ふろむ播州山麓

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中国・チャイナという不可解な国 №5 <国益と外交>中編

2010-11-16 | Weblog
 チャイナシリーズの前回で紹介した小原雅博著『国益と外交』(日本経済新聞社2007年刊)をみてみましょう。
 著者は外務省アジア大洋州局参事官、この本のベースを書いたのは2004年、立命館APUの客員教授をつとめるかたわら書きあげた博士論文。小原は翌年に立命大より、国際関係学博士号を授与されている。
 論文は大部で本文40万字。添付資料や文献一覧を含めると60万字にもなる。出版のために文章を大幅に削り、手を加えて刊行されたのが『国益と外交』である。

 さて小原は日本のパワーについて、軍事力や覇権の行使ではなく、文化というソフトパワーについて、シンガポールの初代首相、リー・クアンユーの記述「文化的強靭さ」を引用している。
 資源のない日本は「日本人の持つ集団の結束心や規律正しさ、知性、勤勉さ、国のために進んで犠牲になろうとする気持ち。それらすべてが並はずれて生産性の高い日本の力のもととなっている」と、リーは称賛した。この文化的強靭さによって、日本は自由で繁栄する国家として奇跡的な発展を実現した。<『リー・クアンユー回顧録』2000年 日本経済新聞社刊>
 小原は、この評価に代表される日本人のすばらしさ、世界から尊敬され目標とされる「日本や日本人のイメージを大切にしていく必要がある」
 外交や国際政治の場での「パワー」は、歴史的にみても軍事力が最も重視されてきた。しかしパワーとは、国家の軍事力のほかに、経済力、科学技術力、人口や国土の大きさ、文化力や社会の魅力など、さまざまな要素を含む総合的国力を指すのである。

 つぎに1982年に勃発したアルゼンチン沖のフォークランド紛争をモデルに、英国の世界戦略、国際政治外交の展開をみてみましょう。英国は13000キロも離れた孤島の防衛を、領土の保全という死活的国益と位置づけ、フォークランド島を断固防衛するとの姿勢を鮮明にした外交を展開。かつそれが口だけではないことを軍事的行動によって示した。

 フォークランド諸島は、たいした役にも立たない島々だが、南大西洋における地政学的・戦略的に非常に重要な拠点とされる。パナマ運河が封鎖されたときを想定すると、南米南端のホーン岬周り航海の補給基地に当てられる島である。英国はアルゼンチンに対し、一歩も譲らなかった。

 サッチャー首相は、まず機動部隊40隻を急派した。さらにはクィーン・エリザベス号などの商船までも動員。直ちにレーガン大統領と会見し、米国の全面的な支持を取りつけた。つぎにEUの結束を固めて、共同でアルゼンチンを経済封鎖した。さらには国連安保理に働きかけ、アルゼンチン軍の撤退勧告決議を取りつけた。またG7サミットでは英国支持を得、有利な国際世論をつくり上げるために、積極的な外交を展開する。
 戦争は政治の延長であるといわれるが、このときのサッチャー外交は、その言葉そのものであった。パワーと正統性において優位に立った英国が勝利し、国益を確保し得たことは、当然の結果であった。
 サッチャーは、これほどの高度な戦略と作戦を、わずか3か月足らず、87日で完遂した。

 以下、私見ばかりですが、この文を読むと、サッチャー首相とそのブレーンの万全の対応があまりに見事なのに感心してしまいます。
 東シナ海の近ごろの事件での日本政府の対応は、あまりにもお粗末です。軍事力の行使をフォークランドの文から引き算して読み返してみても、日本の首相以下、政治を担う責任ある立場のひとたちはあまりにも無様である。
 9月7日のチャイナ船長による体当たり事件から、もうすぐ3ヶ月になります。海洋国家、島国の英国。同様に海に囲まれた列島日本。島国同士の日英両国は、その戦略を理解し共有できる最善のパートナーであるはずです。両国は、戦略的に重要な孤島、また大洋について精通しているはずであるのに。
 彼の国と我国の差は、まるで雲泥である。義憤による海保職員の画像流出漏えい事件のみが、国民にとって唯一の救いかもしれない。進退をかけた勇気ある決断と行動である。

 外務省にも海保にも、このような見識をもつ方がおられる。なぜ政治家のあなたたちはそのような卓越した判断や、国家戦略を担える人材を、活用なり参考にできないのか? 前回にみた加藤嘉一氏の言葉、中国では「若くても非常に優秀な人材は、若者たちの目標となり励みになる。中国で発言する自由さは、絶対に日本では発揮できません」
 情けなさを通り越し、日本の政治家たちにはあきれ返るばかりである。(政治家でない自分のことは差し置きますが)

 さてまた、字数が増えてしまいました。小原氏の中国についての記載と、日本についての見解を記そうと思っておりましたが、次回の後編に続けます。
<2010年11月16日火曜日>
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