我が国の美学の一つに潔(いさぎよ)さというのがある。この潔さというのは、なかなかの曲者(くせもの)で、ある意味、虚栄心的なその人の見栄のような色彩がある。内心では、ぅぅぅ…なのだが、外見では笑顔で手を振って去る・・というような姿である。選挙で落選した人は、こうであって欲しい。^^ 結果、本人の人望を高め、格好よさもある訳だ。今日の八十四話は、潔さに焦点を当てた四方山話(よもやまばなし)である。
毎度、登場する、とある老人二人の会話である。
「角鹿(つのじか)さん、落選されましたな…」
「さようで…。山多(さんた)さんが応援に駆け付けられたんですが…」
「聖和党も偉い損失ですなっ!」
「はいっ! まあ、いづれにしても、今年はコロナですから…」
「そうでした。ジングルベルも今一でしょうなっ! それにしても、角鹿さんの敗戦の弁の潔さには、つくづく感服いたしました…」
「ですなっ! 次回は一票を…と言う人も多かったんじゃありませんかな?」
「いや、私もそう思いましたっ!」
「上に立つ人は、アアでないとっ!」
「ですなっ! …私らもこの辺(あた)りで潔く去るとしますか…」
「はいっ! 咳払いも聞こえてきましたからなっ!」
二人は三時間ばかり、辺りの人目(ひとめ)も気にせず話していたが、潔く? ベンチを立つと公園を去った。
潔さは場合によって変化するもののようだ。^^
八十四話は潔さの四方山話でした。私も長話(ながばなし)にせず、潔く終わることにします。^^
完
一歩、外へ出れば、雑念に苛(さいな)まれるのが世の中である。別にその人を苦しめようという目的で雑念が忍び寄る訳ではないだろうが、どういう訳か雑念は人に付いて回り、物事がスンナリ運ぶ方が難しい。仏教では、これを煩悩(ぼんのう)と呼ぶそうである。^^ ということで、今日の八十三話は雑念にスポットを当てた四方山話(よもやまばなし)にしました。^^
とある大邸宅である。ホールディングスの会長を退任したこの家のご隠居が大事にしている庭の盆栽に鋏(はさみ)を入れている。盆栽棚も特注品で、なんでも数百万円をかけて作ったということで盆栽よりも高いと評判を呼び、見学に知り合いの社長や会長連中の来客があるくらいだ。
「…どうも、枝ぶりが気に入らんな…。この小枝は思い切って…」
雑念に苛まれたご隠居は、鋏でチョキッ! っと小枝を切り落とした。そして、しばらく盆栽を眺(なが)めていたが、また雑念に苛まれた。
「…どうも不釣り合いだっ!」
ご隠居は、反対側の小枝もチョキッ! っとやった。そういうことが何度か続くと、いい枝ぶりだった盆栽も、すっかり丸裸になり、見る影もなくなってしまったのである。
「どうも今日はいかん…。おいっ! 錦鯉(にしきごい)に餌(えさ)をやるぞっ! あとはお前がやっておけっ!」
「ははっ!!」
命じられたのは、お付の執事、玉袋である。どうしろってんだっ!! という雑念が湧いた玉袋だったが、とてもそんな恐ろしいことは言えず、素直に従う他はなかった。
このように、雑念は雑念を呼び、放射状に広がっていく訳である。まるで、流行中の新型ウイルスのように…。
皆さん、雑念を他の人に拡散させないよう注意しましょう。^^
今日の八十三話は注意を喚起(かんき)する四方山話でした。^^
完
八十二話の四方山話(よもやまばなし)は本物(ほんもの)と偽物(にせもの)という内容でお話をしたいと思う。というのは、最近の世相を観ていると、偽物が本物で本物が偽物のような感じを受けたからだ。偽物が堂々と大威張りし、本物が小さくなっているという風潮は如何なものか…と思うからだ。その辺りのところを皆さんなら、どうお考えだろう。^^
他の短編集に何度か登場した、とある骨董屋である。
「おっ! 寒山ですなっ!」
店に入った客が、開口一番、手帚(てぼうき)でパタパタと埃(ほこり)を払う店の主人に言った。
