駒井は視聴者ばかりではなく部長対策もせねばならなかった。もし、中宮に真実を話せないと、恐らく里山のテープはボツになるだろう。
━ 私の立場が分かってるのかね、駒井君! 責任とらされるのは私なんだよ! ━
駒井の脳裡に中宮の言いそうな言葉が不協和音のように響いた。
「いえ、別に…。里山さん、これで終わらせていただきます…」
駒井は暈(ぼか)した。
「といいますと、帰ってよろしいんですか?」
「ええ、もちろん。里山さん…これ、食券です。適当にお食事をしてお帰り下さい…」
駒井は里山に局食堂の食券を何枚か手渡そうとした。
「はあ…。それで放送日は、いつですか?」
「あっ、それですか。正確な日時は今、言いかねますが、放送日前日までには必ずお電話をさせていただきます」
「ああ、さよですか…」
里山は食券を受け取りながらそう言うと、キャリーボックスを手にして歩き始めた。
「ここで失礼させていただきます。ご苦労さんでした…」「御疲れさまでした…」
中宮が軽く頭を下げ、そのあと駒井も合わせて里山を送り出した。里山は食堂で適当に食べ、帰宅した。キャリーボックスの中の小次郎には、持参の猫缶を与えておいた。人間食に例えれば、まあそれなりの献立(こんだて)である。小次郎にとっては好物だったから、文句などある訳がなかった。