水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ②<30>

2015年02月02日 00時00分00秒 | #小説

 次の日の昼過ぎ、会社にいる里山の携帯が鳴った。里山は発信者を確認し、すぐ出た。むろん、すぐかかるだろう…と里山は踏んでいた。宅急便の包みの中に里山の名刺を一枚、挟んであったのだ。その名刺の裏には里山の携帯番号が書かれていた。完璧(かんぺき)な小太郎の売り込み作戦は、里山の心の中で、すでに始まっていたのである。
[さ、里山さん! 駒井です! アレ、本当ですかっ!?]
 駒井の声は心を乱し、完全に上擦(うわず)っていた。
「ご覧になりましたか。見られたとおりです…」
 里山は他の課員達に気づかれないよう、小声で話した。
[いや、あの不可解な映像ですよ? 俄かには信じられないんですが…。どう見てもヤラセに見えましてね。ただ、安岡さんの通報どおりなんで…]
 コトの原因は、クリーニング屋の安岡の通報からだった。里山の脳裡に安岡の顔が、ふと浮かんだ。
「事実です。制作の駒井さんには信じてもらえないでしょうが…」
 里山はゆっくりと呟(つぶや)くように言った。
[そんな、馬鹿な。猫が話すなんて…]
 駒井は笑えてきて、思わず話すのをやめた。
「今も言いましたように、事実としか申し上げようがありません。うちの小太郎に直接、会われれば分かりますよ」
 里山としては、そう小声で説明するしかなかった。


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