次の日の昼過ぎ、会社にいる里山の携帯が鳴った。里山は発信者を確認し、すぐ出た。むろん、すぐかかるだろう…と里山は踏んでいた。宅急便の包みの中に里山の名刺を一枚、挟んであったのだ。その名刺の裏には里山の携帯番号が書かれていた。完璧(かんぺき)な小太郎の売り込み作戦は、里山の心の中で、すでに始まっていたのである。
[さ、里山さん! 駒井です! アレ、本当ですかっ!?]
駒井の声は心を乱し、完全に上擦(うわず)っていた。
「ご覧になりましたか。見られたとおりです…」
里山は他の課員達に気づかれないよう、小声で話した。
[いや、あの不可解な映像ですよ? 俄かには信じられないんですが…。どう見てもヤラセに見えましてね。ただ、安岡さんの通報どおりなんで…]
コトの原因は、クリーニング屋の安岡の通報からだった。里山の脳裡に安岡の顔が、ふと浮かんだ。
「事実です。制作の駒井さんには信じてもらえないでしょうが…」
里山はゆっくりと呟(つぶや)くように言った。
[そんな、馬鹿な。猫が話すなんて…]
駒井は笑えてきて、思わず話すのをやめた。
「今も言いましたように、事実としか申し上げようがありません。うちの小太郎に直接、会われれば分かりますよ」
里山としては、そう小声で説明するしかなかった。