水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ②<33>

2015年02月05日 00時00分00秒 | #小説

「はあ…里山です」
 里山は名刺を受取って素早くキャリーボックスをフロアへ置くと、条件反射のように片手を出して握手した。
 三人は連れ添うように横一列で歩き始めた。里山を囲んで左に中宮、右に駒井である。
「テレビ局は初めてでしょうか?」
 朴訥(ぼくとつ)に中宮が訊(たず)ねてきた。
「はあ…。あとにも先にも、これが初めてです」
 里山は珍しそうに辺りを見回しながら答えた。
「お持ちのキャリーバックが例の猫ちゃんですね?」
 駒井が里山の片手を見ながら言った。
「ええ、そうです…」
「分かりました。では、さっそくで恐縮ですが、こちらの方へ…」
「君、態々(わざわざ)ご足労いただいたのに失礼だよ。お茶ぐらい出してからにしなさい」
 中宮がすぐ、駒井を諌(いさ)めた。
「あっ! これは…」
 里山は客用応接室に通され、歓談してしばらく時を過ごした。キャリーボックスの中の小次郎は一部始終に聞き耳を立てた。 
「では、そろそろ…」
「そうだね。里山さん、いかがでしょう?」
 駒井に促(うなが)され、中宮が里山に伺いを立てた。終始、低姿勢である。


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