「お客様、よくご存じで…」
店の主人は偽物の模写の掛け軸と知っていたから、下手の笑顔で客の顔色を窺(うかが)った。
「でしょ!!? やはり…。私の目に狂いはなかった!」
「ええ、それはもう!」
「お高いんでしょうなっ!」
「いやっ! 今、この店の開店二十周年でして、特別にお安くしようとっ!」
主人は片手の指を三本立てながら、開店五周年にも満たないのに出鱈目を流暢(りゅうちょう)に言った。
「ええっ! 三十万円ですかっ!」
「ははは…三万円ですよっ!」
「か、買いますっ!」
客はキャッシュで支払い、笑顔で店を出ていった。
「偽物の二千円が三万かっ! ははは…」
主人は大儲(おおもうけ)けしたように満面の笑みを浮かべた。ところが、である。この掛け軸は三百万円はするという猿翁寒山(えんおうかんざん)の紛(まぎ)れもなき本物だったのである。
本物と偽物の区別は、よぉ~~~く観ないと分からないという八十二話の四方山話でした。^^
※ 猿翁寒山は私が創作した超有名絵師です。^^
完
きっちり形(かた)をつけよう・・などと言う。ところが、なかなかこれが難(むずか)しく、きっちりいかない場合が多い。^^ 気が短い人なら、イライラするところだろうが、このきっちりいくには、どうすればいいのか? と思ったりもする。ということで、でもないが、八十一話の四方山話(よもやまばなし)は、きっちりの実態にきっちり迫りたいと思う次第だ。^^
二人の男が、なにやら激高(げきこう)して話し合っている。
「いやっ! その分は返したはずだっ!」
「そんな訳、ないだろっ! 前の土曜に電話で今日、返すっ! って言ったじゃないかっ!」
「馬鹿言えっ! それは先週の土曜だろっ!」
「だから、こうして今、出会ったんだろうがっ!」
「いやいやっ! そんな訳がないっ!」
「よぉ~しっ! きっちり話をつけようじゃないかっ!」
「ああ、いいだろっ!」
時間があったのがいけなかった。二人はそれから二時間ばかりも、返した返してないの問答を繰り返すことになったのである。で、結果はどうなったのか!? そこを読者の皆さんはお知りになりたいところだろうが、未(いま)だに、きっちりと決着がついてないない・・ということである。
このように、きっちり話をつけるのは簡単なようで非常に難しい・・という四方山話でした。我が国の中長期的な財政再建策も、きっちりつけて欲しいものです。^^
完
勝利という概念は、対極の敗北という概念を前提としている。当たり前だろっ! と興奮されずお読み下さい。^^
では、勝つとはどういうことなのか? その辺を八十話の四方山話(よもやまばなし)としてお話したい次第だ。
二人の老人が小春日和の公園で話をしている。
「アメリカも騒いでますなっ!」
「そうそう! 勝利宣言で騒いでますなっ!」
「あそこまで熱くなる必要がありますかっ!」
「ですなっ! まあ、国民性の違いですかなっ!」
「コロナ対策の方が大事に思えますが…」
「…はいっ!」
「コロナに勝利する方が勝利に思えるんですがな…」
「さよですなっ! これは生存を賭けた人類すべての勝利でもありますっ!」
「アメリカが世界をリードしてくれませんとっ!」
「そうそう! 選挙なんて小さい小さいっ!」
「まあ、小さくはないとは思いますが、さほど大きくもないっ!」
「…はいっ!」
コンビニ弁当を食べ終えた二人の老人は、そう言いながら、晴れた青空を見上げた。
人類にとって真の勝利とは何なのか? それが究極の問題のようだ。
八十話は勝利とは?を考える四方山話でした。私には分かりません。^^
完
