「小次郎、腹が減ったろぉ~?」
里山は小次郎にいつもやる昼のドライフードをやっていないことを思い出し、それをネタにしたのだった。もちろん、その場で浮かんだアドリブである。
『そりゃもう! ペコペコですよ!』
小次郎は解放されたように、やや大きめの人間語で返した。その途端、スタジオ内は急に騒然と、しだした。キャ~! とか、猫がしゃべったぁ~! という声も話し声に混ざって聞こえ、スタジオ内は色めきたった。ディレクターの猪芋(いのいも)はすでにこうなることを見越していたのか、ADに二枚目のカンぺを上げさせた。
━ 騒がないで静かにして下さい! ━
騒然としたスタジオは、元の静けさを取り戻した。アナウンサーはスタジオが静まったところで里山に質問した。
「里山さん、確かに今、その猫ちゃん、話しましたよね?」
「ええ、話しましたよ。それがなにか?」
「いえ。…皆さん、俄かには信じられない事実が今、進行しているのがお分かりでしょうか」
アナウンサーは切りかわったテレビカメラに向かい、カメラ目線で話した。
「里山さん、猫ちゃんとのお話を続けて下さい。名前はなんと言われるんでしょうか?」
「お前から話しなさい」
『分かりました。僕は小次郎と言います。皆さん、よろしく!』
小次郎が観客に向かって話しだし、ふたたび、スタジオ内は騒がしくなった。