㉓今回は「作家・津本陽さん」によるシリーズで、豊臣秀吉についてお伝えします。
このシリーズは今日で終わりです。
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秀吉が利休を切腹させたのを、ほどなく後悔したといういい伝えがある。彼が生涯のうちに悔いたおこないが五件あり、そのひとつであるという。
秀吉にとって、諸国大名が大坂城へ伺候(しこう:貴人のもとへ参上して御機嫌うかがいをすること)したとき、天下一の茶匠である利休に茶をたてさせるのが、このうえもなく晴れがましく誇らしい饗応(きょうおう:酒や食事を出して人をもてなすこと)であった。
利休のようなかけがえのない人物を死なせたのは、彼が秀吉に追随せず、いわれるがままにふるまわなかったためである。
だが、秀吉は利休を死なせてみれば、彼によってどれほど自分に威厳(いげん)が添っていたかを思い知らされる。
彼は利休の死後も利休好みの茶事をおこない、故人を偲んでいたかのようである。
(小説『夢のまた夢』作家・津本陽より抜粋)
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