水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (79)待つことはない

2020年07月02日 00時00分00秒 | #小説

 決まった時間に決まったことをする。これは大事なことだが、なにもその時間まで待つことはないのである。この積極性を忘れると物事は守勢一方になり、コトを果たし辛(づら)くなる。お相撲で行司さんが、「手をついて! 手をついてっ!!」と強めに言う場面があるが、「時間まで、時間までっ!」とは決して言わないだろう。^^ なにも時間まで待つことはない訳で、双方の気合いが合って立てば、その一番は十分に成立するのである。まあ、待てば海路の日よりあり・・とも言うが、それは違う意味であり、この場合は待った方がいいだろう。^^
 日曜朝の、とある公園である。デイトなのだろう。若い男が東側の噴水前で立ち止まっている。時折り腕を見ては時間を窺(うかが)うが、いっこう待ち人は来る気配がない。
「妙だなぁ~? 噴水前で10時に、と言ったんだが…。待つことはないか…」
 男はプライドを少し覗(のぞ)かせ、歩き始めた。
 同じ公園の西側の噴水前である。
「怪(おか)しいわね、10時って言ってたのに? 待つことはないんだけど…」
 女もプライドを少し覗かせ、腕を見ながら静かに歩き始めた。時間は10時をすでに20分ばかり回っていた。
「きっと何か急用ができたんだな…」
 男は携帯画面を弄(いじ)くりメールを入れ、噴水を離れようとした。
「きっと何か急用ができたんだわ…」
 時を同じくして、女も携帯画面を弄くりメールを入れ、噴水を離れようとした。
 そして二人は、バッタリと出くわした。どちらも、待つことはないことはないんだ…と、ややこしく思った。
 詳細まで詰めないと、待つことはないという気分は、ややこしい気分に立ち至るのである。^^ 
  
                                     


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