「来週の木曜、七時からということで…。ああ、里山さんの場面は七時半ぐらいになろうかと思います。では…」
携帯はプツリ! と切れた。
放送当日、里山は早めに会社から帰った。そして、夕食後、いよいよその時間になると、身を乗り出して居間のテレビ画面に釘づけになった。もちろん、沙希代も小次郎もテレビの前にいた。
駒井に言われていた七時半過ぎ、里山が撮ったテープが流れ始めた。その映像を見守るゲスト出演者の表情が画面隅に小さな写真ほどの大きさではめ込まれている。
[わぁ~~! 話してる、この猫!]
出演者の声が、テープに混声した。瞬間、黙って見てくれ! と、里山は祈りたい気分になった。誰でもそう言うだろうとは里山も思っていたが、ここは俺の将来に関わる正念場なんだ…という緊迫した気分だった。小次郎が考えた①人間語を話せることを言う→②人間語で話すVをテレ京へ送る→③家では異動話を内緒にし、会社で断ってもらう・・という順序策の①、②はクリアされたのだ。あとは③に繋(つな)がる成果が得られるかどうかの瀬戸際なのである。それは視聴者の反応に委(ゆだ)ねられていた。反応がよければ、計画どおり里山は小次郎のマネージャーとなって支店への異動を断って会社を円満退社できるのだ。この画面を見て、全国各地の視聴者がどう思うか・・に里山の全(すべ)ては、かかっていた。