金融主導のグローバリズム経済の直撃を受けたのが、アメリアでは白人中間層の労働者たちだった。そもそも経済のグローバル化を称揚(しょうよう)する国際金融資本や多国籍企業にとって、国境はまったく関係ない。
彼らは事業を展開する国々の歴史伝統や習慣には関心がなく、尊重する気もない。むしろビジネスの障壁(しょうへき)と考えている。
安い労働力を確保できるなら国籍は問わない。極端にいえば不法移民でもかまわない。それなら、なおのこと低賃金で社会保障も考えなくて済む。
トランプ氏は選挙戦で、アメリカ社会の中核である白人中間層の職を奪う自由貿易協定の破棄や移民排斥(はいせき)を訴えて支持を集めたが、それはこうしたグローバリズムを推し進める存在への反発をすくい上げる政治家がこれまでいなかったからである。
グローバル企業はメディアに大きな影響力を持っている。トランプ氏の過激な発言は、そうした構造に風穴を開け、マスメディアに現れない「民意」を刺激しようとするものだった。大衆の感情に訴え、挑発し、煽動したのは一種の計算だったと私は見ている。
先の大統領選挙において、アメリカの大手メディアのほとんどがヒラリー・クリントンを支持したが結果は、トランプ氏の勝利だった。
象徴的だったのは、ビル・クリントン元大統領が初当選した1992年以来、民主党が勝ち続けている「ラストベルト」(さびた工業地帯)のミシガン、ペンシルベニア、イリノイ各州のうち、ミシガンとペンシルベニアをトランプ氏が獲得したことである。
これは白人中間層が、金融資本が主導する経済の在り方に「NO」を突きつけ、「モノづくり」の復権を求めたともいえる。
また、アメリカの若者の多くは奨学金で大学に進学し、卒業後にそれを返済していくというのが普通だった。授業料は高額で、日本のように親に頼って大学や大学院に進むのはかなりの富裕層である。
たとえばハーバード大学を卒業するには、学部にもよるが、約3000万円が必要だとされる。ところが、その奨学金ローンの金利が上がっている。2015年の卒業生1人当たり学費ローンの平均は約3万5千ドルだという。普通の労働者階級の子弟ではよほど成績優秀で返済義務のない篤志家(とくしか)の奨学金にでもありつかないかぎり、高等教育は受けられない。
うまく大学を卒業して就職できたとしても、大変な借金を抱えることになる。日々の生活がままならない若者が増えているので「利付奨学金」という仕組みができたが、貸した側は貸し倒れになりかねない。そこで金融機関は奨学金の返済は給料から優先的に徴収できるという法律の制定を働き掛けて成立させた。
---owari---
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