水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分からないユーモア短編集 (6)平等(びょうどう)

2020年07月29日 00時00分00秒 | #小説

 暑い夏も煮詰(につ)まり、日没の早さを少し肌で感じるようになると、またお盆の季節がやってくる。[関東地方はひと月、早いようです。^^]そうすると、お坊さんが名調子で、『♪平等(びょぉ~どぉ~~~)施(せぇ~~)一切(いぃっ~さぁ~い)♪』などと、賑(にぎ)やかにお唱(とな)えになる。^^ その平等(びょうどう)だが、何をもって平等とするのか? が、どうも私には今一、分からない。仕方なく、一万円札ではなく十円玉を数えつつ、描かれた平等院の模様をしみじみと見る訳だ。^^
 とある家庭の夜である。4K放送テレビが賑やかな映像を鮮明に映し出している。風呂上がりの夫がダイニングのソファーに座り、冷えたピールを飲みながら画面を見入る。
「ほう! アフリカじゃ餓死者か…」
「飽食のこの国じゃ、毎日、残飯の山で、家畜の餌(えさ)なんでしょ!?」
 キッチンに立つ妻が夕食の準備をしながら上から目線の夫に追随(ついずい)する。
「そう! いったい、平等ってのはどの辺(あた)りのことを指(さ)すんだっ!?」
「私に言われても…」
「まっ! こんな話が出来るだけ、俺達はゆとりがあるってことかっ! 有り難いと思わんとなっ!」
「そうね…」
「国会議事堂の前が芋畑(いもばたけ)だったなんて、今の若い者(もん)は信じられんだろうな…」
「そんな時代がこの国にもあったのよね」
「そうそう! あの頃はゴミを捨(す)てる時代じゃなく拾(ひろ)う時代だった…」
「物がなければ捨てられないわよね」
「そう! 拾う訳さっ!」
「あっ! 捨てて拾えば等しいな。で、平等かっ!?」
「なに馬鹿なこと言ってんのよっ! 夕食にしましょ!」
「はいっ!」
 上から目線の夫は素直に妻に従い、平等になった。
 平等は、いろいろな意味を含む分からない言葉ということになる。^^
 
                               完


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