水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (98)世(よ)

2020年07月21日 00時00分00秒 | #小説

 世(よ)とは、「世は満足に思うぞ…」などと時代劇のお殿様が語られる、その世ではない。^^ お殿様がご自分のことを語られる世の場合は、大方(おおかた)のことが思い通りにおなりになるのだろうが、私達が生きている現代の世は、なかなか個人の思い通りにはならない。まあこれは、仕方のないところで、そのことを忘れると、「あの人、エゴイスト[利己主義者]ねっ!」などと陰口(かげぐち)を叩(たた)かれるから用心が必要だ。意見具申などは別として、思っても心に留(とど)めねばならないのが辛(つら)い世なのである。世渡りは難(むずか)しい訳だ。^^
 とある公園のベンチである。一人の男が座ったまま、すでに一時間近くも思案に暮れている。そこへ、近所の知人が通りがからなくてもいいのに通りがかった。
「どうされました? 鴨川(かもかわ)さんっ!」
「ああ、これは、目白(めじろ)さんでしたか…。いやなに、ちょっと考えごとを…」
「なんだ! そうでしたか。それならよかった。それにしても、お珍しいですね、こんな時間に…」
「この時間だからこそ! ここ! なんですよ。今の世は生き辛いですなっ! じっとしているだけで粗大ゴミのように嫁にいびられるっ!」
「そうですか? うちの嫁はお義父(とう)さま、お義父さまと大事にしてくれますが…」
「うちはいけません、いけませんっ!」
「さよですか。そりゃ、お気の毒なことで…。で、ここ、ですか?」
「はい。帰ってからの敵への迎撃作戦を練(ね)っておりますっ!」
「そんな大げさなっ!」
「いやいや、これぐらいで備えないと、偉(えら)い目に会いますから…」
「いつも、お見かけしませんが…」
「今日は、なかなかいい作戦が思い浮かびませんで、気分直しに出かけてみました」
「さようで…ではっ!」
 通りかかった知人は、世は平和だ…とは思ったが、そうとも言えず、長居は無用とばかり、一礼して立ち去った。
 世の有りようは人それぞれで違うことを忘れるとエゴ[利己的]になりやすいから注意したいものだ。^^
 
                                     


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