水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ②<31>

2015年02月03日 00時00分00秒 | #小説

[分かりました…。生憎(あいにく)、今、手放せない仕事が入ってましてね。恐れ入りますが、こちらまでご足労願えないでしょうか?]
「日曜でしたら、別に構いませんが…」
[でしたら、是非、お願いいたします。もちろん、交通費、お食事代などは後日、お支払いさせていただきますので。いやなに、…テープどおりなら、もちろん採用させていただきます]
「テープは駒井さん以外には?」
[いや、うちのスタッフが数名、見ましたが、今のところ話は私どまりで、上には…]
「そうでしたか…。では次の日曜の午前中に、小次郎を連れて…」
 里山は課内を見回しながら呟(つぶや)くように、いっそう小声で言った。
[次の日曜の午前中…。はい! お待ちしております]
 駒井はメモ書きしながらそう言うと、電話を切った。里山が予想していたとおりにコトは進行していた。よくよく考えれば、すべては小次郎が考えた順序策なのだ。別に俺が冴えている訳じゃない…と思いながら里山は携帯を背広のポケットへ入れた。
「お得意先ですか?」
 そのとき、課長補佐の道坂が振り返って訊(たず)ねた。
「おっ? ああ、まあそのようなものだ…」
 里山はギクリ! としたが、動揺は億尾(おくび)にも出さず暈(ぼか)した。道坂は納得して姿勢を戻し、また書類に目を通し始めた。席が近いのも考えものだな…と、里山は後ろ姿の道坂を見ながら虚(うつ)ろに思った。


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