「どういうことです?」
「いつやら少し言ったと思うんですが、ヤラセと思われないように、どう視聴者に説明するかなんですよ。あのテープが流れれば、おそらく、電話が殺到すると思うんですよ。それに、どう答えてよいものか…」
「ありのまま説明されれば、いいじゃないですか」
「そら、そうなんだろうけど…」
駒井は長めの髪の毛を掻(か)き毟(むし)った。その顔には厄介なことになってきた…という戸惑いが隠せない。駒井は最初、里山が、[実は、あのテープ、加工したものなんです。すみません…]などと言うに違いないと軽く見ていたのだった。それが、現代科学では考えられない事実を見せつけられたのだ。頭が混乱するのも無理がなかった。そのとき、コンコン! とドアをノックする音がした。
「いいかね?」
「はい、どうぞ!」
駒井の声で入ってきたのは、制作部長の中宮だった。
「どうだね、駒井君?」
中宮は首筋のネクタイを締め直しながら駒井に訊(たず)ねた。
「ああ、それはOKなんですが…」
駒井は口 籠(ごも)った。小次郎が人の言葉を話せる・・とは、とても尋常の精神状態で言えなかった。
「んっ? なにか、問題があるのかな?」
にっこりと微笑(ほほえ)んで中宮は言った。里山とキャリーボックスの中の小次郎は神妙に二人の遣り取り聞くばかりだった。