水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ③<3>

2015年02月25日 00時00分00秒 | #小説

「ああ、はい…。それは構いません」
「そうですか。それじゃそういうことで…。前列に座るADがカンぺを見せますんで…」
「あの…カンぺって?」
「ああ、すみません。番組進行で、こちらから見せる指示書きみたいなもんです」
 猪芋(いのいも)は丁寧(ていねい)に説明した。
「なるほど…」
 里山は頷(うなず)きながらカメラ前の席に着いた。カメリハ、ドライ、ランスルーと稽古[リハーサル]があった。地上波の収録時は対談形式のみで番組に参加する観客はいなかったから、至ってシンプルに進行し、リハーサルはアナウンサーの質問に答える形式の一度きりだったが、今度は違うようだ。里山の心境はワクワクしていた。小次郎が人間語で話すところを多くの人々に見られた方がインパクトがあり、好都合なのだ。リハサールでは小次郎の出番は割愛(かつあい)された。猪芋が考えた演出のようだ。本番で驚く観客の声や映像を狙っているようだ…と里山はリハーサルが終わった段階で思った。駒井は軽い内容だと匂(にお)わせたが、どうもそうではないようだった。
 本番が始まり、しばらくの間はリハーサルどおりの進行で番組が推移した。里山は、なんだ、ちっともリハーサルと変わらんじゃないか! と少し怒れた。その矢先だった。観客の最前列に陣取ったADが俄(にわ)かに一枚の紙を両手で上げて示した。カンぺである。
━ ボックスを開けて猫を歩かせ、話して下さい ━
 里山は、来たな! と指示どおりにキャリーボックスを開けながら意気込んだ。


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