ウクライナ情勢が緊迫してきたため、ロシア情報に詳しい国際関係アナリスト・北野 幸伯さんの解説を急遽、掲載させていただきます。
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全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは! 北野です。
アメリカ、イギリス政府は、在ウクライナ大使館に退避命令を出しました。
「ロシアによるウクライナ侵攻の可能性が高まっている」
というのがその理由です。
アフガニスタンの「撤退作戦」失敗を教訓にしているのでしょう。
「ウクライナ侵攻・・・」
いつの間にか、世界情勢ニュースのトップになりました。
しかし、
「プーチンは、なぜウクライナに侵攻したいのだろう?わけわからん 」
と疑問に思っている人がほとんどではないでしょうか?
そこで、この問題を基礎から解説します。
・プーチンが、アメリカに激怒しつづけている理由とは?
・18年怒り続けているプーチン。だが、なぜ【今】ウクライナ国境に大軍を集結させたのか?
中国情勢との意外な関係とは?
・ウクライナ侵攻決断なら、プーチンの目的は?
過去の事例から推測できる、「侵攻後」のウクライナ
・アメリカの対応は?
「●●取引ができなくなる!」という脅しは、プーチンを思いとどまらせることができるか?
・そもそもクリミア併合の欧米日の制裁には、効果があったのか?
などなど。
いまや、「いまさら聞けない」状態になっている「ウクライナ問題」。
以下を読めば、10分ぐらいで必要十分以上な知識が身につきます。
ご一読ください。
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(ウクライナ情勢でプーチンが憤っている理由)
「ロシア軍約10万人がウクライナ国境に集結」と報じられたのは、昨年11月のことだ。
米国、NATOを巻き込むロシアとウクライナの対立は、「唐突に」起こったように思える。
しかし、この問題、実は30年以上続いているのだ。
1945年、第2次世界大戦が終わり、米ソ冷戦により世界は米国資本主義陣営とソ連共産主義陣営に分かれて争うことになった。二つの陣営の境界線になったドイツは、米国陣営の西ドイツ、ソ連陣営の東ドイツに分断された。
しかし、1985年にゴルバチョフが登場すると雰囲気は一変。
ソ連式の限界を悟った彼が、経済、政治、言論の自由化を一気に進めたことで、ソ連とその衛星国群だった東欧に「自由の風」が吹き始めた。
1989年、東西ドイツを隔てていた「ベルリンの壁」が崩壊。その後、「東欧民主化革命」が起こるが、ソ連はこれを黙認している。そして1990年には「東西ドイツを再統一しよう」という機運が高まっていった。
東ドイツは当時ソ連の勢力圏にあったため、米国はゴルバチョフに「東西ドイツ統一を許可するか」と尋ねた。
これに対し、ゴルバチョフは許可のための一つの条件を提示した。
「NATOを統一ドイツより東に拡大しないこと」だ。
そして米政府は、それを快諾した。
その後、1991年12月にソ連が崩壊し、冷戦が終結。
新生ロシアの時代がはじまると、米国はゴルバチョフとの約束をあっさり破った。
1999年、東欧のチェコ、ハンガリー、ポーランドがNATOに加盟した。
3国は、かつてロシア(ソ連)の勢力圏にあった国々だ。
ロシアは、大きな衝撃を受けた。
そして2004年、同じく東欧のスロバキア、ルーマニア、ブルガリア、スロベニアがNATOに加盟。
さらに、この年にはバルト三国、つまりリトアニア、エストニア、ラトビアも加盟している。
バルト三国は、かつてソ連の一部だった。
ロシア人は「ソ連=拡大ロシア」と考えている。
そのため、バルト三国のNATO加盟は、「かつて自国の一部だった地域が反ロシア軍事同盟に参加した」と受け止められた。
当時すでに大統領だったプーチンは、この時からずっと、約束を破った米国を憎んでいるのだ。
冷戦崩壊時、反ソ連軍事同盟のNATO加盟国は16カ国だった。
それが今では、30カ国まで拡大している。
しかも、米国には拡大を止める気がなく、今度はロシアの西の隣国で旧ソ連国のウクライナ、南西の隣国で同じく旧ソ連国ジョージアをNATOに加盟させようとしている(ただし、「今すぐ加盟させる」という話にはなっていない)。
これが実現すると、ロシアとNATOの間に「緩衝地帯」がなくなってしまう。
これは、ロシアにとって大きな脅威となる。
プーチンは、言う。
「ウクライナがNATOに加盟すれば、モスクワを5分でミサイル攻撃できるようになる」と。
そう考えれば、プーチンの憤りにも「一理ある」といえる。
(ウクライナ国境に大軍をなぜ「今」集結させたのか)
しかし、「なぜ今大軍を集結させているのか」を理解するのは難しい。
筆者は、「米中覇権戦争が激化していることと関係がある」と考えている。
どういうことか?
