ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

電子書籍元年2010 №2

2010-07-25 | Weblog
 出版業界で、いまいちばん注目されている会社は、大日本印刷DNPではなかろうか? DNPは、出版業界の駆け込み寺ともよばれている。傘下には、丸善・図書館流通センターTRC・ジュンク堂書店・文教堂書店・ブックオフなどを集結した。
 DNPの戦略は何か? なぜ本屋をそれほどまでに手中に求めるのか? これまで不明といっていいほど、ヴィジョン不鮮明な霞のなかのDNPだったが、近ごろやっとその姿がみえだしたように思う。
 今秋、DNPは電子書店を開業する。約10万冊のコンテンツを一堂に揃え、とりあえずTRCの通販書店である「bk1」で電子書籍の販売を開始する。7月8日の発表である。さらには来年中に、30万冊を揃えるともいう。
 DNPの狙いは、紙印刷とPOD(オンデマンド紙出版)、そしてデジタル電子書籍を複合した「ハイブリッド制作ソリューション体制」の強化である。
 おそらく絶版・品切れ本を中心に、出版社から預かっていた印刷用版下デジタル原稿をもとに、電子出版するのであろう。品切れ本は、これまで無用の長物であった。書店にも出版社にも著者にも、1円の利益も産まない。メリットは古書店にしかなかった。入手不可だった本が電子再版されれば、これからは古書店が苦しむのではなかろうか。
 これが電子版であろうが再度、陽の目にあえば、わずかでも著者には印税が届き、出版社には手数料が入る。DNPの作業は、出版社から預かっていた版下電子情報をbk1に流すだけであるといってもいい。せいぜい、あとはマージンを出版社に返すだけである。印税は出版社が著者に払う。
 そのためには確かに、著作権の問題をクリアする必要がある。しかし著者は、これまで絶版品切れ扱いで、印税を長年得ることができなかったのである。喜んで同意するであろう。ひとりでも多くの読者に読んでもらいたい、それが著者の本心である。
 本を出版するとき、出版社は著者と出版契約書を取り交わす。この数年、契約書には「電子出版を、将来行うことに同意する」という一文が記載されているという。この同意書がなくとも、絶版品切れ本の著作権者は、電子書籍出版に同意し、たいていの方が電子再版契約に押印するであろう。
 DNPは電子書籍をネット販売するだけではない。電子再版するにあたって、「この本はかなり売れそうだ」と判断すれば、数年ぶりに紙再版が決定する。おそらく500部か1000部か、あるていどのロットが見込めれば、紙印刷再版が決まる。
 しかし少部数しか見込めない場合は、読者からの注文にPODで対処する。だが最低でも紙で数10部、あるいは100部くらいは固いとなれば、読者からの注文を受けずとも、見込みでオンデマンド印刷し、丸善・ジュンク・文教堂に見込み送本するのではないか。店頭でそれらの本を目にした読者は、驚くに違いない。「えっ。長年品切れで、古書では○○円もするのに…。それが新本でたったの○円!」
 どのような本を再版すれば売れるか? あるいは売れないか? ジュンク堂書店と資本提携した昨春以来、ジュンク店頭での売れ行きをコンピュータ分析し、予測値冊数の結論を出したという。わずか1年間ほどの解析である。その成果を今回の再版本の選択決定に活かしたらしい。驚くべき会社である。大日本印刷DNPのことを、しばらく考えてみたいと思っています。
<2010年7月25日>
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする