結果を考えれば物事が上手(うま)くいかない場合がある。結果など、どうでもいい、ただやるだけ…という気分でコトに臨(のぞ)めば、案外と困難なことでも上手くいくのは不思議といえば不思議だ。意識しない方がいいということになるが、七十話は、そんなやるだけの不思議さに迫る四方山話(よもやまばなし)だ。^^
いつやらの短編集にも登場した、とある大学の医学部受験会場である。今年も御多分に漏れず、落ちても落ちても受け続ける男が受験に臨んでいる。試験官は、…またかっ! という同情した眼でその男を見つめている。そして、ついにこの年の試験も終了した。
「今年の調子は、どうですかっ!」
受験生達に混ざり去ろうとするこの男の背に、試験官は思わず声をかけた。
「あっ! 今年もお会いしましたねっ! ははは…私は、ただやるだけですから…」
悪びれもせず返すこの男に、試験官は一瞬、たじろいだ。
「と、いいますと…?」
「言葉通り、ただ、やるだけです。私の楽しみですから…」
「楽しみ!?」
「はいっ! 楽しみなんですっ!」
変わった人だっ! と試験官は思ったが、そうとも言えず笑って暈(ぼか)した。
「受からなくてもいいんですかっ!?」
試験官は哀れっぽい視線で男を見た。
「はいっ! まあ、そろそろ受かった方がいいかな…くらいには思っとりますが…」
「ははは…そうですか」
試験官は、この手の男には関わらない方がいいと思ったのか、笑って立ち去った。
意味もなく、ただやるだけ…と頑張る人には、疑問の余地を残さず関わらない方がいいようだ。^^
七十話は、やるだけを、ただ、書くだけで書いた四方山話でした。^^
完