アヒルは薬用として、中風に効くといいます。南方熊楠は「紀州の民間療法記」に、「白きあひるの生血は中風を治す。各地に昔からの民間療法として、アヒルを中風に使用するとの記事をみたことがあります」と記しています。
熊楠全集に出てくるアヒルは、なぜかこの1か所だけです。念のため民俗学の柳田国男も全集で確認しましたが、ここには驚いたことに、1羽も登場しません。なぜ両巨頭は、この鳥を無視されるのでしょうか。
さて本日は、薬用アヒルの民間療法です。中風は近ごろ、あまり使わない病名になってしまいましたが、読みは「ちゅうぶ」「ちゅうふう」。脳血管障害のために、半身あるいは体の部分の麻痺を起こす。
お釈迦さんの生誕日である4月8日の「花祭り」、「誕生会」にアヒルの卵を食すと、中風にならない、あるいは治るという民間療法の伝承が、各地に多い。
4月8日、四日市市羽津では花まつりのこの日に、アヒルの卵を食べると中風にならないという。
4月8日のみ、素の玉子を食す。これを喰えば中風を発せずとて食ふもの多し『わすれのこり』明治17年
4月8日にアヒルの卵を食べると、中風にかからない:滋賀・奈良・大阪
白いアヒルは、「又白シテ鳥骨ノモノアリ、薬ニモ食ニモヨシ」『庖厨備用倭名本草』1671年
全ク白クシテ鳥骨ナルハ鳳ト云、南寧府志二出、薬食倶ニ上品トス:『重修本草綱目啓蒙』1844年
鶩(あひる)こそ虚を補ひて客熱を除、臓腑を和するものなれ。鶩こそ驚癇に吉、丹毒や水道を利し、熱痢とどむれ:『食物和歌本草』1630年
白鴨及黄雌鴨肉性ヨシ黒ハ毒アリ食フ可カラス『大和本草』1708年
国定忠治が捕縛されたのは、1850年のこと。彼に同情する目明しの佐十郎が、中風を患っていた忠治のために、アヒルの生血を飲ませた。いまでも同地の称念寺に「家鴨塚」があるそうです。群馬県佐波郡玉村町。
中風にはアヒルを食べるのが良く、特にその生血を飲むと効果が大きい:新潟。
アヒルの生血を飲むと中風が治る:長野・愛知・岡山・高知。
卵を飲むと中風が治る:群馬・愛知。
アヒルの卵を食べると、中風にならない:山梨
彼岸中日にアヒルの卵を食べると、中風にならない:千葉
アヒルの黒焼きは乳幼児の癇の虫の薬なる:広島
アヒルの生き血は強壮剤:徳島・香川
<2024年10月8日>
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