次の日曜は、すぐ巡った。前夜、沙希代に事情を説明した里山は、小次郎をキャリーボックスへ入れると、九時過ぎに家を出た。鞄(かばん)を手に持っていつも出る里山に違和感はなかった。多少、手が重くなった…くらいの感触だ。
テレ京の局ビルは里山が住む街から小一時間のところにあった。里山の会社まではおよそ半時間だから、里山としては通勤感覚である。ただ、いつもとは逆方向で、手回り品切符の購入と途中駅で乗り換える手間が余計に思えた。
テレ京の前庭には駒井が出迎えで立っていた。里山にはどうして今着くことが分かったのかが不思議でならなかった。それが分かったのは局のエントランスに入ったときである。
「ははは…、今日の午前中に来られることは分かっておりましたから。フロアの木崎に駅へ行かせ、連絡させたんですよ。こんなことは、我々、制作サイドにはよくあることでしてね」
「私だとよく分かりましたね」
「これを渡しときましたから」
駒井は、ポケットから里山の顔写真を出した。それにしても、多くの乗降客の中から…と里山は思ったが、それがプロの世界なんだと思い返した。
エントランスの受付横には、もうひとり、初老の男が立っていた。
「制作部長の中宮です…」
男は名刺を出し、笑顔で握手を求めた。キャリーボックスの中の小次郎は一部始終に聞き耳を立てた。