現在、中国による台湾侵攻の可能性が取り沙汰されている。
プーチンは、「米国は、中国との戦いに資源を集中させたいはずだ。ウクライナまで手が回らない」と考えたのだろう。だから、「今なら米国から譲歩を引き出せる」と。
ここで言う「譲歩」とは、「ウクライナをNATOに加盟させない法的保証」のことだ。
「この要求をのめばウクライナに侵攻しないが、のまなければ侵攻するぞ!米国は、ロシアと中国、両方と戦えないだろう」と。
昨年12月8日、バイデンとプーチンのオンライン首脳会談が行われた。さらに今年1月10日~13日にかけて、米ロとNATO-ロシアの協議が開かれた。
しかし、合意には至っていない。つまり、米国もNATOも、「NATO不拡大の約束」をしなかったのだ。
理由は、「NATOに加盟するかどうかは、ウクライナ自身が決めるべき問題だから」だ。
(ウクライナ侵攻によるロシアの狙い)
プーチンは、「ウクライナをNATOに加盟させない法的保証を得る」という目的を達成できていない。
そのため、現在、ロシアによる「ウクライナ侵攻」の可能性が高まっている。
もしも侵攻した場合、ロシアは何を目指すのか?
それを知るためには、近年のウクライナ情勢について振り返るべきだろう。
ウクライナでは2014年2月、革命が起こり、親ロだったヤヌコビッチ政権が倒れ、親欧米新政権が誕生した。
すると翌月の2014年3月には、ロシアがウクライナからクリミアを奪った。
そして2014年4月、ロシア系住民が多いウクライナ東部のルガンスク州、ドネツク州が独立を宣言。ウクライナ新政権は、当然独立を認めず、内戦がはじまった。
これは、新政権を支援する欧米と、ルガンスク、ドネツクを支援するロシアの「代理戦争」だ。
2015年2月、ロシア、ウクライナ、ドイツ、フランスの首脳によって「ミンスク2停戦合意」が成立。以後、ルガンスク、ドネツクは、「事実上の独立状態」にある。
だが、ロシアが併合したクリミアとは違い、ウクライナがルガンスク、ドネツク奪還に動く可能性は残っている。ウクライナ政府にとって、ルガンスク、ドネツクは自国領なので、当然だろう。
ロシア軍がウクライナに侵攻すれば、その目的は「ルガンスク、ドネツクのウクライナからの完全独立を達成すること」だろう。そして、事実上、ロシアの属国となる。
実をいうと、ロシアは過去に同じようなことをしている。
2008年8月、ロシア・グルジア戦争が勃発。勝利したロシアは、その後グルジアからの独立を目指すアプハジア、南オセチアを国家承認したのだ。
今回も、ロシア軍は、ウクライナ軍との戦いに勝利し、その後ルガンスク、ドネツクを国家承認する可能性がある。
そして、「両国からの要請」ということで、ロシア軍が常駐し、ルガンスク、ドネツクを前線基地として、ロシアは常にウクライナとの緊張を保つことになるだろう。
ロシアの目的は何か。
NATOには、「集団防衛義務」がある。
もし、ウクライナがNATO加盟国となり、ロシアと戦闘になれば、他の加盟国は自動的にロシアと戦争状態に突入する。
だが、ロシアとの戦争を望む欧州諸国はないだろう。
つまり、ロシアがルガンスク、ドネツクを使ってウクライナとの緊張を保つことで、ウクライナのNATO加盟を阻止できるというわけだ。
(ウクライナ侵攻でロシア経済は大打撃)
一方、米国は、どう動いているのか?
米軍もNATO軍も、ウクライナ軍と共にロシアと戦うつもりはない。
理由は、ウクライナがNATO加盟国でないからだ。
つまり「集団的自衛権」の対象ではない。
しかし、米国は、すでに大量の武器、弾薬をウクライナに送っている。
そして、バイデンは、ロシアがウクライナに侵攻すれば、「まだ目にしたことがない制裁を科す」とし、また、「ロシアの銀行は、ドル取引ができなくなる」とも述べている。
この脅しに、効果はあるのだろうか?
実をいうと、クリミア併合後の欧米日による経済制裁は、かなり効果があった。
ロシアは2000年から08年まで、年平均7%の経済成長を続けていた。
しかし、クリミアを併合した2014年から2020年まで、制裁の影響で、成長率は年平均0.38%まで落ち込んでいる。
プーチンがウクライナ侵攻を決断すれば、より強力な経済制裁が科され、ロシア経済は壊滅的打撃を受けるだろう。
侵攻の結果、ウクライナは領土の一部を失う。
だが、ロシアは世界的に孤立し、経済は破綻しかねない状況となる。
まさに「LOSE-LOSE」だ。
プーチンが愚かな決断を下さないことを願う。
---owari---
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