水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (93)財布(さいふ)

2020年07月16日 00時00分00秒 | #小説

 まあ、フツゥ~なら外出時に財布(さいふ)を忘れる方はいないであろう。^^ どんな場合にも必要なのがお金だからで、皇室の方とか一部の方を除(のぞ)いて財布は欠かせない訳だ。私も財布の中身を気にする小市民の一人だが、^^ 一度くらい、「すでにお付きの方からお金は頂戴しておりますので結構でございます…」などと言ってもらいたい口だ。そう言ってもらったあと、「あっ! そうなの…」と返したいのである。^^  財布を忘れる生活とは、さぞ優雅(ゆうが)な気分に違いないと思われる。皆さんも、そう思われませんか?^^
 ここはとある駅の改札前である。広い構内に大勢の乗降客が移動している。構内に設けられた自動券売機前には、時折りコイン入れ、乗車券を買い求める人が集まる。そんな中、弱っている一人の男性乗降客がいる。その動きの一部始終である。 
「し、しまった! 俺としたことが、財布忘れちゃったよっ! いまさら帰るのもなんだしな…。よしっ! 持ってきてもらうかっ! 確か…玄関の下駄箱(げたばこ)の上に置いたよな?」
 男性は考えながら携帯の画面を弄(いじく)った。
「あっ! 俺!」
『俺って、誰よ?』
 妻の脳裏(のうり)に一瞬、オレオレ詐欺(さぎ)の姿が過(よぎ)った。
「俺だよ、俺! 分からないかっ!? 今朝、トスート食って味噌汁飲んだ俺だよっ!」
「なんだ、あなたっ!?」
 妻は味噌汁を飲んでトーストを齧(かじ)るような風変わりな人はうちの夫をおいて他にない…と確信したのである。^^ パスワードが認識された訳だ。^^
「そうだ、俺だよっ! 財布をさっ、出がけに下駄箱の上に…確か置いたはずなんだっ! 持ってきてくんないか。…んっ? ああ! 口蝦蟇(くちがま)駅! 頼んだよっ!」
『ったくっ、もう! 分かりましたっ!!』
 妻は渋々(しぶしぶ)、了解した。が、しかしである。下駄箱の上のどこを探しても財布はなかったのである。妻は夫にリダイヤルした。
『ああ、お前かっ! あったろっ?』
「それが、ないのよっ。他にどこか置き忘れてないっ?」
『怪(おか)しいなぁ~。確か…下駄箱の上に置いて…でっ! あっ!!』
 男は思い出したのである。出がけに下駄箱の上に置き→トイレ→財布→鞄(かばん)という動きである。
「どうしたのよっ!?」
『ははは…悪い悪い! あった、あった! 鞄の中だった』
「ったくっ!!」
 そう怒りっぽく言うと、有無(うむ)を言わさず妻は携帯を切った。
 財布の中はお足[お金]だけに、忘れるほどよく動くのである。^^
 
                                      


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