日本の文明力を支えてきたのは教育です。日本人は、江戸時代から外国の書物はどんな大金をふっかけられても買って読んでいました。そして、その本を学ぶと同時に、原本も大切に伝えてきました。だから世界中の昔から良い本は、多くが古本として日本に残っています。
世界中見渡してもこんな国はありません。
インドに行っても古いお経は木の葉に書かれたものが残っているだけです。中国に行ってもインドから買ってきたお経はありません。翻訳後は捨ててしまったからです。
この世界中の優れた文献が残っているということに加え、それらを日本語で読めるということがポイントです。
だから私は、渡部昇一先生から「将来の国際語はなんになると思いますか」と聞かれたとき、「それは日本語です」と答えました。
まあ、渡部先生は英語の専門家ですから、当然、英語になると思っていたのでしょう。しばらく考えていましたが、「そう言えば、かつて中世ヨーロッパでは知識人はみんなラテン語を学んでいたから、ラテン語がいわば国際共通語として通用したが、それが一夜にしてフランス語になったのだから、そういうこともあるのかもしれないね」と笑っておられました。
それはさておき、私は、日本の小さい子どもには日本語をきちんと勉強させるべきだと思います。
マレーシアのマレー大学に行ったときのことです。日本人が来ているから、お昼ごはんのときにテーブルスピーチをやってもらいましょうということになりました。
私は、「みなさんはロンドンに行って、学位を取ってきたでしょう」と振ってみました。マレーシアはかつてイギリスの植民地でしたから、当然、イギリスの大学に留学する人が多いだろうと思ったからです。
すると、みんな「そうです」と威張っています。次に「イギリス以外に留学した人はいますか」と聞いたら、ひとりもいない。
そこで、私はさらに聞きました。
「あれ変ですね。日本の大学生は、これまで英独仏、中国など世界中に留学してきて、そこの言葉がしゃべれるし、それらの国の文献を翻訳した人がいっぱいいるんですけど、マレー大学は英語だけなんですか」
すると、「そうだよ」と当然のような顔をする。「英語が完全にできて、イギリスで博士号を取っていれば、他に文句はなかろう」というわけです。
「それはダメですよ。イギリスが世界一だったのは百年も前の話です。日本人は英語の本を全部翻訳した。それどころかローマの本もギリシャの本も中国の本もインドの本も、全部日本には翻訳がある。だからみなさん、外国語をひとつで済まそうと思うなら、日本語が一番いいですよ」と私は言いました。
日本語ができたら世界中のこと、古今東西全部わかるのですから。
だいたい英語の本ではイギリスの悪口を書いたのがありません。が、日本語の本には日本の悪口を書いた本がたくさんあります。実はそれこそすばらしいことなのです。
(日下公人著書「『日本大出動』トランプなんか怖くない(2016年6月発刊)」から転載)
---owari---
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