「カラスてんぐ、実はトンビ」と題して新聞各紙が報じました。1月19日夕刊に載りましたが、ご覧になった方も多いことでしょう。
和歌山県工学技術センターが、コンピュータ断層撮影CTで天狗のミイラを解析したところ、鳥のトビ2羽の骨や羽根と、粘土や和紙の合体でつくられたものであることが判明しました。
天狗のミイラは近世期、かつてたくさんの山伏たちが厨子に納めて背に負い、各地を巡ってご利益を説いたものである、と記されています。この和歌山のミイラ天狗は、御坊市で行き倒れた山伏が持っていたものを、地元の小竹八幡神社が明治期から大切に保管してきたものだそうです。
読者の反応は、「子供騙しの作り物だなあ」とか「トビよりワシやタカの方が似合いそうなものだが」。そのような感想が多いのではないでしょうか。
しかしわたしは、この記事に驚いてしまいました。
鎌倉時代の絵巻物「天狗草子」をみると、天狗が鳶トビに姿を変え、四条河原あたりの上空を飛ぶ。河原に肉片を見つけ、舞い降り脚でつかんだところ、河原に住む子どもが肉の中に鉤針を仕掛けていた。針はトビの脚に食い込みはずれない。また針には長い紐がついており、トビの天狗は童に捕えられ、首を折られ葬られてしまう。
その天狗の家族や仲間たちは嘆き悲しみ、河原に落ちていた鳶天狗の羽をこそっと拾って故人をしのび弔う。
このような話が画で描かれています。「天狗草子」が描かれたのはおおよそ700年前です。
古典学者の山口仲美氏によると、天狗の鳴き声は「ひいよろよろ」「ひょうよろよろ」「ひいひいひ」。これは鳶の鳴き声と同じであり、狂言に登場する鳶は「ひいよろよろ」「ひいひい」と鳴く。
かつてトビは天狗になる、あるいは天狗は鳶に化身すると信じられていた。天狗の妖術が敗れると、羽や首を折られ死ぬ。そのように信じられていたようです。
これからは時々、天狗や山伏について、天の狗すなわち空の犬、トビのこと、そのような雑談を書いてみようと思っています。かつて紀州で行き倒れた名もなき修験者に思いを馳せながら。
<2011年1月22日 久しぶりの作文でした 南浦邦仁記>
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