人出は明らかに足りていない。

「じゃあ蓮は?他のバイトさん‥は今日出勤日じゃないか

「蓮も今日は帰らせたのよ。毎日働かせるのもねぇ。

もうちょっとで閉店だし、もうお客さんも増えないでしょ」




母はそう言って厨房へと戻って行くが、あまりの客の多さに閉店を一時間延長した先日の例もある。

雪はポケットから携帯を取り出して、”河村氏”の発信ボタンを押そうと指を伸ばした。







けれど雪は、結局そのボタンを押せなかった。

暫く画面をじっと見た後、やがてそれをポケットに仕舞い直す。



すると近くで働いていた父が、腰を押さえながら低く声を出した。

「いてて‥」



雪は思わず駆け寄る。

「大丈夫?」「ずっと立ちっぱなしだからな」



そう言って父はゆっくりと歩いて行った。

ふとした時に感じる、両親の老い。

雪の心はずっとソワソワと落ち着かないまま、亮の姿を探して外を窺っている‥。








その頃河村亮は、麺屋赤山に向かって全力疾走中だった。



「あー!くそったれッ!」



頭の中に、先程受けた志村教授のレッスンの模様が思い浮かぶ。

「指、完全に戻ったな?それじゃ最初から最後まで通して弾いてみなさい!」



その結果こんな時間だ。

亮は後悔のあまり、頭を押さえながら走る。

「テンション上がって仕事のこと忘れてたじゃねーか!ガッデム!!」



客沢山いるんじゃねーだろーな‥



店のことを心配しながら駆ける亮。

すると突然、後方から聞き慣れた声が掛かった。

「あー!My bro~!」



亮は思わず目を丸くし、立ち止まった。



声のする方へと身体を向け、二三歩後退る。

「何だ?静香か?」



「ちぃーす



すると暗い路地の方から、静香がフラフラと歩き出て来た。

「今帰りィ~?」「は?」「どこ行ってたんだよぉ~店には居ないしぃ~」「またやんのか?コラ」

 

顔を掴んで来た姉に、また喧嘩をふっかけられているのかと一瞬亮は思ったが、すぐにそれは違うと思い直した。

静香は笑いながらフラフラしている。どう見てもただの酔っ払いだ‥。



静香は上機嫌で亮に話し掛けた。

「ピアノ弾いて来たのぉ~?あ~よく出来た弟だことぉ」

「完全に酔っ払ってんな。おい!



亮はグニャグニャと身体を揺らす静香の姿勢を正そうと、姉の肩に手を伸ばした。

その、希望の左手を。

「しっかり‥」



すると静香は、その左手に自身の指をグッと絡ませ、こう聞いた。

「治ったわけ?」



赤く鋭い爪が手に食い込む。

見開いた目に気圧されるように、亮はその場から動けない。



酔っぱらっているとは思えない程の強い力が、手に込められていた。

「なんなんだよ?離せって!」

「全部治ったらぁ‥」



「また逃げるんでしょ?」



「あたしを捨てて‥」



グググ、と指に力が加えられる。

静香は恨むような目つきで亮を見据えながら、呂律の回らない舌でこう続けた。

「アンタ一人で暮らして‥最初から存在すらしなかった人間みたいに‥あたし一人残してぇ‥」



吐露される姉の本音。

しかしそれは亮にとっては、心外以外の何者でも無かった。

「んだよ!」



亮はバッと手を振りほどくと、静香の肩を掴みながら声を荒げる。

「連絡入れようと思って電話しても、一度も取んなかったじゃねーかよ!

一緒に逃げようっつっても、はぐらかし続けてたのはどこのどいつだよ?!」


「あ~‥そういうさぁ~しょぼいのはマジ勘弁なんだって‥」



鬼のような形相の亮を前にしても、静香はニヤニヤ笑うのを止めなかった。

揺れながら、亮のキャップへと手を伸ばす。

「しょっぼ」



続けて着古したジャンパーにも。

「しょっぼ~い」



「アンタが行ってた所も、アンタが今居る場所も全部‥しょぼいんだよぉ」



ヒック、としゃっくりをしながら、静香は亮へとしなだれかかった。

「それでもさぁ‥」



「あたしン所にぃ‥残ってんのはアンタだけみたいだよ‥」



「アンタだけ‥」「あ?おい!」



静香はそう言ったきり、

亮の腕の中で眠り込んでしまった。



いつもは毒しか吐かない姉の漏らした、心の声。

その気弱な側面を、亮は困惑の淵で受け止めている。







顔を上げると数メートル先に、雪の姿が見えた。

店から出てきた彼女は軽く身体を伸ばした後、眠たそうにアクビをしている。







亮は暫し彼女の姿を見ていたが、やがて大きく一息吐いた。

腕の中でぐったりしている静香が、言葉にならない声を出している。

「おい、しっかりしろよ」



「帰んぞ、家に‥」



そして亮は静香を引き摺ったまま、家へと歩いて行った。

一歩一歩進むごとに、だんだんと雪が遠くなる。








雪は寒そうに身を縮めながら、未だ現れない亮のことを気に掛けていた。

しかし二人は出会うことなく、背中と背中がだんだんと離れて行く‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<姉の本音>でした。

