「すみません! 今日は、これくらいで…。お手間をとらせました」
枯木は勝手にインタビューを終わらせようとした。
「おいっ! 終わるなっ!」 「もっと訊(き)けよっ!」
不平が飛び交(か)い、ふたたび、里山の周(まわ)りは雑然としだした。
「すみません、お帰り下さい」
枯木は里山に会釈し、前を開けさせた。
「…どうも。それじゃ、失礼します」
里山は記者達を掻(か)き分け、会社をあとにした。その様子を見ている一人の男がいることを里山は知らなかった。
見ていた男、それは運悪く部長の蘇我だった。里山に支店への異動を暗(あん)に強要した男である。①人間語を話せることを言う→②人間語で話すVをテレ京へ送る→③家では異動話を内緒にし、会社で断る・・という里山の準備策①、②、③の流れで、唯一の想定外だった。
次の日、里山は部長室に呼び出されていた。昨日の会社前の騒ぎの一件であったことは言うまでもない。
「昨日、表がなんか騒がしかったそうだが…」
蘇我は開口一番、そう言った。他の者から報告を受けた・・という形をとり、自分が直接、見ていたことを言わないのがこの男の性格だった。
「ああ、昨日の…。いづれ詳しいことはお伝えしようと思うんですが、今は…」
里山は口を濁(にご)した。
「ああ、そうかね。それなら、いいんだが…」
「どうも、すみません」
謝(あやま)る必要がないのに、なぜか里山は謝っていた。