水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (91)詰(つ)め

2020年07月14日 00時00分00秒 | #小説

 物事は詰(つ)めが甘かったり忘れることでパァーになってしまう。分かり易(やす)く言えば、オジャンになるということだ。さらに分かりやすく説明すれば、しない方がよかった…という結果になってしまうことを意味する。頭脳明晰(ずのうめいせき)な読者諸氏なら、ここまで言わずとも、十分にお分かりいただけることと思う。^^
 ここは将棋会館、高尾の間である。プロ棋士の、とある棋戦が行われている。
「波吹(はぶき)王位、残り○○分です…」
 棋戦はクライマックスで盛り上がる最終局面を迎えようとしていた。棋譜(きふ)の読み上げ係が小声で楚々(そそ)と残り時間を告げる。そのあと、長考の波吹王位が指(さ)した手は、必死に至る前の一手だった。詰めろっ! ではないものの、詰めますよっ! くらいの手である。^^
『ウッ! …』
 挑戦者の淵居(ふちい)棋王は、口には出さず心で唸(うな)った。詰めますよっ! の手であることが、気分として分からなくてもいいのに分かったからである。それは、次の一手が悪手(あくしゅ)になってしまったからで、アマチュアならそうは指さず、シンプル[単]に正解の最善手(さいぜんしゅ)を指したに違いなかったのだ。^^  淵居棋王は、『ならば、こちらは詰めろっ! をっ!』と意気込み、飛車をピシッ! と、駒音(こまおと)高く成り込んだ。『へへへ…勝たせていただきましたねっ!』くらいの笑顔気分である。
 ところが、である。これが詰めろっ! ではなく、詰まないよっ! の悪手だったから、将棋は終わってみるまで分からない。淵居棋王が意気込まなければ、勝負は、まだこれから・・の公算(こうさん)が高かったのである。
 物事の詰めは、冷静さを忘れることなく意気込まない方がいい・・という結論が導(みちび)ける。^^ 
 
                                     


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