いつもは強気の静香の本音‥ですかね。亮に対しての気持ちが少し知ることが出来たような。

静香にとって亮は、愛憎相半ばする存在という感じでしょうか。

そして最後の亮さんのセリフ↓

「帰んぞ、家に‥」



は、2部50話のこのセリフと繋がっていますね。

 

形ある家は無いけれど、結局戻って行くのは家族の元というか‥。

亮も静香も自分からは認めようとしなかったそんな意識が、浮き彫りになって来たような感じがします。


次回は<自信の裏付け>です。



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希望の左手

2015-11-23 01:00:00 | 雪3年4部(彼女の意図~彼の願い)


その日、河村亮は練習室でいつものようにピアノを弾いていた。

コンクールは目前に迫っている。



亮の視線が指先を追って走った。

この先、いつもつまづく箇所があるのだ。



しかし、今日は違った。

指はまるで過去の傷など無かったかのように滑らかに滑る。



鍵盤が弾かれる度、音が踊った。

昔頻繁に感じていたあの感覚が、久しぶりに亮の身体を駆け巡る。











突然、瞼の裏にフラッシュが散った。

それはあの頃よく目にした、大舞台を照らす眩しい光。



有名なコンクールの最終ステージ。

緊張などしなかった。

弾けるのが当たり前だったから。

亮はまるで呼吸をするように自然に、流れるようにピアノを弾く。



嫌々ながらのボウタイも、結局は締めざるを得なかった。

けれど誰よりもそれが似合っているのは、とうに自覚していた。







ステージに立った時に感じるのは、全ての感覚が鋭くなるということだ。

視覚も触覚も聴覚も全てが、自分が紡ぐ音に包まれて反応する。



観客の吐く感嘆の吐息や高鳴っていく鼓動まで、手に取るように分かる気がした。

音は振動となって空気を揺らし、その全てが亮に肯定を与える。



最後の一音が止むその時まで、亮は鍵盤から指を離さなかった。

そして音の余韻が途切れるその一瞬、ようやく彼は息を吸う。



それと同時に聴こえるのは、割れるような拍手の音だった。

人々は立ち上がり、口々に彼を賞賛して笑顔を向ける。



全身の血が沸くような高揚感。

けれどそれを顔に出さず、亮は椅子から立ち上がる。



そこで見えたあの光が、今も亮を囚えて離さない。

指が動かなくなってからは忌々しいだけだったそれが、今新たな意味を持って亮を照らすーー‥。













亮は目を見開きながら、鍵盤から指を離した。

音の余韻が、あの頃と同じ振動で耳に残る。








亮は自身の左手を、改めてマジマジと眺めてみた。

希望から絶望まで、全てを知ったこの左手ーーー‥。







口元に、思わず笑みが浮かんでいた。

あれきり掴み損ねていた希望を、再びこの手で掴むことが出来るかもしれないと‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<希望の左手>でした。

短めの記事で失礼しました。しかもセリフ無し‥地の文ばかりですいません

しかし亮さん‥!ようやく左手の感覚が戻ったんですね‥!良かったーー

この先の展開が楽しみですね。


次回は<姉の本音>です。


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彼女の意図(1)

2015-11-21 01:00:00 | 雪3年4部(彼女の意図~彼の願い)
次の授業へ向かっている途中、雪の携帯に聡美からメールが届いた。

あたし15分程遅れて行くから。

このままじゃダメ。こんがらがりんちょ!




「こんがらがりんちょ‥?って何‥?



