水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ②<35>

2015年02月07日 00時00分00秒 | #小説

「い、今、話しましたよねっ!!」
 駒井は身体を震わせて小次郎を指さしながら怖(おそ)れ慄(おのの)いた。
『ええ、それが何か?』
 ギャ~! ともワァ~! ともつかぬ声を出し、駒井は控室を飛び出していった。
『ほら、言わんこっちゃない…。僕は一応、案は出しましたよ。出しましたが、こうなることは予想できていました』
「お前、それはないよ。なにも言ってくれなかったじゃないか!」
 里山は少し怒れた。そのとき、少しずつ控室のドアが開き、駒井が顔を覗(のぞ)かせた。
「夢じゃないんですよね? 里山さん…」
 里山は黙ったまま頷(うなず)いた。
「ええ、夢じゃありません…。業界のあなたが怖(おそ)れてどうするんです」
 その言葉で駒井は恐る恐る控室へ戻(もど)った。この時点で小次郎はすでにキャリーボックスから出ていて、フロアの上へ正座していた。猫の正座とは、いつかご説明したと思うが、背筋を伸ばしてやや斜(はす)に構え、尻尾を前足の方へ回して身体に巻きつけるように座るという形(かたち)である。この形が猫界では自分を相手に見せる最高級の格好なのだ。
「いや! どうも…。ではVTR[ビデオ]に映っていたようなことをやって下さい…」
 駒井は恐る恐る言った。割と肝(きも)っ玉が小さい男だな…と里山は心の中で思った。


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