構内を闊歩する美しき虎、河村静香。
そんな彼女の前に現れたのは、げんなりとしたライオン、赤山雪である。
美しく輝いている静香の前で、雪はあからさまに顔を顰めた。
顔を見合わせながら、二人は暫し固まっている。
先に口を開いたのは静香だった。こちらもあからさまに嫌な顔をしている。
「あぁーーっもう!どうしてやたらめったら会うのよ!こんなに大学広いのに!」
「いえ、この建物に用事があって‥」
静香は雪の方へと近付くと、皮肉るような表情で言葉を続けた。
雪は前を向いたまま、淡々と彼女の質問に答える。
「広隆?」「はい」
「ふざけんじゃねーよ。広隆はあたしと行くんだけど?」
「何言ってるんですか?佐藤先輩は私と勉強しに行くんですよ?」
「は?広隆があたしを置いてどうしてアンタと?」
雪は「それはですね、」と前置きした後、バンッとプリントを掲げて見せた。
「財・務・学・会!」
「一緒に課題やるんですよ、課題。
急ぎですんで邪魔しないで下さいね」
そっけなくそう言って、雪は静香に背を向けた。
静香の顔がみるみる歪んで行く。
「このクソ××‥!」
鬼の様な形相で、静香が追って来た。
「マジで人生そんなもんに捧げんの?!
勉強勉強でポックリ逝ったら心残りで成仏出来ないとか考えないワケ?!
つーかそれに広隆を巻き込むんじゃないわよ!あぁ?!」
「それじゃあマジで一緒に勉強すれば良いじゃないですか」
雪は溜息を吐いた後、静香の方に向き直って口を開く。
「一緒に行きます?」
しかし静香はその言葉に対し、吐き捨てるように言った。
「悪あがきっての?みっともな」
雪のその誘いが、上辺だけのそれだと分かっていたからだった。
雪はそんな静香に別れの挨拶を口にし、パッと背を向ける。
「はい、それじゃこれで」「は?何だっつーの?」
しかし想定外なことに、静香はその背中を追った。
「ちょ、アンタ!誰が嫌だっつったよ?一緒に行くって」
タタタ、と小走りで雪の背中に駆け寄る静香。
「アンタって見かけより‥」
「冷たいのね?」「キャッ!」
追いつくその勢いのまま、彼女は雪に体当たりをかました。
思わず前のめりに転ぶ雪。
「あらぁ?」
「あらぁ~ごめんねぇ~あたし貧血持ちで‥」
「いやいやいや今押しましたよね?!」
わざとらしい静香の演技に青筋を立てる雪。
すると静香は、なんと足元に落ちたプリントにコーヒーを零したのだった。
「あらっ!」
「あらあらあらあらどうしよ~~!すぐに拭いてあげるわぁぁ!」
そう言いながら、静香はプリントをグチャグチャに踏み潰した。
そしてそれを指の先で摘み上げ、半笑いを噛み殺しながらこう口にする。
「あーあ。ごめんね?」
「勉強出来なくなっちゃったー」
信じられない展開に、思わず口をあんぐりと開けて固まる雪。
しかし雪は勝ち誇ったような静香を見上げながら、冷静にこう返答した。
「いえ、また貰えばいいですから。」
「このクソッ!」
地団駄を踏む勢いで悔しがる静香。
雪は溜息を吐きながら、散らかった本やプリントに手を伸ばす。
「はぁ‥マジか‥」
しかし冷静な行動とは裏腹に、心の中で振り切れていく怒りのバロメーター。
徐々に雪の顔が歪んで行く。
そして雪は立ち上がると見せかけて、静香に向かってタックルをかましたのだった。
「あっ!足元にネズミが!」「ギャッ?!」
バシャン!
するとその勢いで静香の持っていたコーヒーが落ち、その中身が彼女の持っていた本にぶち撒けられた。
その光景を目にしながら、思わず固まる二人。
先ほどまで振り切っていた怒りのバロメーターは、逆方向に向かってメーターを上げていく。
ヤバイ、マズイ、そんな感情が心の中に膨れ上がる。
雪はゆっくりと静香の方へと顔を向けた。
は‥と声にならない声が口から漏れる。
次第に上がっていく静香の手が、まるでスローモーションのように見えた。
それが振り下ろされるのとほぼ同時に、雪はそれを避けるため身を捩る。
「ぶっ殺す!!」「ヒィィィッ!」
地面に膝をついた雪めがけて、静香は落ちていたコーヒーを拾って彼女にそれを投げつけた。
雪は頭を庇う姿勢で、その攻撃に身を竦める。
「キャッ!」
コーヒーの飛沫が髪を濡らした。雪は青い顔で静香を見上げる。
静香は怒りのあまり俯いていた。
マジで何なの‥
雪の心の中で、再び怒りのメーターがぐんぐんと上がって行く。
は?”仲良くしよう”?
私にこんな仕打ちしといて?私が住んでる所も、私自身もディスって‥
雪の脳裏に、これまで静香に対して取っていた自分の態度が次々と浮かんで来た。
ずっと笑って流して避けて、様子見てたけど‥
考えれば考える程、今のこの状況もこの女も、あり得ない。
私のこと、お人好しバカだとでも思ってんの!?
なめられるばかりじゃいられない。
雪はグッと鞄を掴んで、自分を見下ろしている虎に牙を剥くーーーー‥。
「このクレイジー女ぁっ‥!!」
女の戦いにゴングが鳴る、そう思われた時だった。
「おいっ!止めろっ!!」
背後から掛かったその声に、目を見開いて振り向く二人‥。
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<女の戦い>でした。
コーヒー零すのは‥ナシでしょう‥静香さん‥
本当子供の喧嘩っぽいですよね。それでも裏でコソコソやられるよりは良い‥のか‥?
次回は<誰の味方>です。
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