若干意味不明なそのメールに首を傾げつつ、雪はため息を吐きながら廊下を歩く。

てかまた一人か‥ふぅ‥



過去問問題のこともあって、聡美と一緒に居る方が色々気楽なのだが‥。

しかし遅れると言うなら仕方がない。雪は授業に向かうべく、教室に向かって歩いて行く。



すると教室の前まで来たところで、

そこから出てきた糸井直美とバッタリ出くわした。



一瞬固まる両者。






雪は目を丸くして彼女のことを見ていたが、次の瞬間ニッコリと笑った。

「おはようございます、直美さん」



雪からの挨拶を受けて、直美は一瞬表情を曇らせた。

上辺だけのその笑顔を、皮肉るような顔をして。



それでも直美は一応笑顔を浮かべ、雪に挨拶を返す。

「うん、オハヨー。ちょっとどいてくれる?トイレ行くから



「はい」



雪がそう答えるや否や、直美はプイと背を向けて廊下を歩いて行った。

こちらを一度も振り返らずに。






雪はじっと見つめていた。

その女、糸井直美の後ろ姿を。



プライドが‥高くて、頓着しないフリして‥欲張り



彼女の観察眼が鋭く光る。

雪は”糸井直美”という人間をこう分析していた。

初めは親しかったけど、前のグループワーク以降関係性は歪んでいる。

それまでは知らなかったあの人の利己主義を、目の当たりにしたからだ。




私が鬱陶しくて清水香織の味方になったという気もする。

けど実際のところ、本当に二人は仲が良かったのだろうか?




あの人が形成する人間関係の本質を、雪は見極めようとしていた。

てか、他の子達は?







この閉ざされたドアの向こうに、様々な人間関係が広がっている。

彼女の意図は、思った通りに展開して行くだろうか‥?







雪はドアを開け、中へと入って行った。

そこには沢山の学生達が、授業が始まるまでの時をそれぞれに過ごしている。



雪は空いている席へと歩を進めながら、談笑している女子学生に視線を流した。

直美さんがいつもつるんでる子達



彼女らは何か問題が持ち上がった時は、すぐに直美の後ろにつく子達だ。

雪は特に彼女らに声を掛けずに、席の合間を進んで行く。



直美さんとも私とも話す間柄の子達



ここのカテゴリに属する子が一番多い。

雪はその子達に向かって、笑顔で挨拶を口にする。

「おはよ」



その反応は様々だ。

雪サイドに属する子。

「良い天気だねー」



中間に属する子。

「おはよう」



直美サイドに属する子。

「ん?うん」



彼女達の反応を観察しながら、雪は静かに決意を固めて行く。

もうこの先は、私の行動次第だ



すると後ろから声が掛かった。

「おはよー!」



三年になって直美さんから離れた子達



雪はおはようと返しながら、彼女達の立ち位置を確認した。

変なゴタゴタがあったって聞いたような‥。

性格も私との方が合うみたいだし




辺りを見回し、改めて今回の件を客観視してみる。

そして今回のことに興味が無い子達も勿論大勢居る。



今自分が置かれている状況と、周りの状況、そして人間関係。

雪は全てを見極めた上で、ある意図を展開させようとしていた。

「私ちょっと聡美探しに‥」「雪ちゃん、おはよ」



雪が席から立ち上がると同時に、前方から声が掛かった。

目の前に、あの子が立っている。



同期の吉田海。

「おはよう」



海は「これ‥」と言いながら、鞄の中を探り始めた。

雪はそんな彼女を凝視しながら、改めて彼女を分析する。

口数が少なくて、あちこち首を突っ込むこともあまりない。

自分の利得をキッチリと見極めるタイプだ。彼女の方から先に近付いて来てくれてありがたいくらい。




そして‥



雪の目に、厳しい光が灯り始めた。

自分の考えが正しければ、この後彼女が取り出すのは‥。

「あたしの方の過去問、コピーしてきたよ」



海は鞄から、自分が手に入れたという過去問を取り出し、雪に渡した。

そしてその様子を、今教室に入って来た糸井直美は目にしている。






明らかに過去問と思われるものを、受け渡ししている二人。

思わず直美の顔が歪む。

「は?」



そんな直美を視線の端でとらえながら、雪は「わぁ」と小さく声を上げた。

頭の中では、海ちゃんの分析が続いている。

そして、約束をきちんと守る。



彼女の組み敷いた意図が、ゆっくりと展開して行く。

「ありがとう。見せてもらうね」



直美は口をあんぐりと開けながら、その展開を一人見ていた。

二人は親しげに会話を続ける。

「今日の朝忙しくてうっかり忘れちゃったけど、明日は私のも持ってくるから」

「うん」






そう言ったきり、雪は直美の方を振り向くこと無く出口へと向かった。

直美は堪らず海に話し掛ける。

「ねぇちょっと!あたしがアレを‥」



「はい?何ですか?」



しかし海はそう言って首を傾げるだけだ。

直美はモゴモゴと「別に‥」と返した。






苦々しい表情の直美、飄々とした海と雪。

三人はそれぞれの意図や思いを抱えたまま、互いに背を向けて歩いて行った‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼女の意図(1)>でした。

ゆゆゆ雪ちゃんの先輩化が止まらない‥

いつの間にか学科内では雪と直美が敵対関係と見なされているようですね。

しかしこの女子の派閥の感じ、リアルですね‥。思わず凹みそう‥。

次回は<希望の左手>です。


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