水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (86)歌詞

2020年07月09日 00時00分00秒 | #小説

 人前で、♪どうのぉ~~こうのぉ~~[どうたらぁ~~こうたらぁ~~]♪と、得意げに歌っていたのはいいが、途中で♪… …♪ と歌詞を忘れることがある。披露宴会場に集まった多くの人前だったり、お得意を接待する料亭とかの場だと大変な事態となる。プロの歌手の方々なんかは職業柄(しょくぎょうがら)、その辺(あた)りの逃げは心得ておられるから、何事もなかったかのように、スゥ~~っと聴衆を煙(けむり)に巻かれる。聴衆は、いい声…くらいの気分でポカァ~ンと聴き惚(ほ)れている。恰(あたか)も、一枚の木(こ)の葉を頭に乗せた狐(きつね)さんや狸(たぬき)さんのようなもので、見事! と言う他はない。^^ そこへいくと私達はサッパリで、聴衆の面前で大っ恥(ぱじ)をかく訳だ。^^
 とある温泉の大広間である。いい具合に酔いが回ってきた旅行者達が順々に一段高いひな壇へ登り、カラオケで得意の喉( のど)を披露(ひろう)している。
「♪北へぇ~北へぇ~~へとぉ~~~ … …♪」
 すっかり歌詞が飛んでしまったひな壇の男は、それまでのド派手なフリをやめ、マイクを握ったまま棒立ちになってしまった。
「ウイッ!! …おいっ!! どうしたっ!! 南もあるぞぉ~~!!」
 泥酔(でいすい)した旅行客が野次(やじ)を飛ばす。
「… すみませんっ! 忘れましたぁ~~!」
 ひな壇の男はペコリッ! と頭を下げ、笑顔で聴衆に謝(あやま)った。大広間は笑いの渦(うず)となり、益々(ますます)会場は盛り上がっていった。
 歌詞を忘れる事態になったときは、素直に謝るのが得策となる。^^
  
                                     


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