水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

四方山(よもやま)ユーモア短編集 (82)本物(ほんもの)と偽物(にせもの)

2021年11月18日 00時00分00秒 | #小説

 八十二話の四方山話(よもやまばなし)は本物(ほんもの)と偽物(にせもの)という内容でお話をしたいと思う。というのは、最近の世相を観ていると、偽物が本物で本物が偽物のような感じを受けたからだ。偽物が堂々と大威張りし、本物が小さくなっているという風潮は如何なものか…と思うからだ。その辺りのところを皆さんなら、どうお考えだろう。^^
 他の短編集に何度か登場した、とある骨董屋である。
「おっ! 寒山ですなっ!」
 店に入った客が、開口一番、手帚(てぼうき)でパタパタと埃(ほこり)を払う店の主人に言った。
「お客様、よくご存じで…」
 店の主人は偽物の模写の掛け軸と知っていたから、下手の笑顔で客の顔色を窺(うかが)った。
「でしょ!!? やはり…。私の目に狂いはなかった!」
「ええ、それはもう!」
「お高いんでしょうなっ!」
「いやっ! 今、この店の開店二十周年でして、特別にお安くしようとっ!」
 主人は片手の指を三本立てながら、開店五周年にも満たないのに出鱈目を流暢(りゅうちょう)に言った。
「ええっ! 三十万円ですかっ!」
「ははは…三万円ですよっ!」
「か、買いますっ!」
 客はキャッシュで支払い、笑顔で店を出ていった。
「偽物の二千円が三万かっ! ははは…」
 主人は大儲(おおもうけ)けしたように満面の笑みを浮かべた。ところが、である。この掛け軸は三百万円はするという猿翁寒山(えんおうかんざん)の紛(まぎ)れもなき本物だったのである。
 本物と偽物の区別は、よぉ~~~く観ないと分からないという八十二話の四方山話でした。^^

 ※ 猿翁寒山は私が創作した超有名絵師です。^^

                   完


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