リオ五輪では「新しい日本人」による、日本らしさの勝利を見せてもらった。体操男子団体や陸上競技の男子400メートルリレー、競泳男子800メートルリレー、バトミントン女子、さらにお家芸の柔道である。
団体戦での戦いは、まさに日本人ならではの共助とバランスがあった。各々の選手が日夜鍛錬(たんれん)し、力をつけたことは間違いないが、それでも体格や筋力で劣る日本人は「劣位戦」を覚悟しなければならない。
その現実を見事に克服してみせたのが、陸上男子400メートルリレーでの銀メダルだった。出場した4選手の持ちタイムの合計では表彰台は無理と思われていたのが、抜群のバトンパスで他のチームを引き離した。
世界陸上のメダリスト為末大(ためすえだい)さんによれば、「日本チームの下手(したて)で渡すバトンパスは加速に優れた方式として15年ほど前から研究していた。今回はその集大成だ」という。
アンカー勝負で日本選手の真横のレーンを走っていたジャマイカのボルト選手も、日本のバトンパスに驚いたと率直に認めた。
100メートルを9秒台で走る選手が一人もいないのに、4人の合計タイムでは堂々の世界2位。個々の走力を補う日本人ならではのバトンパスの精度と相互の信頼感の勝利である。
体操男子団体は、1960年のローマ五輪から5連覇の偉業もあるが、リオはアテネ以来3大会ぶりの優勝だった。エースの内村航平選手は日本の伝統を「手足の指先まで神経が行き届いた美しい演技」にあるとし、それに磨きをかけた。
その美はアテネ五輪のエース富田洋之から内村へ、そしてその内村に憧れて努力を続ける最年少の白井健三へと引き継がれている。「美しい体操」は日本が確立した価値であり、世界がそれをめざしている。
内村選手は個人総合でも44年ぶり、史上4人目の連覇を達成した。内村はトップと0.901点差で迎えた最終種目の鉄棒で完璧(かんぺき)な演技を見せ、大逆転勝利を飾った。2位は0.099点という僅差(きんさ)でウクライナのオレク・ベルニャエフ選手だった。
メダリスト会見では世界大会8連覇の内村に対し、海外メディアの記者から「あなたは審判に好かれているのではないか」という意地の悪い質問が飛んだ。内村は「まったくそんなことは思っていない。みなさん公平にジャッジしてもらっている」と淡々としていたが、なんと銀メダリストのベルニャエフ選手が記者の質問に「審判も個人のフィーリングは持っているだろうが、スコアに対してはフェアで神聖なもの。航平さんはキャリアの中でいつも高い得点をとっている。それは無駄な質問だ」と不快感を示したのである。
銅メダリストのマックス・ウィットロック選手(英国)も、「(内村さんは)大変素晴らしい。彼は皆の手本だ。今日の最後の鉄棒の演技には言葉がない。クレイジーとしかいえない」と語り、ベルニャエフ選手も「航平さんを一生懸命追っているが簡単ではない。この伝説の人と一緒に競い合えていることが嬉しい」と賛辞を重ねた。
銀銅の両メダリストに挟まれた内村はただ恥ずかしそうに笑(え)みをたたえていたが、この会見は競技における勝利以上の友情とフェアネスを伝える結果になった。これも、世界の体操界が尊敬する内村航平の凄さである。
---owari---
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