そのバラエティ番組は里山が予想していたよりは軽いテンポで順調に進行し、小次郎の出番は、まったくなかった。そして数十分後、トラブルもなく収録は終った。里山は、なんだ、こんなもんか…と、ひと安心し、安堵(あんど)した。だが、コトはそう上手(うま)く運ぶようには出来ていない。ただ、これは世間一般の見方で、業界へ打って出ようという里山にとっては、小次郎の出番があった方が何かと好都合だったから、真逆でラッキーだった。
「お疲れさまでした。…え~と、もう一本、BSがありましたよね?」
「はい、昼の2時からと聞いておりますが…」
「担当は私じゃありませんが、よく出来た後輩ですからご安心を…。ああ、ご一緒に食事でもどうです?」
駒井の誘いに快(こころよ)く応じ、里山は先導されて二階の飲食店へ向かった。
昼の三時過ぎ、里山はテレ京のBSスタジオにいた。駒井が言った番組制作担当ディレクターの猪芋(いのいも)は野性味のある好青年だった。
「駒井さんから伺(うかが)っております。番組自体は地上波と余りかわらないバラエティですので。ただ…」
名刺を渡したあと、猪芋は口籠(くちごも)った。
「ただ?」
「はい。ほんの少しなんですが、猫ちゃんに登場していただき、お話を願いたいのですが…」
新たな展開が始まろうとしていた。そのとき、里山はいい感じだ…と思った。というのは目論見(もくろみ)どうりの展開だからである。最初の収録は順調だったが、それでは準備策③異動話を会社で断る・・までの展開を望めそうにないのだ。要は、小次郎人気が出るか出ないかという世間の受けにかかっていた。