水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<5>

2015年02月27日 00時00分00秒 | #小説

 ADはスタジオが騒然とするたびにカンぺを上げ続けた。最初は里山に話させていたアナウンサーも直接、小次郎に話しかけるようになっていった。
「そうですか…。君は今、いくつなの? もちろん、人間の年齢換算で、だけどね」
『僕ですか? そうですね…今は15、6といったところでしょうか』
 タメ口で話しかけられても、小次郎は悪びれた態度を見せるでもなく、淡々と質問に答え続けた。
「中学生くらいなんだ…」
『まあ、それくらいですかね』
 すでにカンぺの上げ下ろしでADは疲れ果てていた。その上げ下ろしが何度か続き、やがて番組終了の時間が近づいた。
「ご覧の皆さんにも人間語を話す猫がいる、ということをよく分かっていただけたと思います。いや、正直申しますと、私にも今日の番組が現実なのかどうか・・些(いささ)か信じられないのです。ただ、ここにいる小次郎君は現に日本語で話してくれました。それをこの耳で聞いたのです。私はこの非科学的な事実を素直に受け入れたいと思います」
 カメラ目線で視聴者に語りかけるアナウンサーの声は熱を帯びていた。
 収録が終わり、里山が家路に着いたとき、時刻はすでに午後5時を回っていた。
「お疲れさまでした。放送はひと月ばかり先の9月上旬になろうかと思っております。詳細とかその他のことは後日、お電話で…」
 帰りがけ、送り出してくれたのは、来たときと同じ、プロデューサーの駒井だった。


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