水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (89)仕組み

2020年07月12日 00時00分00秒 | #小説

 この世のすべての物や事象には仕組みが存在する。一台の機械を例にとって挙(あ)げれば、その部品の一つ一つが組み合わされ、仕組みが完成することで、初めてその機械は機能する訳である。これは何も機械に限ったことではなく、一人一人が集まった組織、例(たと)えば役所や会社なんかでも言える。人の身体だってそうだ。このことを忘れれば、すべてが瓦解(がかい)してしまうから怖(こわ)ぁ~~い。^^
 とある金融機関である。
「△◇○番の方?」
 呼ばれた番号の男は窓口にツカツカ・・と近づき、預(あず)けようとした小銭入れを取り出した。フツゥ~は財布から紙幣を・・だから、金融機関の女性係員は訝(いぶ)しげにその男の一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)を見守った。その男は、小銭入れの貨幣を窓口の上へ全部、出し、数え始めた。
「怪(おか)しいなぁ~? 一円足りない…」
「あの…どれだけお預(あず)けなんでしょう?」
「えっ? はあ、¥○△◇ですが…」
「足りないんですか?」
「はい…。妙だなぁ~。出がけには、きちんと¥○△◇入れたんですが…。あの…ダメでしょうな?」
「何がです?」
「一円、お負けしてもらうってのはっ…」
「そういう仕組みの金融機関はございません…」
「でしょうな…。まあ、訊(き)いてみただけですから、ははは…」
 女性係員は、なにが、ははは…と怒れたが、怒る訳にもいかず、愛想笑いをした。
「じゃあ、これだけでいいですっ!」
 女性係員は、最初からそう言いなさいよっ! と思えたが、そうとも言えず、ふたたび愛想笑いをした。預ける人に対応するのが金融機関の仕組みなのである。
 仕組みは、どんな場合でも仕組みとして存在するルールなのだ。皆さん、その点を忘れることのないよう、くれぐれも注意しましょう。^^ 
 
                                     


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