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なぜスイスは第二次世界大戦中も中立を守れたのか

2018年10月18日 | 政治・経済

日本が国家として独立性、自主性を高めようとすると、「日本は再び軍国主義へと向かうのか」などと質問してくる外国の記者がいる。そんなとき、私はこう答えるようにしている。

 

「それはあなたたち次第です。日本は、相手が紳士的に振る舞う国であれば紳士的に付き合う。もし、野蛮な、理不尽なことを積み重ねてくるようならば、こちらもそれに応じて変化する。日本の軍国主義化を心配するというのは、あなたがたが日本に対して理不尽なことをしているという自覚があるからではないですか」

 

戦う覚悟と準備を持つことは必要である。それを発動するかどうかは相手と国際情勢による。覚悟と準備という視点から見れば、永世中立を宣言しているスイスは、平和愛好国のイメージから日本人には意外かもしれないが、「国民皆兵」を国是とし、徴兵制を採用している。

 

スイスは、なぜ第二次世界大戦中でも中立を守り通せたのか。

スイスは緊迫する情勢下、自国民に対して「侵略を受けたときは徹底して戦い、絶対に降伏してはならない」という法律を制定した。さらに開戦までにフランスやドイツから戦闘機を大量に購入し、またライセンス生産して航空戦力を強化した。

 

そして開戦と同時にスイスは国際社会に対して「武装中立」を宣言、侵略者に対しては「焦土作戦」で臨むことを決める。領土に侵入してくる他国の軍隊に対しては徹底的に戦い、領空を侵犯する航空機は連合国、枢軸国を問わず撃墜する。

 

こうしてスイス政府は最大で85万の国民を動員し、スイス空軍は自ら約200機を失いながら、連合国側・枢軸国側を問わず領空侵犯機を迎撃し、強制着陸させたり撃墜したりした。欧州全土が戦火に焼かれたあの戦争で、スイスはその国土を「実力」によって、戦うことによって守り抜いた。

 

軍隊を持つことは、戦争に対する最も有効な抑止力であり、戦争を仕掛ける準備だから保持しないと考えるのは幼稚でしかない。平和維持にはそれだけの覚悟と労力がいることを彼らは理解していた。

 

この歴史を持つスイスは、いまでも『国民防衛』(邦訳・原書房)という手引書を国内の全家庭に配布し、武器の備えと一定期間の軍事訓練を国民に課している。

 

『民間防衛』の(まえがき)でスイス連邦法務警察長官は、こう国民に語りかけている。戦後の日本人にとっては驚きであろう。

 

<国土の防衛は、わがスイスに昔から伝わっている伝統であり、わが連邦の存在そのものにかかわるものです。そのため、武器をとり得るすべての国民によって組織され、近代戦用に装備された強力な軍のみが、侵略者の意図をくじき得るのであり、これによって、われわれにとって最も大きな財産である自由と独立が保証されるのです。(略)

 

われわれの最も大きな基本的財産は、自由と独立です。これを守るために、われわれは、すべての民間の力と軍事力を一つに合わせねばなりません。しかし、このような侵略に対する抵抗の力というものは、即席にできるものではりません。(略)

 

われわれは、脅威に、いま、直面しているわけではありません。この本は危急を告げるものではありません。しかしながら、国民に対して、責任を持つ政府当局の義務は、最悪の事態を予測し、準備することです。軍は、背後の国民の士気がぐらついては頑張ることができません。(略)

 

一方、戦争は武器だけで行われるものではなくなりました。戦争は心理的なものになりました。作戦実施のずっと以前から行われる陰険で周到な宣伝は、国民の抵抗意志をくじくことができます。精神――心がくじけたときに、腕力があったとて何の役に立つでしょうか。反対に、全国民が、決意を固めた指導者のまわりに団結したとき、だれが彼らを屈服させることができましょうか。

 

民間国土防衛は、まず意識に目ざめることから始まります。われわれは生き抜くことを望むかどうか。――国土の防衛は、もはや軍にだけ頼るわけにはいきません。(略)

 

これが国防における現実感覚である。

 

---owari---

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