水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

四方山(よもやま)ユーモア短編集 (83)雑念

2021年11月19日 00時00分00秒 | #小説

 一歩、外へ出れば、雑念に苛(さいな)まれるのが世の中である。別にその人を苦しめようという目的で雑念が忍び寄る訳ではないだろうが、どういう訳か雑念は人に付いて回り、物事がスンナリ運ぶ方が難しい。仏教では、これを煩悩(ぼんのう)と呼ぶそうである。^^ ということで、今日の八十三話は雑念にスポットを当てた四方山話(よもやまばなし)にしました。^^
 とある大邸宅である。ホールディングスの会長を退任したこの家のご隠居が大事にしている庭の盆栽に鋏(はさみ)を入れている。盆栽棚も特注品で、なんでも数百万円をかけて作ったということで盆栽よりも高いと評判を呼び、見学に知り合いの社長や会長連中の来客があるくらいだ。
「…どうも、枝ぶりが気に入らんな…。この小枝は思い切って…」
 雑念に苛まれたご隠居は、鋏でチョキッ! っと小枝を切り落とした。そして、しばらく盆栽を眺(なが)めていたが、また雑念に苛まれた。
「…どうも不釣り合いだっ!」
 ご隠居は、反対側の小枝もチョキッ! っとやった。そういうことが何度か続くと、いい枝ぶりだった盆栽も、すっかり丸裸になり、見る影もなくなってしまったのである。
「どうも今日はいかん…。おいっ! 錦鯉(にしきごい)に餌(えさ)をやるぞっ! あとはお前がやっておけっ!」
「ははっ!!」
 命じられたのは、お付の執事、玉袋である。どうしろってんだっ!! という雑念が湧いた玉袋だったが、とてもそんな恐ろしいことは言えず、素直に従う他はなかった。
 このように、雑念は雑念を呼び、放射状に広がっていく訳である。まるで、流行中の新型ウイルスのように…。
 皆さん、雑念を他の人に拡散させないよう注意しましょう。^^
 今日の八十三話は注意を喚起(かんき)する四方山話でした。^^

                   完


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