水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ②<43>

2015年02月15日 00時00分00秒 | #小説

『ええ、まあ…。その方向みたいですね』
 小次郎としては肯定して頷(うなず)くしかなかった。
「なんだ、聞いていたのか…」
 沙希代が熟睡しているとばっかり思っていた里山は、ある意味で心強かった。この先、自分がどうなっていくか、もう一つ自信がなかったのだ。
 それから、ほぼ一週間が経った。それまで連日、テレ京の電話は鳴りっぱなしだったが、数日後にはさすがに少し減り、次の週前には、数件にまで激減した。テレ京の駒井としては、やれやれだった。当然、それは制作部長の中宮にも言えた。数日、かかってきた駒井からの電話もかからなくなった里山としては、やや予想外である。この程度か…と、課長席に座りながら自分の携帯を弄(まさぐ)っては見つめた。
「課長、元気がありませんね。どうかされました?」
 課長補佐の道坂が心配そうに里山の顔を覗(のぞ)き込んだ。里山は道坂がデスク前に立っていることも見逃していたのである。
「ああ、君か…。いや、なんでもない」
 里山はすぐ携帯を背広へ戻(もど)すと、机上の書類へ目を落とした。
 この頃、テレ京の駒井は、ある電話に対応していた。相手は週間文秋の矢崎だった。
「そうですか…。記事にされると、立場上、私が困るんで」
[いや、うちが止めても各社は出しますよ、駒井さん。特別枠で…]
 矢崎は声高に言い切った。


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