「なんとか、そこを穏便には…」
駒井は見えない相手に片手で祈って懇願していた。
[いやあ~私、一存では…。ヤラセか調べてくれ・・っていう問い合わせ電話も昨日ありましたから。反響が大きかったですからね。それに、うちも一度、この猫の件では取材に行ってますしね。あなたも、おられたじゃないですか]
「はあ、それはまあ…」
いつやらの里山宅へ押しかけての囲み取材のことだ…と駒井は思った。
ヤラセの問い合わせは局にも多かった。ネットのカキコミもすごい。器用な猫もいるもんです、ははは…と笑ってヤラセを否定していた駒井だったが、やはりこうなったか…と、放送したことを悔(くや)やんだ。
放送局がそんなことになっていようとは里山は露ほども知らなかった。その夕方、少しテンション低めの里山が玄関の門を潜(くぐ)ったとき、落ち葉を掃いていた沙希代が声をかけた。
「お帰りなさい。さっき、テレビ局から電話があったわよ」
「ほう…そうか」
ダジャレではなかったが、里山は、ついそう言った。携帯へかけりゃいいのに…と思えたからだ。里山は普段着に着がえると、さっそく携帯を手にした。
「どうしました。駒井さん」
[実は里山さん、記事が週刊誌に載(の)るようなんですよ]
駒井の声は逼迫(ひっぱく)していた。