炎天下、夏の暑気が肌に纏(まと)わりつき、里山の額(ひたい)から滴(したた)り落ちた。こんな日に収録かよっ! と、里山は少し怒れていた。そんな気分を抑え(おさ)え、里山は小次郎が入ったキャリーボックスを片手にテレ京のエントランスを潜(くぐ)った。話は少し前に遡(さかの)るが、週刊誌騒ぎのあと、里山の思惑どおりにコトは運んだ訳だ。というのも、沙希代が夜に会ったお茶の水に住んでいるという週間MONDAYの茶水がコトを成就させたのだ。彼が書いた下手(へた)な記事が返って面白く、他誌を圧倒して馬鹿売れに売れたのである。結果、里山と小次郎はテレ京のバラエティ番組にオファーがかかったのだ。今日の里山は小次郎のマネージャーとしてテレ京の局ビルへ入っていた。小次郎は華々しくデビューすることになったのである。小次郎は、有名なナントカいう猫駅長には負けないぞ! と強く意気込んでいた。
「小次郎、着いたぞ…。もう大丈夫だ」
局ピルは空調システムが完備しているから、ビル外とは環境が一変して凌(しの)ぎよい。
『いやぁ~僕もこう暑いと駄目ですから、助かりましたよ』
里山が片手で下げるキャリーボックスの中から聞き取れる程度の小さい声がした。
「おはようございます…」
エントランスには、いつかのようにすでに駒井が迎えに出ていて、昼過ぎなのに業界らしく里山を出迎えた。ただ、前回は見た制作部長の中宮の姿は、なかった。
「部長は、ちょっと急用で出ておりまして申し訳ございません…」
駒井は謝(あやま)る必要などなかったが、謝った。