里山に異論などあろうはずがなかった。そのために出向いてきたのだ。
「私は、いつでも…」
「では、駒井と一緒にどうぞ。私は、連絡を入れねばならん要件がありますから、10分ほどのちに参ります」
軽く礼をすると中宮は先に立ち、客用応接室を出ていった。中宮が出てドアを閉めた直後、駒井が立った。
「どうぞ…」
駒井のあとに続いた里山が通されたのは第一制作室・・ではなく、隣の番組出演者用の控室だった。今日は事前の申し合わせがあったのか、辺りに人の気配は、まったくなかった。完全な人払いである。
控室へ入ると、すぐ駒井が言った。
「それじゃ、お願いいたします」
そう言いながら駒井は椅子に腰を下ろした。里山はキャリーボックスをゆっくりとフロアへ下ろして開けた。
「小次郎、出番だ…」
里山は囁きかけるようにボックスへ呟(つぶや)いた。
『はい、分かりました、ご主人』
その声が聞こえた途端、駒井は驚愕(きょうがく)し、すぐ直立した。そういう事態になることは当然のように里山には思えた。自分だって最初は面喰(めんく)らったのだ。猫が話すなど、科学一辺倒の現代社会において有り得なかった。