水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

四方山(よもやま)ユーモア短編集 (91)先を越す

2021年11月27日 00時00分00秒 | #小説

 どういう訳か、人が人の先を越したがるのはどうしてだろう? と今朝早く、考えなくてもいいのに考えた。^^ 先を越すと、いいことでもあるのか? を考えることにした訳だ。確かに、相手が予定することに変化を与えることは出来る。^^ これは非常につまらない発想に思えるが、まあ、考えるのも悪くはないな…ということで、今日の九十一話は先を越す・・というテーマに焦点[ポイント]を合わせた四方山話(よもやまばなし)にした次第である。お笑い下さい。^^
 ソヨソヨと、いい風が流れる図書館前である。ここは静かでいいや…と思いながら、この男、蒲山(かばやま)は図書館へ入った。ふと見れば、いつもは誰も来ていない時間帯のはずなのに、一人の男が静かな佇(たたず)まいで座っているではないか。楚々(そそ)として、何やら書物らしきものを開いてはノートに書き込んでいる。蒲山としては、誰もいない…という、いつもの想定できたものだから、少し要領が狂った。まあ、要領と言っても決めた動きではなく、いつもの決まったワンパターンの動きである。先を越すつもりはなく偶然、自分より先に来ていたのだ…と蒲山は思うことにした。そんなストーカーのような妄想(もうそう)を抱けば、蒲山じゃなく馬鹿山じゃないか…と蒲山は苦笑した。すると、そのときである。
「あの…蒲山さんですかっ!?」
「はあ…」
 その男に急に声をかけられ、蒲山はギクッ! とした。
「あの…これ」
 男から手渡されたもの、それは一冊の手帳だった。
「あっ! 有難うございます」
「昨日(きのう)、入り口に落ちていたもので…」
「そうでしたか。態々(わざわざ)、どうも…」
 やはりこの人は、自分の先を越すつもりはなかったんだ…と、胸を撫で下ろすほどのことでもないのに撫で下ろした蒲山は、いつもの席へと着席し、いつもの本を読み始めた。
 先を越す…と感じるのは被害妄想だという九十一話の四方山話でした。^^

                   完


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