面子(メンツ)・・英語で言えばメンバーなのか? まあ、そこら辺(あた)りのところはよく分からないが、^^ ともかく面子が揃(そろ)わなければ成ることも成らず、話にならない・・ということになる。今日の七十九話は、鬱陶(うっとう)しい秋霖(しゅうりん)の雨がショボ降る中、書き進める[正確にはバーチャル・リアリティーの非現実的なPCキーを打ち進める]四方山話(よもやまばなし)である。^^
四人の男達が雀卓(じゃんたく)を囲み、マージャンをやっている。
「はいっ! 出ましたっ! 自摸(ツモ)、メンタンピン三色(サンシキ)…跳ねましたねっ! 親の跳満(ハネマン)、六千OIL(オイル)!」
「チェッ! オーラスで独(ひと)り勝ちかよっ!」
竜川に自摸で上られ、豚野は『上手(うま)いこと言いやがる…』と思いながら愚痴った。
「申し訳ないっ! これで、夕飯代は三人持ちで…」
「よくよく考えたら、いつも俺達が持ってねぇ~かっ?」
豚野は他の面子二人に同調を求めた。
「…だなっ!」「そうだな…」
牛山と鳥崎は、『そういや、いつも何か持ってかれるな…』と、食事代以外にも支払わされた数々の品々を思い出しながら、豚野に追随した。
七十九話は、面子も似通った面子と組まないと鴨(カモ)にされる・・という、WARNING(警告)めいた四方山話でした。^^
※ 鴨にされる・・とは、鴨鍋に入れる鴨にされるという意味です。^^
完
すでに秋が深まりつつある。少し前までは冷房、薄着・・だったものが、今や暖房が恋しい秋の夜長となっている。こうした季節の移ろいは、楚々として変化をしていく訳だ。『明日(あした)から秋ですよっ!!』と、天から声はかからないのである。^^ まあ、当然といえば当然だが、今日の四方山話(よもやまばなし)は季節を題材にしたお話だ。
とある田舎(いなか)の家庭である。老人が落ち葉を集めて燃やしている。落ち葉の中にはサツマイモが数個、隠されている。今年、小学一年に入学したこの家の孫が、ひょっこりと顔を出さなくてもいいのに顔を出した。
「なんだ、正也(まさや)か…」
「じいちゃん、僕の分はあるんだろうねっ!?」
「ははは…正也殿の分は、ちゃ~~んと確保してごさるよっ!?」
「そう…それは、大儀(たいぎ)っ!」
「もう、そろそろ、季節も移(うつ)ろうか…」
「ああ、移ろう、移ろう。僕の大好きなお正月だっ!」
「お正月は、まだ早かろう。先にクリスマスだっ!」
「それがあったね…」
しばらくして、二人は焼けたサツマイモを美味(うま)そうに頬張(ほおば)った。
季節には、それぞれ楽しみが待っている訳である。
今日の七十八話は、季節をテーマに描く四方山話でした。^^
※ ご存じ、風景シリーズから、お二人の特別出演でした。^^
完
年を重ね、中高年の域に入ると、どういう訳か小忙(こぜわ)しい…と感じるのは私だけだろうか?^^ よぉ~~く考えれば、それほど忙しい訳でもないのである。若い頃だと、かなりの内容を熟(こな)していたにもかかわらず、いくらでも時間があったのである。かなりの行動が大して負担[疲れること]にもならず、日々を過ごせたのだ。それが、どうだっ! 大したことも出来ず、小忙しく日々が終わっていくのである。これは辛(つら)いっ!^^ まあ、そんなことで、でもないが、今日の四方山話(よもやまばなし)は小忙しいをテーマに描くことにしたい。^^
とある地方の市役所である。
「豚野(とんの)君、決算審査意見書は出来てるんだろうねっ!?」
「…決算審査意見書!? 課長、決算議会は先月、終わりましたが…」
豚野は訝(いぶか)しげに課長、舌牛(したうし)の顔を窺(うかが)った。
「ははは…そうだったか? 何かあったような気がするんだが…」
「議事録書ですかっ!?」
「そう、それっ! 今週は、小忙しいなっ!」
「ははは…、いやだな、課長っ! 昨日、製本されて印刷所から届いたじゃないですかっ!」
「んっ? そうだったか…。なぜか気分が小忙しいんだが…」
「お疲れなんじゃないですかっ?」
