水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (87)風向(かざむ)き

2020年07月10日 00時00分00秒 | #小説

 何をするにも風向(かざむ)きを見たり知ったりすることは重要だ。煙(けむ)いという理由で煙(けむり)の風向きを見るだけが風向きを探る目的ではない・・ということになる。奥さんのご機嫌がいいから、今日はもう一本、熱燗(あつかん)が飲めるな…などという庶民的な風向き予測だってある。いやいや総理っ、今はW選挙のときじゃないですっ! …などという政府側近の風向き予測もあるだろう。ただ、総理はそのとき、ご機嫌斜めの風向きだったとしても、私は草履(ぞうり)ではないよっ! とは、まあ100%、言われることはないだろうが…。^^  とある会社の最高責任者会議である。 「君はそう言うがねっ! 来年もそうなるとは限らんだろうがっ!」 「常務のお言葉ですが、私の予測では、この風向きは来年も変わらないと存じますっ!」  今年から執行役員に昇格した取締役部長は、自信あり気(げ)に言い切った。 「ふ~~む。君がそこまで言うからには、何か根拠があるんだろうね?」  ビルの大窓ガラスを背にして楕円卓の中央にデェ~~ンと大きな顔をして座る社長の顔を窺(うかが)いながら、副社長が小声で言った。 「根拠でございますか? 根拠は、私が考えておりますとき、焼き芋のいい匂(にお)いが漂(ただ)ってきたものですから、いい風向きだ…と判断した次第でございます…」  そのとき、社長が重い口を初めて開いた。 「…焼き芋? いいんじゃないか、部長の方針で…」  最高責任者会議の風向きは、社長のひと声で常務方針から部長方針へと急変した。  世の中の風向きはすぐ変わるから、それを忘れず生きねばならない・・という過酷[シビア]な結論となる。^^ 
  
                                     


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