「そうなのかな…。一度、医者に診てもらわんとっ!」
「そうして下さい。今の時期が一番、小忙しくないんですから…」
「そうさせてもらおう…」
舌牛は、自(みずか)らに小忙しくない、小忙しくない…と言い聞かせた。
中高年が小忙しいのは、どうも年のせいで、小忙しくない、小忙しくない…と思わないといけないようだ。^^
完
回転とは回ることだ。朝から何を言っとるんだっ! と怒られる方もあろうが、まあそういうことだ。^^ 世の中にこの回転がないと、どうも上手(うま)くいかない。この回転という言葉は、今風にはサイクルと呼ばれている。お金だって、天下の回りもの・・と言われるくらいで、回転している訳だ。と、いうことでもないが、今日の四方山話(よもやまばなし)は回転をテーマにした次第だ。^^
とある普通家庭である。ご隠居が庭でお隣のご隠居と垣根越しに話をしている。いつやらの短編集に登場したご隠居二人だ。
「ええ、そうですっ! 懐中時計の歯車の回転がどうも悪いらしく、遅れるんですわっ!」
「機械式でっ!?」
「はあ、祖父の代からの年代物で、明治らしいですっ!」
「ははは…それだけ古いと遅れもしますなっ!」
「ですなっ! これで十何回目でしたか…」
「今どきの…そうそう! クオーツとかはダメなんですかっ!?」
「はあ、ダメなんですな、これが…。どうも、私の性(しょう)に合わないっ!」
「遅れてもですか…」
「はあ、まあ…」
「遅れるといえば、景気の回転が今一ですなっ!」
「コロナの関係もあるんでしょうが、世の中に回転が欠かせません…」
「私、最近、物忘れしましてなっ! ここの回転が悪くなりました、ははは…」
片方のご隠居が人差し指で自分の頭を指さした。
「いや、それは同じですなっ! ははは…」
二人は笑顔で軽く会釈すると左右に分かれ、家の中へと戻(もど)っていった。
今日の七十六話は、世の中に回転は欠かせない・・という馬鹿馬鹿しい四方山話でした。^^
完
一歩、社会へ出れば、自分の思うようにばかりはいかない。まあ、いい…と妥協を余儀なくされる場合だってある。^^ 今日は昨日の雨も上がり、気分がいい秋の晴天に恵まれたのだが、今日はっ! と意気込んだ日に雨となる日だってある。こんな場合は我々にどうしようもなく、まあ、いい…別の日にしようとなる訳だ。天気だけは仕方がないのである。さて、七十五話の四方山話(よもやまばなし)は、そんな、まあ、いい…を題材にさせていただいた次第だ。
とある、どこにでもありそうな中堅会社である。課長の鼻田(はなだ)が係長の顎山(あごやま)に声をかけた。
「顎山君、昨日(きのう)の書類は出来てるんだろうねっ!」
「はあ、出来てはいるんですが、俄(にわ)かな機器の故障で…」
「コピー出来てないのか…」
「はあ、まあ…」
「まあ、いい…。コピーの部数が多いからなっ! それも仕方がない…」
「どうも…」
「いや、まあ、いい…。出来た書類はあるんだろっ!?」
「それが…、営業の耳川(みみかわ)君が他の書類と間違え、うっかり持ち出してしまいまして…。すみませんっ!」
「今、社内にないのか…」
「はあ、まあ…」
「まあ、いい…。一昨日(おととい)のヤツがあったろっ!?」
「それが…、いらないと思いまして、すでにシュレッダーに…」
「ないかっ! まあ、いい…。いや、よくないっ!! 弱ったぞっ! 部長が会議で使うからなっ! 配布資料のコピーはともかく、重役連中への説明資料がないとなっ!」
「どうも…」
「君は『はあ、まあ…』と『どうも…』ばかりじゃないかっ! どうするんだっ!!」
「はあ、まあ…。どうも…」
このあとの経緯を私は知らない。しかし、まあ、いい…も度重(たびかさ)なれば、よくないっ! となるのは確かなようだ。^^ 今日の七十五話は、まあ、いい…ような四方山話でした。^^
完